9(両想編)
早春。私の誕生日。
毎年、リアンは可愛いブーケをくれる。今年は赤い薔薇とブラックパール色のラナンキュラスだった。
「リアン様、ありがとう!すっごく綺麗!」
「どういたしまして。」
「ミリィ、私からはこれを…、開けてみて。」
小さな箱を開けると大きなダイヤモンドの指輪が1つ。
「…えぇ…と、これは?」
「ミリィ、卒業したら私と婚約してほしい。今、イブスタイン侯爵からルパルト伯爵に正式に申出をする手続きをしている。ミリィのお父上から連絡が来るだろう。私は、これから王宮に出立しなければいけないから、もう行くけど、詳しくはまた。」
「え?え?…」
ルキは、颯爽と行ってしまった。待って。こんなの貰いたくない。嫌なのに。だって、私は…。
悔しくって、苦しくって、涙が頬を伝っていく。心配そうに見つめるリアンの顔が、涙で曇る。
私は、胸が張り裂けるほどリアンを好きになってたんだって、もう遅すぎる恋に今さら気づいて、涙が溢れて止まらない。リアンが背中をさすってくれればくれるほど、つらくて涙が止まらない。
誕生日が最悪の日になった。
ビアンカに泣いてばかりいないで、少しは食事してって言われるけど、あの日から心が死んでしまったみたい。
お父様からの手紙で、急いで領地に帰った私の蒼白な顔を見て、お父様は結婚は私の意思を尊重するとだけ言ってくれた。
でも、そんなこと許されるはずがない。侯爵家の申出を、貧乏伯爵家が断われば、お父様、お母様、リックにまで迷惑をかけてしまう。侯爵家との縁は、家族を、領民を、領地を豊かにしてくれるはずだ。そう分かっているのに、もう少しだけ気持ちの整理をさせてと願う私はわがままだと思う。
リアンにちゃんと好きって言いたかった。もう、それは叶わないけど…。
もう少しだけリアンのことを好きな私でいたい。願わくば、私にもう一度チャンスをください…と。