眠っている貴方に、最後のキスを。
ずっと判っていたわ。
ずっと知っていたわ。
貴方が私を愛していなかった事なんて。
だから私は今日、貴方を私と言う枷から解放してあげる事にしたの。でも、変な誤解なんかしないでね。
私は貴方が許せないから離れるんじゃない。
耐えきれなくなったから離れるんじゃない。
奇跡の様な宝物を神様から授かったから、貴方から離れる事にしたの。
私が唯一愛した貴方。
私が貴方に振り向いて貰う為だけに、どんなに努力した事か、きっと貴方は死ぬまで知らないままなんでしょうね。
それが少しだけ心残りで、悔しくはあるけれど、私がたった一人愛した貴方。
私が願うのは貴方の幸せだけ。だなんて、口が裂けても言えないわ。
ねぇ、知らなかったでしょう?
ねぇ、一度も気付いてはくれなかったでしょ?
髪を染めても、髪形を変えても。
化粧も変えたわ。
服装も変えたし、靴だってヒールの低いモノにしたわ。
ネイルだって最近はしていなかったのよ?
それに料理教室にだって行って、貴方の為に苦手な料理も頑張ったわ。
それでも貴方は、それらの全てを見て見ぬふりをしたわよね?
ねぇ、貴方は憶えてる?
ねぇ、貴方は忘れてしまったのかしら。
だったら、その約束を今の今まで律義に覚えていた私は、何処まで莫迦で、愚かで、救いようがない女なのかしら。
今でも私はあの日、あの時の事を鮮明に憶えているのに。
左薬指で、キラキラとその存在を主張する結婚指輪。
この指輪を貴方に指に嵌めて貰った時は、本当に嬉しかったわ。
例え、貴方の心の中に、幼馴染の恋人の面影がいつまでも残っていたとしても、結婚出来たのは私。
貴方の妻になれたのは私。
でも結局は、私は貴方の心の恋人には勝てやしなかったのね。
後悔なんてしないなんて、言えやしないわ。
愛しているんですもの。
自分でもどうにもならない位、貴方を愛してしまったんだもの。
それでも貴方から離れる事にしたのは――。
永遠の愛の証は、貴方の新しい奥さんの為に置いては行くけれど、この子と、夏祭りの屋台で買って貰った玩具の指輪を持っていく事だけは許して。
とうとう貴方は一度として私に愛してると言ってはくれなかったけれど、それでも私は貴方を愛する事が出来て、三年という短い期間ではあったけれど一緒に暮らせて幸せだったわ。
その思い出と指輪、そして貴方が酔った勢いで私を抱いて、その時に授かった子さえいれば、きっと私は世間からどんなに後ろ指を指されたとしても、生きていける。
だから、だから・・・。
「さようなら・・・、玲茨さん」
私は貴方の人生から退場するけれど、何年かして、何処かで偶然逢えたのなら、今度は良い友人として解りあえたら素敵ね。
眠っている貴方に最後のキス。
これで本当にお別れ。
瞳から勝手に零れ落ちてくる涙をそのままに、貴方の妻として最後のキスを。
私は貴方と巡り合えて、本当に幸せだったわ。
ダイニングテーブルには指輪と、私の書くべき部分を全て書き込んだ書類を。
集合ポストには部屋の鍵を。
どうか、お元気で。
さようなら、私のたった一人の運命の人。
さようなら、私を愛してはくれなかった人。
さようなら、さようなら。
いつまでも愛してます。




