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狂気の使徒  作者: ひょうすい
1章 学園襲撃編
32/32

32人目 全て知ることは、人生の楽しみを失うということ。



 アグロス魔法魔剣一貫学園の修繕にはかなりの時間と費用が必要となる。が、それをすっ飛ばして修繕が進んでいる。その方法だが、学園職員と職人達による必死の人海戦術である。特別なことは何もなく、学園は学園校舎の修繕用に余分に資材を貯めている。



――――――――――――――――――――



 夜、ハイジュは私に言われた通り、広場の噴水前で待っていた。「ひとりでこんなところにいれば襲われるだろ!」と思うでしょう。ハイジュはその程度なら普通に追い返せる次元に立っている。と思う。なので大丈夫だ。……知らんけど。

 というわけで、私もその広場に姿を現す。そこにはじっと空を眺めているハイジュがいた。噴水近くのベンチに腰をかけ、ぼーっとしているハイジュの姿を見るが、まあ見てのとおり無傷。周りには誰もいない。ということは、誰かに声をかけられた上で成敗した形跡はないということだ。至って健全に待っていたということだろう。



 「あー、いたいた」



 私はハイジュを見つけると小走りで近づく。あれよ? 常識の範囲の小走りだよ? いつもあんな速度で移動するわけないでしょうが。ゴホン、ハイジュはそんな私の声にしばらくしてから気づき、驚いたようにこちらを向く。



 「やっとじゃん……。夜とだけ言われたから、結構待ったよ?」


 「曖昧に伝えちゃったからね、それはごめん」


 「まあ、いいんだけどさ」



 すると、ハイジュは再び夜空を眺める。



 「空?」


 「そう。今、月がくっきり見えるじゃん?」



 私はハイジュに質問を投げ掛けられ、見上げさせられる。すると、そこには6つ連なった魔界の衛星がある。



 「あれって、よくよく考えればすごいよなーって」


 「なんで?」



 重力の関係で回ってるんじゃないの? ニュートンとかだっけ? まあ、ハイジュはまた別の考えがあるかもしれないし、一応聞いてみてもいいか。ハイジュは単純に思ったことを、私に聞こえるくらいの声で、黒い天井に向かって話す。



 「だって、どれだけ回ってもあの形を崩したことはないんだよ?」


 「たしかに、それはそうだね」



 これは重力の関係なのかな……。それについてはよくわからないけど、あの形を永遠に維持してるのはすごいと思う。ハイジュも同じことを思っているのだろう。ここで全知全能(ゼウス)を使うのは面白くない。全てを知ってしまうことは、時に人生の楽しさがなくなるということでもある。と、私は思う。……だからゼウスってやる気ないのか。

 ハイジュは楽しそうに夜空を眺める。見るもの全てに興味を持つ、まるで物心を持ち始めた赤子のように。それは純粋無垢な女の子と言えるだろう。それが、こんな側面を持ってしまっている。魔界は前いた世界よりずっと、ずっと酷い世界なのかもしれない。



 「リーレは知ってるんじゃない?」


 「いや、知らないよ」


 「そう? ならいいや」


 「知ろうとはしないんだ」


 「うん。本当に気が向いたら、自分で解明する」



 ハイジュの目には確かな輝きがあった。暗い中でも光る、広場唯一の光源だった。



 「じゃ、行くよ」


 「そうだったね。……瞬間移動ってどういうこと?」



 ハイジュは今日の朝のことを思い出す。ふと聞こえた「瞬間移動」という単語について、意味がわからないように思える態度で聞き返していた。私はそれを放置して去ったけど、未だに疑問に思っている様子だ。



 「え、一『瞬』の『間』に『移動』してしまうこと。だから『瞬間移動』。そういうことだね」


 「やばいでしょそれ。そんな魔法あるの?」


 「え、ないよ?」


 「……どういうこと?」


 「えっとねー。話せば長くなるから、そういう魔法っていう解釈でいいよ」


 「わ、わかった……」



 私はハイジュの肩にそっと触れると、目の前の景色が一瞬で変わる。段々と移り変わるような感じではなく、一瞬で変わるような。瞬きをした一瞬では既に変わっている。それほどの刹那の瞬間で、暗い視界は一変した。

 ハイジュは一瞬目を閉じる。目を開けた次の瞬間、既に明るい室内にいた。そこはとても豪華で大きなベッドがある一室。



 「……どこ?」



 口から溢れ出る。そうなるのも無理はない。が、そんなリアクションを取る暇など、今はなかった。



 「リーレさん、本当にここにパッと現れましたね」


 「座標さえ分かれば余裕だからね。アイリスもやってみる?」


 「できるわけないじゃないですか。リーレさん、魔力使ってないですし」


 「それはそうだね」



 ハイジュの目の前には、サングィス女王のアイリス・ブラッドレスト。普段であれば謁見することすら難しい、そんな女王だ。が、今ここで普通に、横にいる身近な狂人が話をしている。そんな現状に唖然としながら、馬耳東風と化していた。



 「で、その女の子は?」


 「今回の作戦に同行することになったエアス・ハイジュ。ひょんなことからめちゃくちゃ力が必要になった悲劇のヒロインって感じ」


 「なるほど」


 「納得しないでください?」



 アイリスは私の無駄に端折りすぎた説明をなんとなく理解し、ハイジュの顔を見る。



 「リーレさんが気にかけているということは、性格に関わらず大成するということです。理由は私ですね」


 「ごめんねハイジュ。この女王、敬語使っときながら結構傲慢不遜だから」


 「言い方悪くないですか? まだ温厚篤実、遠慮会釈ですよ」


 「それはない。特に、この国の女王をしてる時点でね」



 雑談をする2人の空気はかなり和やかだった。そのため、ハイジュも入ろうと思えば簡単に会話に入れそうだった。



 「私からも自己紹介を。エアス・ハイジュと申します。家族をカヤラム王家に惨殺されたので、その復讐として力を蓄えています」


 「なるほど、カヤラムですか。かなり厳しそうですよ?」



 カヤラムの実力を知るアイリスは、ハイジュの目的に対して否定的な意見を口にする。現実的に無理かと、ハイジュは思って少し気分が落ち込む。が、そんなことは全くない。なんなら、ポテンシャルならタワーの中で1番あるのではないかと思っている。……タワーの1番上を知らないけどね。



 「いや、このまま成長すれば、誰にも止められないほどの最強になると思うよ。それこそ、タワー第1席なんて余裕だと思うし」


 「それほどのポテンシャルが……?」


 「うん。保証する。だから、そのための実戦を今日は培ってもらおうと思って呼んだの」


 「なるほど。把握しました」



 端折った説明からかなり肉付けをし、正確な情報をアイリスに共有する。すると、アイリスはハイジュの体をまじまじと見ながら返事する。



 「ハイジュさん、今日は私たちが基本の指示を出しますが、細かな動きは自分の思うようにしてみてください」


 「わ、わかりました……」



 すると、アイリスは顔つきを変え、真剣な口調で私達に話す。



 「改めて、ガロンで行う作戦を伝えます」


 「お願いしまーす」


 「まず、リーレさんのもつ瞬間移動でガロンへ瞬間移動。移動した瞬間に、吸血鬼にはバレるでしょう。だから、その上で動きます。まず、相手が攻撃してきた瞬間にリーレさんが大半の敵を殲滅する魔法を行使し、残った敵をちまちま倒していきます。強敵が現れれば、その都度報告しあいましょう」


 「あー、『遠隔通信』?」


 「そうですね。誰かに連絡がバレることはありませんし、それで問題ないと思います」



 遠隔通信。展開魔法の1つであり、対象に対して通信を可能にする能力。通話であれば通話内で通話先の場所で魔法を放てる。また、魔力が切れるまで対象物の操作を可能にする。

 私はアイリスと話しながら遠隔通信の魔法式を作り、ハイジュの頭の中にぶち込む。

 作戦はこうだ。第1に吸血鬼の大半を私が魔法or神術で殺す。その上で残った吸血鬼をハイジュとアイリスが殲滅し、強敵が現れれば即時対処する。連絡は遠隔通信で適宜使用する、というものだ。シンプルだがかなり理にかなった作戦だと思う。



 「そういう感じですね」


 「じゃ、今から行く?」


 「待ってリーレ。やっと遠隔通信の脳処理終わったから」


 「じゃあ少し置いてから行こう」



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