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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
第五章 残虐無情のクリミナル
30/65

LV.029 レムの過去を聞きました

《!CAUTION!》 残酷描写が御座います。ご注意ください

 食事を終え、後片付けを終えた後。

 俺はそれとなしにレムを森の奥へと呼び出した。


 大丈夫。

 俺には《命令の力》がある。

 俺の予想ではレムはもう一人の《命令士》ではない。

 彼女が命令士だとしたら、こんなに易々と俺の命令を受け入れるはずが無いのだから。


「どうしたの? こんな人気の無い所に呼び出して」


 俺の後を付いて来ながらも小首を傾げるレム。

 大丈夫。

 ここまで来れば、他の奴らには気付かれない。


「……なあ、レム。ひとつだけ聞いても良いか?」


「? なあに?」


 彼女に聞いておきたい事。

 それは『もう一人の命令士』の存在を知っているかという事。

 もしくは――。


 ――命令士の共犯者なのではないか・・・・・・・・・・という事。


 彼女の目をじっと見つめる。

 琥珀色の透き通った瞳。

 俺の事を疑いもしていない、純粋な瞳に見える。

 だが――。


 俺は彼女を《ゆうわく》する。

 自身の目的を達成させる為。

 もう一人の命令士が誰なのかを暴き、制裁する為。


「レム。お前は、俺の虜になれ・・・・・・


「え――」


 琥珀色の瞳にわずかながら疑念の色が映し出される。

 しかし次の瞬間、世界はまた白黒に。

 そしてぐにゃり・・・・と歪み、時間が止まる。


「私……あれ……? どうして……?」


 時が動き出す。

 困惑の表情のまま、微動だにしないレム。

 そして俺は彼女に一歩、また一歩と近づく。


「ア、アルル……。貴方……私に何か……」


「レム」


 後ずさりをしようと、レムが一歩後退する。

 が、上手く身体が動かせなかったのか。

 そのまま足を滑らせ落ち葉の中へと転倒してしまう。


 ふわりと舞う落ち葉に沈むレム。

 心と身体の齟齬に思考が追いつかないのか。

 さらに困惑の表情に変わる。


「嫌……違う……。私、アルルの事なんか――」


「なあ、レム」


「ひっ――」


 そのまま倒れた彼女に覆い被さるように顔を近付ける。

 目を背けるレム。

 少し顔が高揚している。


 《ゆうわく》。

 彼女は既に、俺の虜――。


 優しく彼女の髪を撫でる。

 びくっと肩を揺らすレム。

 そして俺はそっと彼女の耳元で《ささやく》。


お前は・・・命令士か・・・・?」


 世界の時間が停止する。

 白黒に変わり、俺の物となる瞬間。


「あ……ん……! ち、違う……んっ……私は……命令士、なんかじゃ……!」


 やはり彼女は命令士では無い。

 ならば別の質問だ。

 だがその前に――。


「ん……!」


 彼女の唇を奪う。

 しかしレムは抵抗しない。

 寧ろ自身から俺の口内を求めて来る。

 貪る様に。

 俺の舌を求めて来る。


 俺は彼女の求めに答えてやる。

 身も心も俺の物とする為に。

 命令士の共犯者であったのならば、そいつを裏切り、俺に協力させる為に。


「アルル……!」


 彼女が俺の名を呼ぶ。

 俺は優しく頷く。

 涙を流し、歓喜の表情となるレム。


 これで良い。

 これで、良いんだ。


 元々奴隷だった彼女は、こういう行為にも慣れているのだろう。

 あとは彼女に任せよう。


 俺はきっと救ってみせる。

 俺なら出来る。

 ティアラがいなくたって、《命令の力》を手にした俺ならば――。





 行為が終わり、そっと俺の頬に口づけをするレム。

 そして俺は質問する。


「レム。お前は過去に命令士に会った事があるか?」


 長年奴隷だったレムならば、様々な富豪に買われていたはず。

 その中で命令士との面識があった可能性もある。


「いいえ……。私は命令士に会った事もなければ、買われたことも無いわ」


 俺の質問の意図を察知したのか。

 先回りし回答するレム。


「……悪い。嫌な事を思い出させちまったな」


「いいのよ。ダークエルフ族はそのほとんどが奴隷出身だもの。私だって物心ついた時には既に奴隷として買われていたわ」


 ぽつりぽつりと身の上話を始めるレム。

 俺に心を許している証拠だろう。

 彼女の話に耳を傾けながらも、優しく髪を撫でる。


「本当に酷い事も沢山されたわ。口が裂けても言えないような事ばかり……。何度願ったことかしら。『こんな世界なんて崩壊してしまえば良いのに』って」


 世界の崩壊。

 確か魔王ルージュも似たようなことを言っていた。

 前魔王が勇者ユフィアにより倒され。

 《霊媒師》と《命令士》により書き換えられた歴史・・・・・・・・・の事を。


 ダークエルフ族と魔族は同じ様な立場に立たされているのだろうか?

 世界を憎み、人間族を憎み。

 種族の為に復讐の炎を燃やす鬼と化す立場に――。


「……どうしてレムは俺達のパーティに入ってくれたんだ?」


 当然の疑問を口にする俺。

 彼女を長年奴隷として買っていたのは、人間族の富豪達だったはずだ。

 俺もアーシャもミレイユも人間族なのに、彼女は俺達のパーティへと入隊した。


「どうしてって……。アルルは知らないの? 私がパーティに入った経緯を……」


「え?」


 経緯?

 俺が知っているのは、旅の途中でギルドから要請があって。

 街に向かい魔王軍の襲来に備えていた際に、アーシャがスカウトしたと聞いていたが……。


「デボルとシュシュよ。竜人族と獣人族である彼女達が私に声を掛けてくれたの。アーシャは信頼できる子だって」


「あいつらが……レムをスカウトしたのか」


 俺はどこで情報を聞き違えたのだろう。

 しかし少し考えたら気付いていたはずだ。

 人間族を恨んでいるはずのレムが俺達のパーティにすんなりと入隊するはずが無い。

 アーシャからのスカウトだったのならば、彼女はきっと断った筈だ。


「ダークエルフ族は竜人族と獣人族に返しても返しきれないくらいの『恩』があるわ。もう何百年も前の話だけど、先の《種族戦争》に似た争いが幾度と無く絶えなかった時代。その頃に種族絶滅の危機を救ってくれたのが竜人族と獣人族なの」


 嬉しそうにそう話すレム。

 確かに聞いた事がある。

 世界中で起こっていた《種族戦争》の最中、絶滅の危機を何度も乗り越えてきたダークエルフ族の話を。


「ふふ、何だか不思議ね。貴方にこういう話をするなんて」


 起き上がり、仰向けに寝ている俺に跨るレム。

 月明かりに照らされた彼女の色黒の裸体。

 何故か少しだけ自己嫌悪に陥り、目を逸らしてしまう俺。


「そういえば、知ってる? アルル」


「? なんだ?」


 再び行為を再開させようとしていたレムが話題を振る。


「デボルとシュシュの秘密」


「秘密?」


 なんだ?

 彼女達に秘密?


「ええ。彼女達の特殊能力。《竜化》と《獣化》の事なんだけど、あの能力を発現させると、ある一定の条――――」


「?」


 突如、言葉を停止するレム。

 俺の目を見つめたまま。

 しかし、焦点が俺の目に合っていない。


「……レム?」


 彼女の琥珀色の瞳が、徐々に色褪せていく。

 なんだ――?


「アルル……………………ごめんなさい」


「え――」


 彼女は両手を自身の両耳に当てる。

 何故、謝る?

 何故、涙を流――。



ごぎぃっ!!



 歪な、不快で、大きな音が、森に響いた。


 そして落ち葉の上に倒れ込むレム。


「レ……ム……?」


 返事が無い。

 俺は震える手で彼女の肩に手を掛ける。

 まだ温かい彼女の身体。


「スイッチ……?」


 同じだ。

 ナユタの時と、同じだ。


 彼女の『スイッチ』は『ローサの告白』だった。

 そしてレムの『スイッチ』は――。


「……《竜化》と《獣化》の……秘密……?」


 レムが俺に話そうとしていた秘密。

 それがナユタの時と同じく、自害命令を・・・・・発動させるための・・・・・・・・スイッチとなった・・・・・・・・――?


 俺は身体の震えを押さえ込むように起き出す。

 レムも命令士では無く、共犯者でも無かった。

 ただ利用されていただけの駒に過ぎなかったのだ。


 利用――?

 一体、何に・・利用されているのだ・・・・・・・・・

 俺の目の前で、自害させる事に何の意味が――。


「う……」


 強烈な吐き気を覚え、眩暈を堪える。

 駄目だ。

 これも罠だ。

 俺の心を侵食し、崩壊させ、得をする人物がいる――。

 

 誰だ?

 俺の敵は、誰だ――?



 俺はその場を立ち去る。

 首が反転し、息をしなくなったレムを置いて。

 彼女の死を悼む暇も無く――。


 ただただ俺は、俺自身の敵が誰なのかを考え――。

 

 ――月明かりに照らされた森を足早に去った。


















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