1.乙女ゲームのヒロイン、リリー
私の名前はリリー・ロックベル。
桃色の髪と目はアルトゥール国内でも珍しく、私の自慢だ。
でも、一番の自慢はこの容姿
大きな、くるりとした目、シャープな顔立ち。美人よりは可愛いと評されることが多いけど、だからって子供っぽい顔ではない。
ちゃんとした淑女の顔立ちをしているし、細身だけど出るところは出ている大人の女性だ。
そういうところを含めて、全てが魅力的な存在。それが私だった。
ただ一つ不満があるとすれば身分だ。
子爵令嬢なんて、下から数えた方が全然早い。私には似合わない身分だ。
もちろん、両親には感謝している。
私がこんなに可愛く生まれたのは全て両親のおかげだ。それでも、不満が生まれるのは仕方がない。
だけど大丈夫!
私はこの顔と持ち前の聡明さで玉の輿を狙うから。
もちろん、私を可愛く産んでくれた両親にもちゃんとおこぼれをあげるわ。
それが親孝行というものでしょう。
私ってね、見た目だけではなく心も綺麗なの。
それにね、もう一つ私には特別な秘密があるの。これは、誰にも言っていない、私だけの秘密よ。
それはね、私には前世の記憶があるの。
私はこことは違う、日本というここよりも文明が遥かに発達した世界で生きていた。
だけど、病弱で学校にはほとんど行けなかった。
それは大人になっても同じ。三十歳になっても病弱は変わらず、働くこともできないの。
可哀想でしょう。
そんな可哀想な私を両親や兄、姉妹が面倒を見てくれた。
両親は私のことをよく理解してくれて何でもしてくれたし、何でも買ってくれた。
だって、まともに働けないんだよ。可哀想でしょう。
だけど、兄と姉妹は理解力が乏しいみたいで私のことを蔑んだ目で見るの。
「いい歳なんだから、病弱を言い訳にしてないで少しは働けよ」
「どうして自分で稼いだお金を何の苦労もしていない妹に渡さないといけないの」
「ニートの姉がいるなんて恥ずかしい」
とか言うんだよ。酷いよね。私だって、好きで家にいるわけじゃないのに。働けるものなら働きたいよ。でも、体が弱いんだから仕方がないじゃない。
だけど、うるさいから仕方なく仕事を探すことにした。でも、病弱で、結構休んでしまうから周りに嫌われちゃうんだよね。
「本当に体が弱いなら仕方がないけどさ、実際に弱いのかもしれないけど」
「でもさ、明日絶対に休むよね。って予想できる休みってさぁ、もう病弱じゃなくて仮病でしょ」
「だよねぇ」
とか、陰で言われたらさ行きづらくなっちゃうよね。誰も私のことを理解してくれないの。そんなんじゃあ、仕事もしづらくなって、辞めちゃうのは仕方がないよね。
すると、兄や姉妹は「また辞めたのか?」「どうして真面目に働かないの?私たちの収入を当てにしないでよ」「私、結婚を考えてるの。だからお姉ちゃんの面倒を見続けるなんて無理よ」とか言うのよ。
それでも家族なのって、大喧嘩。
お父さんとお母さんがきっとみんなを説得してくれるはずだから、それまで外でぶらついてようと久しぶりに居酒屋を梯子したの。
それがいけなかった。
「おい、赤信号だぞっ!」
「うへぇ?」
久しぶりのお酒で気分も高揚して、飲みすぎちゃった。フラフラと歩いていると後ろにいる誰かが怒鳴ってきた。いい気分なのに、何のよと一言文句を言ってやろうと思ったらクラックションが鳴り響いた。
もう、うるさいな。せっかくの気分が台無しだよと思ったのも束の間、今まで感じたことがないほどの衝撃を感じた。
何が起こったのか分からなかった。身体中が痛くて、助けて欲しくて声を出そうとしても何も出なかった。
周囲に人が集まって、私を見下ろしている。何かヒソヒソと話しているし、写真を撮っている人もいた。
どうして誰も助けてくれないの?って思いながら私は目を閉じた。だって、何だかすごく眠たかったから。
気がつけば私は、知らない世界にいた。最初は戸惑ったけど、リリーという名前とこの可愛い容姿を見てすぐに自分が死んで、転生したのだと理解した。
しかも、ただ転生したんじゃない。
私がハマっていた乙女ゲームの世界なの。
病弱だった私はみんなみたいに働けない。家の中が私の世界だったの。そんな可哀想な私の唯一の楽しみがこの乙女ゲーム
主人公リリーが王子に溺愛されてハッピーエンドになるゲームなの。
他の乙女ゲームと違って攻略対象者は王子だけっていうのがやや不満だったけど。
でも、それが良かったのかかなり人気になってアニメ化、コミック化までしたの。
そうすると、今までただのモブキャラでしかなかった連中が実はすっごいイケメンだっていうのが分かって、結構二次創作とかが大量に出回った。私は全て網羅した。
そんな私だからこそリリーに転生できたのだ。
私ほどリリーに相応しい人間はいないだろう。
ゲームの舞台である学校入学まではかなり長かったけど、やっと念願のゲーム開始時期になったらゲームの知識を活かして王太子に近づいた。
当然だけど、王太子には公爵令嬢の婚約者がいた。
恋にスパイスはつきものだけ、それでも性格最悪の公爵令嬢に虐められるのは怖いなぁっと構えていたら、何もしてこなかった。
どういうことだろう?と、様子を見てみても、やっぱり何もしてこない。
これじゃあ、ゲームが進まないじゃない。もう、サボらずに仕事をしてよね。
怠惰な悪役令嬢に代わって、色々と動く羽目になったのは業腹だったけど、私は優しいから許してあげることにしたの。
そのおかげで、悪役令嬢は王子様と婚約破棄が成功、悪役令嬢らしく表舞台から退場となった。全部、私の功績。でも、私はヒロインだからそんなことを鼻にかけたりはしないの。
ヒロインらしく、王子様と幸せになりました・・・・・で、終わるはずだった。




