第十四話 最前線
# 第十四話 最前線
黒炎が吹き荒れる。
第二形態へ変異した侵食竜兵。
その前へ、新たな探索者たちが踏み込んできた。
《Fenrir》。
世界最前線ギルド。
先頭へ立つ男――Fenが巨大戦斧を肩へ担ぎながら笑う。
「相変わらずヤバいレイド引いてんな、Arc」
「お前らも来るの早すぎる」
悠真が短く返す。
だが。
そのやり取りだけで分かる。
この二人。
ただの探索者じゃない。
最前線を走り続けてきた攻略組。
「助かった……」
Rainが小さく息を吐く。
正直、かなり危なかった。
第二形態。
想定以上。
しかも。
ヘイト固定が崩れる。
普通の攻略法が通じない。
その時。
Fenの後ろから長髪の女が顔を出した。
「わぁ……本当にArcいる」
赤髪。
杖装備。
Fenrirの主力魔導士。
《Alice》。
「久しぶりね、Arc」
「……どうも」
「相変わらず塩対応」
「うるさい」
その横では、長槍を持った男が侵食竜兵を睨んでいた。
《Sieg》。
Fenrirのメインタンク。
Garmより細身だが、異常な耐久性能を持つ。
「第二形態か」
「厄介そうだな」
「ヘイト固定崩される」
Garmが言う。
Siegが目を細めた。
「ヘイト無視ギミック持ちか」
理解が早い。
これが最前線。
説明がいらない。
さらに。
黒装束の斥候職が天井近くへ飛び上がった。
《Yoru》。
Fenrirの索敵役。
「……速いなこれ」
「第一形態と別物だ」
その時。
侵食竜兵が咆哮した。
『GRAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
轟音。
黒炎が爆発的に広がる。
「来るぞ!!」
Fenが叫ぶ。
侵食竜兵が消えた。
「っ!?」
速い。
次の瞬間。
Fenの真横へ黒炎斬撃。
だが。
「Fen、右」
悠真が即座に言う。
Fenが反射的に回避。
黒炎が床を消し飛ばした。
「……お前マジで見えてんのか?」
「軌道が読めるだけだ」
「十分おかしい」
Fenが笑う。
その瞬間。
侵食竜兵のヘイトが一気に拡散した。
「全体ヘイト!?」
Novaが目を見開く。
侵食竜兵の視線が次々変わる。
Rain。
Alice。
Nova。
後衛へまでヘイトが飛ぶ。
「クソギミックだな!」
Fenが舌打ちする。
「Garm! Sieg!」
「おう!!」
「任せろ!」
二人のタンクが同時に前へ出る。
《フォートレス》
《ヘイトバッシュ》
Wヘイト固定。
侵食竜兵の動きが僅かに止まる。
その隙。
RainとYoruが同時に背後へ回った。
「行く!」
《クロスエッジ》
《シャドウダイブ》
二方向同時攻撃。
だが。
『GRAAAAAAAAA!!』
侵食竜兵の四腕が高速で振るわれる。
「っ!?」
Yoruが吹き飛ぶ。
Rainもギリギリで回避。
「速っ……!」
「第二形態で敏捷跳ね上がってる!」
その時。
黒炎が床全体へ広がり始めた。
「まずい!」
Novaが叫ぶ。
侵食魔法陣。
範囲が広すぎる。
回避が間に合わない。
だが。
悠真は冷静だった。
《セイクリッドフィールド》
光の魔法陣が展開される。
巨大。
神聖な白銀陣。
その瞬間。
全員の身体が軽くなる。
黒炎侵食が弱まる。
HP減少が止まる。
「なっ……!?」
Aliceが目を見開いた。
「広域支援陣!?」
「しかも複合効果……!?」
回復。
防御上昇。
状態異常軽減。
全部同時。
観測班も完全に固まっていた。
「なんだあれ……」
「支援量がおかしい……!」
Fenが笑う。
「やっぱお前いると別ゲーだな」
「集中しろ」
悠真は即座に返した。
その間にも。
「ヘイスト更新」
《ヘイスト》
RainとYoruの速度が再加速する。
「切れてない……」
Yoruが驚く。
「なんだこの維持精度」
「Arcだからね」
Rainはもう慣れていた。
その瞬間。
侵食竜兵が巨大黒炎剣を振り上げた。
空間が歪む。
「大技来るぞ!!」
Fenが叫ぶ。
黒炎が収束する。
危険。
直感で分かる。
「Garm! Sieg!」
「「おおおお!!」」
二人が同時に盾を構える。
《アイアンウォール》
《フォートレスガード》
直後。
超巨大黒炎斬撃。
轟音。
空間そのものが震えた。
「ぐぁぁぁっ!!」
「重っ……!!」
タンク二人が同時に押し込まれる。
防御ごと削ってくる。
だが。
《オーバーヒール》
《エリアヒール》
《プロテクション》
悠真の支援が即座に重なる。
崩れない。
前線が維持される。
「マジかよ……」
Siegが息を呑む。
「このレベルの支援初めて見たぞ」
その瞬間。
悠真が前へ出た。
《ホーリーランス》
白銀の光槍。
侵食竜兵を貫く。
黒炎が大きく揺らぐ。
「今だ!」
悠真が叫ぶ。
「Nova! Alice!」
「了解!!」
「ぶち抜く!!」
《フレアバースト》
《クリムゾンレイ》
二つの超火力魔法が同時発動。
爆炎。
轟音。
侵食竜兵の身体が大きく崩れる。
そこへ。
RainとYoru。
Fen。
Crow。
全員が突撃した。
《クロスエッジ》
《シャドウダイブ》
《ギガントブレイク》
《ダークブレイド》
連続叩き込み。
そして。
GarmとSiegが同時に咆哮した。
「ぶっ飛べぇぇぇ!!」
「終わりだ!!」
二枚盾による同時重撃。
轟音。
侵食竜兵の身体が完全に崩れ落ちた。
静寂。
今度こそ。
完全停止。
「……勝った?」
Novaが呟く。
その時だった。
侵食竜兵の胸部から。
黒い結晶が浮かび上がる。
嫌な魔力。
深層側の気配。
悠真が目を細める。
「……深層核?」
Fenの表情が変わった。
「待て」
「それ、デプクロにも無かったぞ」
読んでいただきありがとうございます。
【用語解説】
《最前線ギルド》
現在、深層攻略を最も進めている上位探索者ギルド。
《Aegis》と《Fenrir》は世界最前線として注目されている。
《セイクリッドフィールド》
高位神聖支援魔法。
範囲内の味方へ回復・防御強化・状態異常軽減を同時付与する。
《深層核》
侵食竜兵撃破後に出現した未知の黒結晶。
通常魔石とは明らかに異なる反応を示している。
次回、深層核の解析と侵食の正体へ。




