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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第八章 新たな攻略

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第117話 火を宿す斧槌

# 第117話 火を宿す斧槌


 赤く脈を打った斧槌を握り直し、Cainは低く笑った。額には、本人が気付いているのかいないのか、細い汗が浮かんでいる。


「助かる」


 誰に向けた言葉かは分からない。Arcか、Novaか、斧槌へ宿ったサラマンダーか。あるいは、この武器を作ったDwalfかもしれない。


 けれど、その一言だけで十分だった。


 Cainが踏み込む。


「《疾駆》」


 床が鳴り、白銀竜人との距離が一瞬で消えた。斧槌の槌頭には、サラマンダーの火が沈んでいる。表面で燃えるのではなく、白銀輝鉱の芯を通って奥へ潜り込んでいる。


 白銀竜人は反応した。


 左腕を逃がす。


 速い。


 盾を砕かれることを、白銀竜人はもう理解している。外殻盾をCainの軌道から逃がそうと、肩を捻り、足の重心まで変えてくる。


 Rainが右側へさらに踏み込み、白銀竜人の視線を引き戻す。Crowの鎖が踵を押さえ、Garmの盾が大剣を床へ流したまま押し込んでいる。Siaの矢が残した細い傷は、Cainの目に白い線として映っていた。


 全員で作った一秒。


 けれど、その一秒すら、白銀竜人は削ってくる。


 白銀竜人の左肩が沈む。


 Cainの斧槌が、狙いから外れた。


 Arcの喉が詰まる。


 ずれた。


 このままでは、浅い。


 斧槌の槌頭が外殻盾の端を掠め、白い火花だけを散らす。Siaの傷へ届かない。せっかく作った一秒が、空振りに近い形で消えかける。


 Rainがさらに踏み込んだ。


 大剣の風圧が頬を裂き、細い血が一筋だけ流れる。それでもRainは下がらない。白銀竜人の視線を、ほんの一瞬だけ右へ引き戻す。


 Garmも盾を押し込んだ。


 床へ流した大剣を、さらに半歩だけ押さえ込む。盾の裏で腕が悲鳴を上げる。だが、押す。ここで戻せなければ、Cainの一撃は終わる。


 Crowはもう何も言わなかった。


 鎖を握る手に血が滲む。黒い光はほとんど残っていない。それでも、踵だけは離さない。


 その時、Cainが笑った。


「上等」


 踏み込んだ足を、さらに半歩沈める。普通なら体勢が崩れる無理な踏み込みだった。だが、新しい斧槌は腕だけで振る武器ではない。白銀の芯が衝撃を足元へ流し、Cainの全身を一つの重さへ変える。


 Cainは斧槌の軌道を、力任せではなく身体ごと押し替えた。


「《破断》」


 低い声だった。


 叫びではない。


 踏み込み、腰、肩、腕。そのすべてを斧槌へ乗せる。槌頭の奥でサラマンダーの火が膨らみ、白銀の筋を通って衝撃の中心へ集まっていく。


 ガギィッ!!


 最初の音は、砕ける音ではなかった。


 止められた音だった。


 白銀竜人の外殻盾は、Cainの一撃を受けても割れない。表面が歪み、Siaの傷がわずかに広がるだけで、まだ形を保っている。硬い。冗談みたいに硬い。


 Cainの腕に重さが返る。肩が軋み、掌の感覚が一瞬だけ薄れる。それでも、以前の斧槌とは違った。衝撃は腕で暴れず、白銀の芯を通って足元へ落ちる。Cainは一歩も退かない。


「まだだろ」


 Cainが歯を食いしばる。


 サラマンダーが吠えた。


 斧槌の奥で、火がもう一段深く沈む。Novaの表情がわずかに歪み、Arcの《マナヒール》の光がそれを支える。シルフが羽を震わせ、火が外へ散らないように風を細く絞った。


 Garmは盾の裏で低く息を吐き、大剣を床へ押し付け続ける。Crowの鎖が最後の黒い光を散らし、Rainは右側から離れない。Siaの矢が残した傷が、白い線の奥で震えた。


 ピシ。


 小さな音がした。


 Cainの目が細くなる。


 届いた。


 だが、そこで終わらせない。


 Cainは斧槌を引かなかった。叩き込んだ衝撃を抜かず、外殻盾の内側へねじ込むように押し込む。足元の石床が砕れ、靴底が沈んだ。


 ピシ、ピシ、と亀裂が広がる。


 白銀竜人が初めて左腕を引こうとした。


 間に合わない。


 バキィッ!!


 外殻盾が砕けた。


 白銀の破片が空洞へ散る。薄い板のように割れた外殻が宙を舞い、洞窟の淡い光を反射して白く瞬いた。Cainの斧槌はその中心を抜け、白銀竜人の左腕を大きく弾き飛ばす。


 一拍、誰も動かなかった。


 水滴の音だけが落ちる。


 砕けた破片が、石床へ遅れて降った。


 カラン。


 白銀竜人の左腕から、外殻盾は消えていた。


 それは勝利ではない。


 ようやく一枚、剥がしただけだ。


 Rainが「開いた……」と小さく息を吐いても、Siaは弓を下げなかった。Crowは鎖を引き戻しながら、苦々しそうに手首を回す。Garmは盾を構えたまま一歩も退かないが、盾の裏の腕はまだ震えていた。Novaの肩では、サラマンダーがCainの斧槌からふわりと戻り、疲れたように小さな火を揺らしている。


 Cainは斧槌を肩へ担ぎ直そうとして、すぐにやめた。


 腕が重い。


 補助契約の火力を通した反動が、身体の奥へ残っている。息も少し荒い。それでも、笑みは消えなかった。


「壊せたな」


 Arcは頷かない。


 白銀竜人が、まだ倒れていないからだ。


 白銀竜人は砕けた左腕を見た。


 次に、Cainの斧槌を見る。


 最後に、Novaの肩のサラマンダーを見た。


 痛みを確かめているのではない。


 原因を記録している。


 その仕草に、Arcの背筋が冷えた。


 砕かれた左腕をゆっくり下ろし、白銀竜人は大剣を右手から両手へ持ち替えた。盾を失ったはずの姿勢に、迷いはない。むしろ、余分な重りを捨てたように、剣先が静かに上がる。


 空洞の空気が変わった。


 さっきまで剣と盾へ分かれていた白い光が、今度は大剣だけへ集まっていく。刃の輪郭が濃くなり、床に落ちる影まで鋭く伸びた。


 盾は砕いた。


 第一段階は越えた。


 だが、終わりではない。


 白銀竜人の黄色い瞳がCainを見て、次にNova、最後にArcへ向く。まるで、誰から崩すべきかを選び直しているようだった。


 Garmが盾を上げる。


 Cainも重い腕で斧槌を構え直す。


 大剣を両手で握った白銀竜人が、一歩前へ出た。


 その一歩だけで、石床が白く軋む。


 Arcは静かに息を吐いた。


「第二段階だ」

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