第二十四話 この俺が見極めてやる
青い空、白い雲。その直下、雲より尚白い王城の敷地内に、観客席を要した「巨大な円舞台」が有った。
その舞台の名を「ティン王国御前試合場」という。
基本的には国王の主催する格闘大会の会場である。国王の呼び掛けに応じた王国の猛者達が集い、個人戦、或いは団体戦で戦闘の技を競い合う。
しかしながら、「大会意外では使わないのか」というと、そうでもなかった。ごく稀に、騎士達の揉め事の決着の場として利用されている。その場合、観客席に閑古鳥が鳴くのは仕方が無い。さもありなん、宜なるかな。
今は大会期間ではなかった。それでも、円舞台の上には「二つの人影」が有った。
どちらも王国騎士団の鎧をまとっていた。その井出達を見て「決闘」を想起する者は、ティン族に於いては多数派だ。その発想は大当たりだった。
舞台上の二人は王国の近衛騎士だった。
一方は長躯痩身、十代後半の男性騎士。一方は中肉中背、二十代前半の男性騎士。それぞれの背中には、鞘に入った「大曲剣」が括り付けられていた。
大曲剣。いや、「超大曲剣」と呼ぶべきか。地球の武器に例えるなら「特大の青龍刀」といったところ。その反り返った刀身は、大人の男性ほども有った。
その巨剣の名を「ティン弧剣」という。
ティン王国の騎士や戦士にとって、「標準装備」と言えるほど使用頻度の高い人気武器だ。それほどまでに支持されている理由は「ティン弧剣を用いた剣術は格闘最強」と思われているからだ。
ティン王国には、「格闘最強」を信じ込ませるほど達人を輩出してきた「二つの流派」が有った。
一つは「ツィンコ流」。もう一つは「ゲイツ流」。
王国で格闘術大会を開けば、優勝者はどちらかの流派の門下になる。王国最強の軍隊、ティン王国の近衛騎士団員も、全員どちらかの流派に所属していた。
今現在、円舞台で対峙している二人の若き騎士も、この二つの流派の門下だった。それどころか、二人とも「流派の開祖の直系」だった。
長身痩躯の騎士は、王国第一王子デッカの竹馬の友、「ブラリオ・ツィンコ」。彼と対峙している中肉中背の騎士の名は「オッタマン・ゲイツ」という。
それぞれ最強流派の直系となれば、「他流試合の枠を超えて、特別な意味が有る」と考える者がいたとしても、それは致し方無し。宜なるかな。
しかし、円舞台の周りには審判も、検分人の姿も無い。そもそも、そんなものは必要なかった。
現況は「私闘」だった。余人がかかわる余地は、全く無い。
しかし、二人が戦う理由は、「二人とは別の人間の為」だった。それを意味する言葉が、中肉中背の騎士、オッタマン・ゲイツの口から飛び出した。
「ブラリオ。貴様が『デッカ殿下の専属護衛』に相応しいか否か――」
デッカ殿下の専属護衛。その名の通り、デッカを守る盾となるべき存在だ。
デッカ達がアキネイ帝国に出向(海水浴)した一件以降、デッカが外国に出張る機会が増えた。彼の守護を任されたのが、何とブラリオ唯一人。
何故なのか? その理由を雑に言えば、「デッカの傍にいる赤い角の暴君のせい」となる。より詳しく言うと、デッカの許嫁辺境伯令嬢が、「二人きりを邪魔されるのは無粋ですわ」とか何とか我が儘を言いまくったようだ。
しかしながら、近衛騎士団としては「分かりました」と首肯しかねる。交渉に交渉を重ねて、何とか「護衛は一人だけ」と決まった。
あのリザベルを譲歩させたのだから、「頑張ったね」と褒めてやりたい。しかし、そこで「目出度し、目出度し、良かったね」とはならなかった。
ブラリオの実力では不安ではないか?
ブラリオは、ツィンコ流の直系なれど、近衛騎士の中では新兵、「駆け出し」だ。鎧の胸元には「若葉マーク」が張り付いている。その事実を鑑みると、「お前に任せた」と言える者は、騎士団の中では少数派だった。逆に、「お前には任せられん」と思う者は――多数派だった。
オッタマンも、どちらかといえば多数派だった。しかし、彼には「近衛騎士団副団長」という立場があった。
人の上に立つ以上、決まり事には全力で従う。ことが決まった当初、オッタマンの脳内には「決闘」の二文字は全く無かった。
しかし、オッタマンの心をかき乱すような出来事が、彼の目の前で起こってしまった。それを目撃してしまったが故に、彼は我慢できなくなった。
「この俺が見極めてやる」
「宜しくお願いします、ゲイツ先輩」
オッタマンの堪忍袋を切った出来事とは何なのか? それは、今を遡ること一週間。王国騎士団修練場で行われた、「ツィンコ兄弟の訓練」だった。
今回から、暫くブラリオが主役。その間、デッカとリザベルの出番は無い。それなのに、人の影響力在り過ぎて、皆、あいつらに振り回されていた。
次回、「第二十五話 貴様に決闘を申し込む」
ブラリオは、絶対に悪くない。オッタマンも、実はとても良い奴だ。悪い奴がいるとすれば、それは、まあ、「あいつら」だろうな。




