39(婚約編) リアン〜side〜
1話ずつ毎日21時頃の更新予定です。
夏に一度、剣術大会がある。第一騎士団は元より、第ニ、第三、近衛や予選を勝ち抜いた一般人が勝ち抜き戦で争う。俺は、第一騎士団筆頭のシード枠で出場する。怪我人も多いし、暑い最中に長丁場で闘うのだから倒れる奴もいる。何のための大会か分からないが、強制参加なので致し方ない。見物客も多く、かなり盛り上がるし、騎士団員の中にはこの大会を目標に稽古する奴もいる。
俺が遅番の時は、ミリィはフロイト公爵令嬢とお菓子作りをするのが恒例だが、今日は遅番ではないのに、仕事の後に集まると言って、未だ帰ってこない。時計を見て、そろそろ帰ってくるかなと思い始めてから、もう大分経つ。
「ディミトリ、俺が遅番のとき、ミリィはいつもこんなに帰りが遅いのか?」
「はぁ…若旦那様、若いお嬢さんがお友達に会うのに、そんなすぐには終わりますまい。積もる話もありますでしょう。」
俺は暇を持て余し、「それなら、手合わせしろ。」とディミトリ相手に剣で発散する。
「ディミトリ、弱くなったんじゃないか?」
「若旦那様がお強くなったんです。年寄りをいじめないでくださいよ。」
俺の相手ができるなら、ディミトリもまだまだいけるな。
「リアン、ただいま。お稽古してたの?」
「ミリィ、おかえり。遅かったね。」
「えぇ、週末の剣術大会に差し入れするクッキーをたくさん焼いたのよ。」
「今、剣術大会って聞こえたけど?」
「ビアンカに剣術大会を見に行こうって誘ってもらったの。私、そんな大会があるなんて知らなかったわ。リアンも出場するのよね?」
敢えて言わなかった。あんな野郎ばかりのところに、ミリィが来たら今度こそ大変なことになる。一度、ミリィが第一騎士団の詰所に来たとき、急いで帰らせたけど、瞬く間に噂は広まってしまった。見た奴が少なかったので、ようやく『幻』として収まってきたのだ。来るなと言っておかなかった俺が悪い。
「物騒な大会で流血や怪我もあるし、ミリィには見せられないよ。だから、来ないでくれ。」
「私、大丈夫よ?ビアンカに一緒に行くって言ってしまったし。観客も女性が多くて、盛り上がって楽しい大会って聞いたの。クッキーも作ってしまったわ。」
「差し入れ、ありがとう。皆、喜ぶよ。俺が言っておくから。」
「でも、婚約者が出場するお友達は、皆んな応援に行くって言ってたの。私も…行きたいわ。」
「それは、試合に負けた時に婚約者や家族から赤薔薇を一輪貰うからだよ。俺は最後まで負けないから、必要ない。」
「でも…お友達もビアンカも見に行くって、私も見たいの。」
困ったな…。ミリィが俺をぎゅっと抱きしめて、訴えてくる。
「…俺の出番は一瞬だよ。暑いし、長いし、心配だから。」
「私、大丈夫よ?ビアンカが日陰の見やすい席を取ってくれたの。お願い。」
「…だめなものは、だめ。」
「…どうしても??」
俺の目を真っ直ぐ見る薄紫の瞳。
「…うん、どうしても。」
間違ったと思った。ミリィの瞳が潤んでいく。
「…うぅ…うぅ…皆んな行くのに、なんで私はだめなの?」
…泣かした。俺が泣かしてしまった。顔を覗き込むと、いやいやと顔を横に振る。
「ごめん、ミリィ。俺が悪かったから、泣かないで。」
「…だって、うぅ…。」
涙を拭おうとすると、手を振り払われる。行き場を無くした手が、右往左往する。
「ごめん。本当に俺が悪かった。お願いだから、泣かないでくれ。」
「…行きたいのに、うぅ…。」
どうしたらいい?今からでも遅くないなら、来てくださいってお願いするか?この涙の前では、俺の望みなんて小さなものだ…。
「…ミリィ、本当に俺が悪かった。もう一度、話し合おう?」
俺は再びミリィの顔を覗き込み、もう一度手を伸ばす。
「…いやっ!」
手を振り払い、ミリィは駆けて行ってしまった。
呆然と立ち尽くす。俺は、その場を動けなかった…。
ep.37改稿して申し訳ありませんでした。よろしくお願いします。




