#15 味方ではない
見ると中村先生があからさまに面倒くさそうな顔でこちらを見ている。慌ててドアを開いた。
「響木先生、アマ高生が来てますよ」
不機嫌な顔のまま親指を立てて下りの階段を示す。
「ああすいません、迎えに行こうと思ってたんです。ありがとうございます」
お礼を述べると「ちょい」と呼ばれて廊下の隅に引っ張られた。
「あんたこれ、まじのガチのやつやないですか。教頭の愚痴が全部俺んとこ来て大迷惑しとるんだが」
クレームだった。
「う、すみません。けどこうなったらもう引き下がれませんから。三年生も……ほら、みんな、ね? 中村先生も味方になってくださいよ」
教室の三年生たちをちらりと見つつそう懇願した。三年生は中村先生が担任だ。
中村先生は「はあ」とわかりやすくため息をついて渋い変顔をして去っていった。
「あの……」
先輩教師の疲労感漂う背中を見送っていると声が掛かった。
「ああ西野さん、ごめん」
先日会ったアマ高吹奏楽部部長の西野さんが階段から愛想よく微笑んでこちらを見ていた。後ろには他のアマ高生たちの姿も。
「松阪先生に話した通り、今日は楽器紹介をしてほしいんだ。全パート、いる?」
「はい。二年生全員で来させていただきました!」
アマ高吹奏楽部顧問の松阪先生とは電話でやりとりをしている。最初こそ怪しまれたがつい先日出身大学が同じとわかってから急に心を開いてくれた。ちなみに歳は在学期間が被るどころかかすりもしない12個も上の大先輩だ。
「ありがとう。じゃあ三階の音楽室でお願いします」
二年生の教室から全員で三階へと移動した。そこにはあの日、梅吉と運び込んだ楽器が実は未だ整理できずにそのまま乱雑に置いてあった。
「ごめん、散らかってて」
「あ、いえ」
創部期はなにかとお忙しいですもんね、と高二に気を遣わせてしまった。
取り仕切りは西野さんに任せた。予想は出来たがやはり話や説明が、上手い。この人はたぶん頭もいいんだろう。さすがは宇宙飛行士の娘、なんて見方をしては失礼だが。
全ての楽器の紹介が済むと「これがいい」「おまえはそれじゃろ」などなど口々に希望が聴こえた。
その後は各楽器に分かれて体験。今日ひとつに決めてもいいし、複数希望を出して僕と部長副部長に任せる、というのもありとした。
生徒たちはもともと各々の個性や長所短所を知り尽くしているためこれは案外スムーズに決まった。もう少し揉めるかと思っていたが。
そんなわけで担当楽器も無事決まり、個人練習が始まった。さすがにアマ高生に毎日来てもらうわけにはいかないので、火曜と金曜の週二回、練習を見に来てもらうことに落ち着いた。