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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
第五章 残虐無情のクリミナル
31/65

LV.030 ティアラに再会できました

《!CAUTION!》 残酷描写が御座います。ご注意ください

 誰だ。

 誰だ。

 誰だ――?


 俺の敵は、誰だ?

 俺の心を惑わす奴は、誰だ――?


「アルル?」


 いつの間にか森を抜け、荒野に出た所でシュシュと出会う。

 こんな所で何をしている?


「……何なのニャ。そんな神妙な顔をして」


「……」


 鼻水を啜りながらもそう答えるシュシュ。

 泣いていたのか?

 仲間の死を悼んで?


 俺は何も答えずにシュシュの傍へと寄る。


「この匂い……。アルル……レムと一緒にいたのかニャ?」


「……ああ」


 鼻の効く獣人族のシュシュに嘘を言っても仕方が無い。

 俺は正直にそう答える。

 そして死の間際のレムの言葉。

 『竜化と獣化の秘密』。

 一体秘密とはなんだ?

 何故、それがレムの『自害命令』のスイッチとなったのだ?


「……なあ、シュシュ。教えてくれ。レムを俺達のパーティに誘ったのは、お前とデボルなのか?」


「? どうしたのニャ? 急にそんな事……。そうニャ。あの魔王軍の襲来の時に、人間族の富豪の下で奴隷戦士をしていたレムを誘ったニャ」


「金は? 引き抜くにしても金が必要だっただろう? あの時の俺達はかなりの金欠だったはずだ」


「う……。それは、だニャ……」


 返答に詰まるシュシュ。

 富豪から奴隷を引き抜くには、最低でも10万Gは必要だったはず。

 あの頃の俺達のパーティは全財産をかき集めても、せいぜい1万かそこらしか持っていなかったと記憶している。


「……答えなきゃ駄目かニャ……?」


「……教えてくれ、シュシュ。おねがいだから(・・・・・・・)」


 静止する世界。

 白黒の世界。


「……分かったニャ。アルルのお願いじゃ、仕方がないのニャ。実は『契約』を交わしたのニャ」


「契約?」


 何の契約だ?

 レムを引き抜く為に、契約を交わした?


「そうニャ。私の《獣化》とデボルの《竜化》。この力を人間族の富豪に(・・・・・・・)売った(・・・)のにゃ」


 売った……。

 力を、金で――?


「勿論、全部の力を金で売ったわけでは無いニャ。いわゆる《召喚》というやつニャ。アルルも《召喚石(サモンズ・ストーン)》は知っているのニャ? あれに私の魂とデボルの魂を埋め込んで、売ったのニャ。1個5万Gでニャ」


 《召喚石(サモンズ・ストーン)》。

 召喚士(サモナー)という職業の者が作り出す事が出来るという、魔力の篭った石。

 ある一定の条件の下で、その石に込めた魔獣を召喚することが出来る魔法石。


 これが、彼女達の秘密?

 レムの『自害命令』のスイッチとなった、秘密――。


「…………はっ! ……あれ? 私いま、一体ニャにを……」


 命令の力より目覚めるシュシュ。

 当然、今話した内容の記憶は無い。


 レムを買っていたという富豪。

 デボルとシュシュの《召喚石(サモンズ・ストーン)》とレムの奴隷権利書の交換(トレード)。

 どうしてそこまでしてシュシュ達はレムを引き取ったのだ?

 彼女らに恩があるのはダークエルフ族であるレムの方だろう。


 まだ、俺の知らない事がある。

 俺の知らない『真実』が、答えが、そこに――。


「なあ、シュ――」


 彼女にもう一度《命令の力》を使おうとしたその時。

 横腹に激痛が走った。


 なんだ?

 血――?

 どうして、横腹から血が――?


「……アルル……どうしてニャ?」


 そのすぐ横にシュシュの顔があった。

 口元を赤く濡らして。

 俺の衣服が口元にこびり付いている。

 腹の肉と皮もろとも、こびり付いている。


 シュシュに、横腹を、食い千切られた――?


「どうして、どうして、ローサとナユタを、殺したのニャ?」


 鈍い痛みが徐々に全身を襲う。

 血が、止まらない。

 シュシュはクチャクチャと音を立てながら、光の無い目を俺に向け、

 俺の横腹の肉を咀嚼している。


「シュシュ……お前……」


 眩暈がして崩れる様に片膝を突く。

 あの光の無い目……。

 あれは命令の力が(・・・・・)発動したときの目だ(・・・・・・・・・)。

 

 何処でスイッチが入った?

 彼女に掛けられていた《命令》は、俺の殺害か(・・・・・)――?


「答えるニャ。どうして、アルルは、お前は、レムを殺したのニャ?」


「俺は……」


 俺が、殺したのか?

 ローサもナユタもレムも。

 俺のせいで、彼女達は――。


「答えるニャ、アルル。どうして、お前は、私も――――」


 肉を飲み込んだシュシュは口元を拭い。

 今度はまた泣きそうな顔に変化し。

 最後に(・・・)こう言った。


「――――殺すのニャ?」


「やめ――」


 彼女に手を伸ばす。

 でも遅かった。

 彼女は獣化させた右手を自身の胸に刺した。

 ずるり(・・・)、と嫌な音が鳴り響く。


 彼女は自身から取り出したそれを高々と挙げ――。

 天に何かを懇願するように――。


 ――絶命した。



◇



 腹部を押さえながらも考える。

 血が止まらないが、脳内はグルグルと同じ言葉が回り続ける。


 誰だ。

 誰だ。

 誰だ。


 俺の敵は、一体誰なんだ――。


 自身の心臓を取り出し、絶命したシュシュ。

 何故こんな惨い死に様を、俺に見せつけるのだ?

 

 ローサの死を。

 ナユタの死を。

 レムの死を。

 シュシュの死を。


 何故俺は、眺めている事しか出来なかったのだ――?


 精神が、崩壊しそうになる。

 もう、いい。

 誰か、誰でも良い。

 助けれくれ。

 俺を、助けて――。


『…………ルル…………』


 遠くから何かが聞こえる。

 幻聴か?

 意識が落ちそうになる。


『…………ア…………ルル…………』


 あれは?

 あの声は――?


「……ティアラ……」


 荒野の向こうから凄いスピードでこちらに近づいて来る。

 ふざけた女。

 霊媒師ティアラ・レーゼウム。


『ワシ登場おおおおおおおおおお! アルル! 会いたかったぞい!』


 いつもの調子で叫びだすティアラ。

 何なんだよ、一体。

 お前、今までどこをほっつき歩いてたんだよ。

 俺がどんな思いで今までいたと思っているんだ。


 言いたい事はいっぱいある。

 でも、今は――。


『うおっ! なんじゃアルル! 怪我しているではないか! ……ていうか仲間が死んどるぞ!? どういう事じゃ! ……おっと、その前に……《ヒール》!」


 俺の全身を淡い緑色の光が照らし出す。

 みるみるうちに血が止まり回復する。


「おい、ティアラ。お前今まで一体何処に――」


 立ち上がり、ティアラに声を掛けようとした所で、眼前の空間に穴が開いた(・・・・・)。

 現れたのは――。


「やはり戻って来たか。思ったより早かったな」


『!! お前は……魔王ルージュ!!』


 俺とティアラの間に立つ様に現れたルージュ。

 やはり監視していたのか?

 俺とティアラの接触を危惧して――?


『まさか……アルル? お主、ワシに《命令》を……?』


「……」


 事態を一瞬にして飲み込んだ様子のティアラ。

 心が、痛む。

 騙していたのは俺なのか。

 それともティアラが俺を騙しているのか。


『くっ……! 小汚い真似をしおって……! 魔王ルージュめ……!』


「何を言っている。我はアルルと契約を交わしたのだぞ? パートナーとなる為の契約――。《霊媒師(ミスティック)》と《命令士(コマンダー)》の暗躍の歴史を覆す為、我とアルルは――」


『嘘を言え! そんな暗躍など存在せんわ! 目を覚ませアルル! お主はこやつに騙されておるだけじゃて!』


 騙されている――?

 誰が、俺を騙している――?

 俺は、どちらを信頼したら良い――?


『アルル!』

「アルル」


 同時に二人が俺に手を差し伸べる。

 分からない。

 何も、分からない――。


『くっ……! 魔王ルージュ……! 《偽りの魔女》という通り名は本物じゃったか……!』


 杖を取り出し臨戦態勢に入るティアラ。


「ふん、人聞きの悪い。やはりお前とは決着を付けねばならん様だな」


『笑止……!』


 俺は、ただ見ているだけ。

 何も、出来ない。

 何も、変わっていない。


 何が真実で何が嘘なのかも見極められない。

 あの時と同じだ。

 ユフィア姉さんを置いて、逃げ出したあの時と――。



◇




「アルル。すまんが借りるぞ」


 何かを詠唱するルージュ。

 突如俺の背後に魔剣ニーベルングが出現する。

 彼女の魔法により隠されていた事にも気付かなかったのか。

 その大きな剣を抜き、ティアラに向かい切っ先を向けるルージュ。


『魔剣ニーベルング……! 良いじゃろう! 相手に不足は無いわ!』


 詠唱を始めるティアラ。

 詠唱を断ち切る様に魔剣を振るうルージュ。


『《玄翁(とんかち)》!』

「《ダーク・ソウル》」


 力と力。

 技と技がぶつかり合う。


『《梔子(くちなし)》!』

「《デビル・スクリーム》」


 二人の戦いが目で追えない。

 結局、俺には何も出来ない。

 

 どちらに加勢する事も。

 真実を暴く事も。


 もう、疲れた。

 俺の事は放っておいてくれ。

 疑う事も信じる事も、もう疲れた。


 楽になりたい。

 何も考えず、ただただ楽になりたい。


『アルル……! ワシは信じておるぞ……! お主は世界を救うのじゃ!』


 ティアラが戦いながらも俺に声を掛けてくる。

 もういい。

 もう、やめてくれ。

 俺に期待しないでくれ。


 期待なんて、重荷にしかならないんだよ。

 だから俺は逃げ出したんだ。

 世界中の『期待』から。

 ユフィア姉さんの、アーシャの『期待』から。


『アルル……! もう気付いていると思うがの……! ワシはお主に――』


 もういい。

 聞きたく無い。

 ティアラが俺に気があったとしても、それは俺が《命令士》だからだ。

 勘違いなんだよ。

 それは恋じゃない。

 ただの、勘違い。

 嘘で塗り固められた、茶番。


「《シルバー・レイン》」


 休む事無く攻撃を続けるルージュ。

 彼女の行動は一貫している。

 動揺しているティアラとは両極端な行動。

 そして――。


『くっ……! アルル……! ワシは本気じゃぞ……! お主が……お主という人間が……ワシは……ワシは……!!』


「無駄吠えを」


 一瞬の隙を付き、無慈悲にも魔剣を振り下ろすルージュ。

 そして一瞬の静寂。

 ティアラの全身が淡い光に包まれて――。


「あ――」


『――――ワシは、おぬしの事を――――』


 最後まで俺に手を伸ばし。

 

 そしてティアラは――。



 ――俺の目の前から消滅した。


















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