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気まぐれケルピー

読んでいただきありがとうございます。切りどころが分からず、長いです。

「フェム、話がある」


 肩を揺さぶられてハッとしたフェムは顔を上げる。見上げた先には上司である副師団長で侯爵のデュラン・シェスタが立っていた。こんなに近くにいるのに、肩を揺さぶられるまで気が付かなかった。

 気になることがあると、周囲のことも忘れて思考の海に沈んでしまうにはフェムの悪い癖だ。考え込んでいる時は、周囲の声や音も耳に入らなくなってしまう。気が付いた時には時間が経過しているのだ。

 慌てて対面のソファに目をやると、先程までそこに座っていた筈のデュランの姪だという令嬢の姿は消えていた。


「ロレッタなら少し前に帰したぞ」

「はあ、そうですか。挨拶もせずすみません」

「いや、いい。お前の性格は分かっているからな。ロレッタには気にするなと伝えておいた」


 それに帰りは昇降機で送ってやったからそれどころじゃなかっただろうよ、と苦笑し、デュランはつい数十分前までロレッタが腰掛けていたのと同じ場所にどさりと腰を下ろした。


「えっ副長、アレにロレッタ嬢を乗せたんすか!?」

「乗ってみたいと自分で言ったんだ。降りた後の顔は見物だったが、くくっ」


 整った顔で熊のように大きな身体を丸めて笑うデュランを鬼だ、とフェムは思った。


 あの昇降機ははるか昔に設置されたもので歴史的価値もあり、便利ではあるが性能に難ありなのは魔術師の中では周知の事実になっている。大抵の魔術師は一度乗っただけで懲り、その後二度と乗らない。

 かく言うフェムも、王城付きの魔術師に任命されたばかりの頃、好奇心から乗ったことがあるが、あれを日常使いするくらいなら階段を駆け上がった方がマシだ。仮にも血の繋がったか弱いご令嬢に対する行動ではない。

 こういう所が、存外頭も切れるのにも関わらずデュランが脳筋と呼ばれ、副師団長に甘んじている理由なのだろう。


 フェムが内心で呆れていると、デュランがきりりと別人のように顔を引き締めた。


「ところでフェム。お前……ロレッタの話をどう思った」

「どうって……」


 考えていることはある。抱いている疑念も。

 だが、まだ自分の中で答えを探している最中なのだ。上司であるデュランに言語化出来るものは、今はまだ無い。


「『気まぐれケルピーの伝言歌』を知っているか」


 フェムが答えを返す前に、デュランは重ねて訊ねてくる。


「気まぐれ……って、確かアレっすよね。建国記の神話に出てくる伝説?の生き物」


 もう既にかなり薄くなりつつある学生時代の記憶を引っ張り出す。


 建国記とは、文字通りこの国の建国の歴史について書かれた本だ。かなり古いため作者は不詳、内容についても極度に宗教めいた点や妄想としか思えない記述も多々あり、フェムのような現実的思考の持ち主からすると、純粋な歴史書というよりは空想が多分に入った神話に近い位置付けだ。


 魔術師になる者は基本的に学院に通い、魔法学を修める必要があるのだが、その魔法学の最初の授業で教えられるのが建国記なのだ。

 先程デュランが口にした『気まぐれケルピーの伝言歌』は、正にその建国記に多々登場する。

 ケルピーと言えば、通常は馬に似た姿形をした水獣で、凶暴な性格で縄張りに入った人間を襲うため討伐対象であるが、建国記に登場するケルピーは、女神様の御使いなのだ。


 建国記の中で語られる歴史では、当初は女神様の御言葉を直接聞くことの出来る人間がいた。彼らは神子と呼ばれ、女神様の代弁者として人々を導いたという。

 ところが、ある時その尊い立場を利用し、女神様の言葉を偽って伝え、国や民を混乱に陥れ自らが政を牛耳ろうと野心を持つ愚か者が現れた。


 このエピソードは『偽りの神託』と呼ばれ、神子の悪事が明るみに出るまで何やかんやとあるのだが、最終的に事態を憂いた女神様が降臨し、泉に三体のケルピーを自身の御使いとして置いていかれるのだ。


 以来、女神様の造った聖なる泉に住むケルピーは、時折美しい声で歌うようになった。

 歌の内容は様々で、『次の満月の夜に咲いた月見草を祭壇に供えろ』等、具体的な行動を指示する内容の時もあれば、他国からの侵攻や災害、事故など、国や特定の個人に対する預言の時もある。


 それらは総て、女神様から信徒たる人間へのメッセージと考えられていて、それ故『伝言歌』と呼ばれるようになった。

 建国記の中では国が大きな困難に直面したり転機となる場面には必ずケルピーの伝言歌が登場し、国難を退けてきた様子が綴られているのだ。


「それが、伝説じゃないって言ったらどうする」

「……んん?」

「伝説じゃないんだよ、例のケルピー。神殿の最深部――限られた者しか入れない女神様の聖なる泉の中に、本当に住んでいる」

「はぁ」


 フェムは思わず間抜けな声を出した。目の前の上司は荒唐無稽なことを口にしているが、ふざけている様は無い。何故唐突に『気まぐれケルピー』の話題など出したのか、デュランの真意を測り兼ねるが、予感めいた妙な感覚がフェムを襲う。


「それが本当だとして、副長はなんでそれを知っているんすか。もしかして、見たことがあるとか?」

「……姿を見たことは無いが、俺は一度、声を――『伝言歌』を聴いたことがある」


 フェムの知る限り、デュラン・シェスタという人間は魔術師には珍しく脳筋ではあるが、馬鹿ではない。侯爵位を持つ、魔術師団の副師団長に相応しい合理的、論理的思考に基づいて判断を下せる人間だと思っている。

 だからこそ、なんの証拠も無しにデュランが伝説の存在が実在すると、信じる筈が無い。伝説の存在が実在すると考えるに足る、何らかを知っている、もしくは見聞きしている筈だと考えた。

 そしてそれは、当たっていたのだ。


「俺がまだ魔術師に成り立ての若造の頃だ。その日俺は公聴会に出る神官長の警護の一人として収集され、神殿を訪れていた」


 そうして、デュランはこれまで誰に話したことが無いという出来事を語り始めた。



******



 貴族学院を卒業し魔術師として王城で勤め始めて数年――その日、たまたま体調を崩した同僚の魔術師の代理で警護を頼まれたデュランは神殿へ向かっていた。

 この日は月に一度の公聴会と呼ばれる、神殿の長である神官長が民の声を直接聞く日である。神官長が神殿の外に出ることは滅多に無いが、外出時には王城より派遣された騎士と魔術師が必ず護衛に就くことになっているのだ。


 女神様を信仰するこの国では、人々が日々祈りの場として訪れる教会は無数にあるが、神殿はひとつしかない。かつて女神様が降臨したとされる聖地を守護するように立てられたのが神殿だからだ。

 教会にいる神父とは違い、神殿にいる神官は誰でもなれるわけではない。神官は生涯結婚をせず、その身を女神様に捧げる決まりで、驚くことに皆何らかの形で女神様から直接啓示を受け神殿入りするのだ。啓示がどのような形で為されるのかは秘匿されているが、偽って神官になることは出来ないようになっているらしい。


 日々神殿で祈りを捧げる彼らは、女神様に最も近い信徒とされている。

 そんな“神に選ばれた”神官たちを纏め上げる神官長は、この国ではかなりの力を持つ。貴族たちへの影響力は王家の方が強いが、直接女神様に選ばれている神官たちは、民からの圧倒的な尊敬を集めているのだ。


 公聴会は、そんな女神様に近い彼を通して訴えたいことのある民たちの交流を持つ場で、神官長の公務の中で最も重要な公務であると同時に、最もその御身が危険に晒される場でもある。

 だからこそ、必ず護衛が就くことになっている。

 

 デュランが神官長の護衛を担当するのは今回で二回目だ。神官長に限らず、要人の護衛任務は魔術師の業務の本分からは些かズレておりやりたがる者がいないため、立場の弱い魔術師に護衛任務が集中することが無いよう、基本的には爵位や役職などの立場は関係無く師団に所属する魔術師の中でローテーションが組まれているのだ。


 久しぶりの護衛任務に少し緊張しながら辿り着いた神殿に足を踏み入れると、出迎える筈の人間が誰もいなかった。


(前回護衛任務にあたった際は、確か神殿入り口近くの部屋で神官長は待機していた筈だが……。)


 周囲を見渡すが、神官どころか一緒に護衛にあたるはずの騎士の姿も見えない。

 仕方なく、デュランは神殿の奥へ進んだ。

 

 神殿内部は元々浮世離れしているというか、隔世の感のある独特の雰囲気の不思議な場所ではあるが、それにしてもこの日の雰囲気はどうもおかしく感じた。周囲に誰の姿も見えないにも関わらず、空気は妙にざわついている。

 神官の数はそれ程多くないとは言え、部外者であるデュランがこれだけ奥へ入り込んでいるのに誰にも会わないのは変だ。


 不審に思いながらも歩みを進める内にどんどん奥へ入り込んでしまい、そろそろ引き返さなくては不味いと思った時にはかつて女神様が降臨したという聖泉へ向かう回廊へ差し掛かっていた。そして、回廊の向こうから不思議な音色が聞こえたのだ。

 神官でも無い自分が、聖泉に近づくのは良くないことだと理解していたが、身体は誘われるように音色を追っていた。


 やがて、デュランはそれがただの音色では無く、意味のある言葉を為す声だと気付く。

 男とも女とも、それどころか人間のものかどうかも判断がつかない、しかし透明感のある耳心地の良い不思議な声は、朗々と歌う。


『青き光を纏いし邪な者来たりて災いを導かん。古の魔女の系譜に連なる者あらわりて其を暴かん』


 歌声はその後も続いていたが、何故だかデュランが聴き取ることが出来たのはその一節だけだった。やがて声は止み、木の葉が擦れる音だけが響いていた。


(今のは、何だったんだ……?)


 ぼうっと立ち竦むデュランの前に、気付けば神官長と、そして何故か国王陛下が立っていた。どうやら泉の方にいて、戻ってきたところらしい。

 神官長はデュランの姿を認めると、「おや」と眉を上げた。

 はっと我に返ったデュランは慌てて、騎士の礼をとる。


「君は確かシェスタ侯爵の……」

「はっ。シェスタ侯爵が一子、デュランと申します。公聴会の警護のため参りました」

「……此処には神官の誰かに案内されたのかな?」


 穏やかながら隙の無い雰囲気を醸し出す神官長に、自分の立場では見聞きしてはいけないものを知ってしまったような感覚に、背中を冷や汗が流れる。


「いえ……その、護衛のため神殿に着きましたが誰の姿も見えず……このような奥まで入り込んでしまいました」

「成程ねぇ」


 神官長は意外にも不快な様子は無く、顎を擦りながらうんうんと頷いたかと思うと、ちらりと陛下を一瞥し再び口を開いた。


「時々いるんだよねぇ。虫の知らせというのか、導かれる子が。此処まで来るのに誰にも会わなかったのでしょう?」


 神官長の言葉に頷く。


「此処まで来るのに誰にも会わないなんて、普通なら有り得ない。だからやっぱり、君は導かれたんだろうねぇ」

「導かれる、とは……」

「歌が聴こえただろう?」

「……あれは、何ですか」

「『ケルピーの伝言歌』だよ」


 さらりと告げられた言葉に、身体が硬直する。


(『ケルピーの伝言歌』?それってあの建国記に出てくる伝説のアレだろ?俺を揶揄っているのか?)


 しかし、デュランの直感がそれを真実だと告げていた。あの不思議な声の主が女神様の眷属たるケルピーならば納得出来る。


「本当、なのですね」

「ふふっ、驚いた?驚いたよねぇ。僕も神殿(ココ)に来るまで実在するなんて知らなかったよ」


 そうして神官長から告げられたのは、ケルピーは神殿内の聖泉に実在し、建国記の通りに今でも時々ああして女神様の伝令を務めている、という事実だった。

 神官長だけで無く国王陛下も一緒に『伝言歌』を受け取る決まりらしい。

 女神様の恩寵篤い神官長はともかく、何故国王陛下も『伝言歌』をタイミング良く聴くことが出来るのか、疑問は残ったがあまり知りすぎるのは危険だ、と判断したデュランは口を閉じることを選んだ。


「君が居合わせたのも多分、女神様のお導きだよ。君には何が聴こえた?」


 神官長の隣で、陛下もじっとデュランを見定めるかのように見つめている。


「……青き光を纏いし邪な者来たりて災いを導かん。古の魔女の系譜に連なる者あらわりて其を暴かん――私には、そう聴こえました。これは、預言なのでしょうか」


 ケルピーが建国記通りの存在ならば、デュランが聴いた一節は預言なのだろう。邪な、災いといった不穏な単語が並ぶことにデュランは危機感を覚えた。


「そうだねぇ、預言なんだろうねぇ」

「では……!」


 焦った様子のデュランに、ふわりと優しい顔で神官長が微笑む。


「ねぇ、君は女神様って何歳くらいだと思う?」

「えっ?………わかりません。建国記の前よりおわすなら、かなりの年齢だと。しかし神たる存在に年齢や寿命は無いに等しいのでは無いでしょうか」


 突然投げかけられたのは予想外の質問だったが、困惑しながらもデュランは何とか答えた。


「うんうん。僕もそう思うよ。僕たちが生まれる遥か前から存在して、僕たちが死んだ後もずっと存在し続ける女神様にとっては、十年や二十年なんて一瞬なんだろうね」

「はぁ」

「ってことで、預言が何時起こるのかなんて、わかんないんだよね」

「えっ」

「明日かもしれないし、一か月後、一年後、十年後……もしかしたらそれよりずっと後かも知れない。僕たちに出来ることは、備えることだけだ。だからそんな顔しなくても大丈夫」


 不敬かと思いつつ国王陛下に視線を向けるが、陛下も神官長と同じ意見なのか、軽く頷いただけだった。


(預言が確かならば、災いは訪れてもいずれ暴かれるのもまた確かだから、神官長といい陛下といい、これ程落ち着いていられるのだろうか?)


 いまいち腑に落ちないデュランをよそに、『伝言歌』の件は他言無用だと言い、陛下は王城へ戻っていった。


「あの……俺が女神様に導かれた、と仰りましたよね。何か、意味があるのでしょうか」

「うーん、きっとあるんじゃない?特級魔術師の君に出来ることがあるのかもね?」


 微笑んだ神官長は、意気揚々と公聴会へ向かっていく。

 特級魔術師の俺に出来ること……?

 神官長の言葉の意味を考えながら、デュランは慌てて警護対象の背中を追った。



******



「……と、いう出来事があった訳だが」

「わお」

「お前……今の話の感想がそれか?」


 やや呆れた様子で自分に視線を送る上司にフェムは肩を竦めた。


「いやぁ、急にそんな重大な秘密をぽろっと暴露されても、反応に困ります。っていうか、他言無用って釘を刺されてるのに、俺に話して良かったんすか?」

「もう隠す必要も無いだろう。あ、だからといって人にペラペラ話すなよ」

「流石に俺もわかってるっすよ」


 信用の無さにフェムは子供のように頬を膨らせたくなるのを堪え、代わりにすっかり冷めた紅茶を口に含んだ。メイドに頼んで淹れて貰っただけあり、普段自分が淹れている物よりずっと美味しい。


「……副長は、そのケルピーの預言……じゃなくて女神様の預言は今回のことだったって考えている……ってことすね?」

「ああ」


 『青き光を纏いし邪な者』――今回の事件の男爵令嬢は、精神感応の力がある青い魔石を使ったネックレスで多くの人心を操った。正に『青き光』を纏った『邪な者』である。


「しかし、そうすると預言の後半が」


 フェムの言葉に、デュランは感情の読めない顔で目を伏せた。


 『青き光を纏いし邪な者来たりて災いを導かん。古の魔女の系譜に連なる者あらわりて其を暴かん』


 今回学院を混乱に陥れた事件解決の切っ掛けとなったのは、デュランの姪であるロレッタだ。

 預言が今回のことを示していたとするならば、預言の後半部――『古の魔女の系譜に連なる者』とは。


「ロレッタ嬢は『古の魔女の系譜』ってことになりますね?」

「やはり、そう思うよな……」

「いや、そうとしか思えないっすけど」

「今回の魔法具を正式に調査したのはお前だ。お前っていう可能性も無くは……」

「いやいやいやいや、無いです。それは無いです。平民の血筋にしては魔力が多いってだけで、俺の魔術師としての限界値は副長も分かってますよね?」


 何時もの砕けた口調も忘れ、真顔で否定する。


「ああ、わかってる。それに今日のお前とロレッタのやり取りを見て思う所はあるさ」

「……ひとつ疑問なんすけど」

「何だ?」

「副長が聴いた『伝言歌』は陛下もご存知なんすよね?その割にロレッタ嬢に対してノーマークな気がするんすけど」


 『古の魔女』といえば、これまた建国記に登場する存在だ。ケルピーのような(一般的な認識として)架空の存在と言う訳では無く、昔は確かに存在したらしい。

 『魔女』という単語から分かるように、これまで分かっている『魔女』はすべて女性で、彼女たちは、通常より遥かに強大な魔法を行使することができ、建国記の中では枯れた湖を一瞬で復活させたり、植物の種を畑一面に一気に実がなるまでに成長させたり、川の氾濫を堰き止めたり、時には欠損した手足を再生する描写すらある。

 どれも、現在のフェムたち魔術師には到底行使出来ないような魔法だ。強大な魔法を操ることで、彼女たちは国や人を救ってきた。

 不思議なのは、それほど強い魔力を持つ筈の魔女たちの魔力は、遺伝するものではなかったことだ。魔女の子や兄妹が同じように強大な魔法を行使出来るか、というとそうではなく――突然変異のように、何の血縁関係も無いところからある日突然生まれてくるのだ。


 建国以降、少ないながらポツポツ生まれていた『魔女』たちはいつの頃かその存在を耳にすることが無くなり、今では『気まぐれケルピー』と並ぶような伝説の存在に成りかかっている。

 その『古の魔女』かも知れない少女が現れたにしては、ロレッタは軽んじられているように思える。


「陛下が何を考えているのかは分からない。俺から預言の件のついて口に出すわけにもいかないからな。預言を忘れている……ってことはないと思うが――俺は全部を聴いた訳じゃないから」

「え?どういうことっすか」

「俺に聴きとれた歌はさっき言った一節だったが、前後にも歌声は聴こえていたからな。俺の知らない預言があるのかも知れない」

「……それも含めて、女神様のお導きってことっすか?」

「神官長を信じるなら」

「はぁ……俺は別に信心深い人間でも無いんで、その手の話はよくわかんないすけど……不透明な預言より、ロレッタ嬢のことを気にした方が有意義じゃないっすか?本当に魔女の系譜を継ぐ者なのか、それなら何故『ランク外』なのか、何故魔力が視えるのか――興味は尽きないすね」

「ロレッタを実験動物のように扱うつもりなら許さないぞ?俺はそんなつもりでお前に会わせた訳じゃない」


 デュランが器用にも片眉を吊り上げてフェムを睨むので、フェムは両手の平をデュランに向けひらひらと振った。


「わかってますって。ただ、ロレッタ嬢のことや預言の件がバレたら不味いことになるんじゃないですか?デングラー男爵令息にロレッタ嬢が守り通せるとは思えないんすけど。そもそも、あの坊ちゃんにロレッタ嬢を守る気がありますかね?」


 社会的立場としては称号持ちの特級魔術師であるフェムの方が強いとはいえ、仮にも男爵家の令息であるマーカスに対して酷い言い草ではあるが、デュランはそれを咎める気にはなれなかった。

 魔法具の件を知るまではマーカスのことを誠実な好青年だと思っていたが、例の魔法具の効果を知ってしまった今、マーカスに対してはロレッタの伯父としては複雑な思いを抱いている。


 実を言えば、預言を知るデュランはだからこそ、フェムに請われた通りロレッタを引き合わせた。

 今回の事件の調査にあたり、他人に興味が薄いフェムが珍しくロレッタに興味を抱いたようだった。預言の後半部のことも告げれば、フェムはロレッタへの興味を失わない限り、この先ロレッタが難しい状況に追い込まれることがあったとしても彼女のことを守るに違いないと下心があった。


「その時は、俺がロレッタを守る。お前にも協力してもらうぞ」

「俺に出来る範囲でならいいっすよ。その代わり、ロレッタ嬢にも色々協力して貰いたいことはありますけど」

「……俺に隠れてロレッタに連絡を取ることはするなよ?」

「ハイハイ、副長を通せばいいんでしょ。副長が伯父馬鹿だったとは……」


ストックがなくなったので更新頻度が少し落ちます。他作品も停滞中なので、なるべく早く更新出来るよう頑張ります……!

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