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2/2

義父の神剣と義妹

ゲートの中から現れた女の子は義父さんの神剣を持っていた。

どうやら彼女は誰かを探しているらしい。

そんな彼女を追って異界から現れた追跡者を相手に

尚登は義父の神剣で初陣を飾る。

彼女の名はミオル

尚登の義妹である。



半べそになりながら剣を抜こうと彼女は全身に力を込める…その時…

ぐうううううううううううううう……

「?」

「!」

それは彼女のお腹の虫からの…

お取込み中すみませんがちょっと何か食べさせてくれませんか?

という呼びかけであった。


「ぷ…」

ああ、なんて可愛らしい…。

「あははははははははははははははははははははは」

どうしよう、緊張感が吹き飛んだと思うと腹の底から笑いが込み上げて来る。

「‼‼」

一方の彼女は顔を真っ赤にしてぷいと向こうを向いてしまう。

ああ、ごめん…少しだけ待っててくれ。


さて…

ストックしてあったロールパンを二個ガスコンロの魚焼き用グリルに入れ

点火して少し待つ。

これくらいかな?

香ばしい匂いを立てて少しだけ焦げ目のついたホカホカのロールパンを皿に乗せ

彼女の前まで持って行った。

「どうぞ、食べていいよ。」

女の子は僕の顔と皿の上のロールパンを交互に見つめ、その一つを手に取った。

「…………………………」

そしてパンの端を少しだけちぎり口に入れる。

「!」

どうやら食えない物では無かったらしく、残りのパンも少し時間をかけて飲み込んで行く。

「こんなのもあるよ。」

インスタントのカップスープも用意して彼女をテーブルに手招きする。

少しだけ緊張していたようだが…さあどうぞと促された椅子に腰かけ、テーブルに着く。

そしてカップの淵を軽く左手で押さえながらスプーンを使ってスープを飲み干した。

ひと心地ついたのだろう…彼女は眼を閉じふう…と一言…

「ごちそうさまでした…。」

これはびっくり…

意外なほど収穫の多いコミュニケーションだった…。

その中でも一番驚いたのが…

「日本語喋れるんだ?」

「え?………‼‼」

しまった…という表情で慌てて彼女は口を押えた。

いや、パンを食えるのか?とか

食えるとしてどう食べるのか?とか

気になったから与えてみたら予想外に上品な食べ方だったし

もしかしてと思ってスープも与えて見たらそっちも…。

意外と教育レベルが高いな…と思っていたところに

『ごちそうさまでした』

ですから…そりゃあ驚こうってもんじゃ無いですか。

「さあ、食べた分喋ってくれるかい?」


「あ………あ………あ……」

失敗した…とか、これは不味いとか思っているのは間違いない。

でも僕の方だって早く義父さんの手がかりを知りたい気持ちを押さえつけて

なるべく優しく話しかけているつもりだ。

「大丈夫…ゆっくりでいいから…だから……落ち着いて…。」

「あ……!あ!あ!あい!あい!」

何か言葉になりそうな単語が彼女の口からこぼれて来る。

「どうしたの?あい?」

「あ…ああ…あい…」

「ゆっくり…落ち着いて……」

彼女は大きく息を吸い込みそして

「あいきゃん・と!すぴーく!じゃっぱにーず!」

よし捕まえよう‼

彼女が席を立つより一瞬早く彼女の腕を掴んで引き寄せる。

「離せ!無礼者!」

うわ…絶対こいつ日本語達者だよ!。

「食い逃げ犯に無礼もクソもあるか!さあ、その剣について教えてくれ!」

「離しなさい!私には行かねばならない所があるのです!」

「だったら食い逃なんかで敵を作らず現地の住人に協力を求めるべきだ。」

僕の腕を引き離そうと必死にもがく彼女をもう一度引き寄せる。

その瞬間…


「‼」

僕の頭に激しい衝撃が走った

ああ、この感触……覚えがある…これはイスノキの木刀…

「全く…騒々しいと思って覗きに来て見たら…。」

この声にも聞き覚えがある…

「窓を開けたまま可愛い女の子と白昼堂々コスチュームプレイ……」

そしてその姿にも見覚えがある…

真っ赤に染めた髪…力強い体躯…

「尚登……堕ちたねぇ……」

この近所で道場を営む武家の令嬢…一ノ瀬和美さんだった。


そして舞台は床の間に移る

一ノ瀬さんは上座に正座し僕は下座…青服の彼女も逃げようとした所首根っこを掴まれ

僕の隣に正座させられている。

「いや…もう高校なんだし彼女作るのは構わないよ…でもさぁ…アレは無いんじゃない?」

言いながら青服の彼女を一瞥する。

「いくら一人暮らしだから…って女の子にあんな格好させて…何考えてんの?」

ああ、遠目には全身タイツの女の子とあんな事やこんな事している様に見えたんだ…

その時、青服の女の子が口を開いた。

「あんな格好とは失礼な!これは一族に伝わる戦装束!決して恥ずべき物ではありません!」

胸を張り物を知らん奴めと言わんばかりのオーラを放つ…

何か弁明をして頂ければと思ったが期待は出来ないな…

もう黙っていてくれ…

「何それ…そう言う設定?」

一ノ瀬さんが『うわぁコイツダメな奴だ』と言う目で僕を見ている。

彼女とは新学期からも一緒なのに…はっきり言って頭が痛い。

そんな僕たち二人を尻目に青服女は立ち上がり縁側に向かう。

「とにかく私は木崎尚登様というお方に会わねばならないのです!こんな所でモタモタしている訳には行きません!」

?……

一ノ瀬さんがこいつ何言ってるんだ?

という顔で僕の方を見るので

いや、だから僕にも分からないんだ…

と言う顔で彼女の方を見返した。

「あんた…ちょっと待ちな。」

一ノ瀬さんの呼び止める言葉もどこ吹く風

「そこの殿方…一食の恩、今は返す事が出来ませんがいずれ…。」

「だから待てって…木崎尚登なら…」


‼…この感覚は…?

さっきと同じ感覚がしたと思うとまた世界がゆらぐ。

今度は庭!雷光が走ると同時に

あるべき世界を押し広げながらまた真っ黒な球状の空間が現れる。


「ちょ!なにこれ?」

一ノ瀬さんが僕たち二人を庇う様に正面に立つ。

「多分ゲート…」

「ゲート?こんな所に何で?」

「その娘も向こうからやって来たんだ。」


そしてさっきより大きなゲートの中から

また青い被り物を纏った背の高い人影が現れた。


「ふむ…開門機の痕跡を追って来てみれば…。」

男の声?

青頭巾?は辺りを見回すと僕たちの後ろにいる女の子を視界に捉えた。

「おお、姫巫女様…こんな所においででしたか?」

そして丁寧な態度でこちらに頭を下げる。

「人界の方々…申し訳ありません…姫巫女様を保護して頂き誠、御礼を申し上げます。」

男の態度あくまでうやうやしく…

「姫巫女様…このような所に何時までもいる物ではありません。さあ、こちらへ…。」

いや…慇懃無礼と呼んでいいいやらしさを湛えている。

一方姫巫女様と呼ばれた彼女の方を見るとその顔に恐怖を浮かべ

震えながら小さくイヤイヤをしている。

「ねえ…そこの方…」

青頭巾に呼びかけて見る。

「この娘…嫌がってるみたいだけど…どうなの?」

だがその次の瞬間、庭にいたはずの青頭巾は床の間に飛び込み、

片手で僕の首を締めあげていた。

「‼…‼‼」

「高い所から口を開くな…虫ケラ風情が…」

そうか…踏み込んだ土地で立場もわからぬ相手に高い所から話しかけられてキレる…

流石に善人とは思えない…

「離しなさい!この人は何も関係ありません‼」

叫びながら姫巫女様は抜けない剣を鞘ごと振りかざし青頭巾に殴りかかる。

しかし青頭巾はそれを片手で弾き飛ばし、剣が宙に舞った…。

その瞬間…


『手に取れ』


頭の中に響くその声に従い自然に左手が動き空中の剣を掴む

そして右手が剣の柄に触れると真っ白な光とともに鞘の中から刃が解き放たれる。

「‼」

「‼」

全員が状況を把握した時には勝負がついていた…。

僕の首を掴んでいた青頭巾の左腕はその胴体から切り離され音を立てて地面に落ちた。


落ちた左腕を拾い上げ庭まで後退し頭巾を解いて素顔を晒す…

それは僕よりかなり年上で…長い銀髪の美男子に見えた…。

「……………………名乗れ…。」

名乗れと言われたのだから仕方ない…

今度は失礼の無いよう庭まで降り名乗りを上げる。

「倫道館高校新一年生…木崎尚登…。」

青頭巾はにやりと笑う。

「マレの国、スゴウの剣士…ゴウシ…キザキナオト…貴様の名…忘れんぞ…。」

ゴウシと名乗ったその男はゲートの中に後退し、同時にそれも消滅した。

それにしても…

僕は自分の両手に握られた義父さんの神剣と鞘を交互に見つめた。

適合者で無ければ抜く事の出来ぬはずの神剣がどうして…?


「貴方が木崎尚登様でいらっしゃいますか?」

いつの間にか姫巫女様が僕の隣に立ち尽くしていた。

「…………え?」

そして彼女は僕の顔をまじまじと見つめ懐の巾着袋から一枚の紙を取り出した。

そしてそれと僕の顔を何度も何度も視線で往復する。

「こ、これを……」

震える手で彼女が差し出して来たのは一枚の写真であった。

「これ…僕の小学校の卒業式の……」

家族で撮った最後の写真…この後義父さんは…

「木崎尚登様なら同じ物を持っていると…お義父様から……」

……一瞬引っ掛かる部分があったけど今はスルー

僕は二階に上がりアルバムを持って降りて来た。

「ほら、この写真………」

彼女が持っているのと全く同じ…僕と義父さんと義母さんの…。

「では…貴方が……。」

「うん…あらためまして…僕が木崎尚登です。」

「こちらこそ…先程の無礼どうかご容赦を…お義兄様…。」

彼女は僕に深く頭を下げた。

いや…それは良いのだけど………


「お義父様……それにお義兄様…って?」

うん…スルーしたかったけどやっぱり無理な単語が耳に飛び込んで来る。

一ノ瀬さんが軽く僕の肩を叩く

「いや…アンタの義父さんならあり得ない事じゃ無いって…。」

ああそうか…義父さん…またやったな…


とりあえず状況整理のためちゃぶ台とお茶とお菓子を用意し三人で円座になる。

「まずはこれを…。」

姫巫女様が取り出した書簡を受け取りそれを開いて行く。

そこには懐かしい見覚えのある字でこう記されていた。


尚登、まずは三年間ほったらかしにして済まなかった…。

その子は今の私の妻の連れ子で故あって彼女を地上に逃がす。

彼女には追手がかかっている。

彼女を守るために私の剣をお前に託す。

理由を教える事は出来ないがお前なら使えるはずだ。


追伸 その子に渡した開門装置は片道切符…もうこちらへは戻れない。

木崎裕一郎


手紙の内容に僕は頭を抱えた。

「どうしよう…」

一人でもいっぱいいっぱいなのにこの上義妹まで…。

「どうしよう…って追い返す訳にも行かないだろ?」

一ノ瀬さんも僕にどう言って良いのか分からないみたいだ。

「あの…もしかして…お邪魔でしょうか?」

義妹が心配そうな顔で僕の方を見つめている。

…女の子に…それも義妹でお姫様にこんな顔をさせていい訳が無い!

これは僕の修行でもある。

義父さんが言ってた…

背負った重荷の分だけ男の背中は広くなり

乗り越えた障害の分だけ男の足は長くなるんだ

「大丈夫!君は何も心配せずにここに居てくれていい。」

僕の言葉に姫巫女様の顔に笑みが宿った。

「ところで君…名前は?」

「ミオルと言います!これからよろしくお願いします!お義兄様!」

こんなかわいい女の子と一つ屋根の下だなんて…

ああ、八幡神よ…

願わくば僕に彼女を守らせて下さい。


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