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3-4 現実時間10 → 予知世界5?

「ねえ、浩太。」

それは何気ないいつもの恋人同士の甘い時間のはずであった。


「私、浩太と同じ高校受験することにしたから。来年からよろしくね。」

何気ない寧子の一言に、浩太は思わず我が耳を疑った。


「は?」どうにか口をついて出た一言が、安っぽいそんな台詞である。

「あなたと同じ高校を受けることにしたから、来年1年、よろしくね。コータセンパイっ!」

寧子が何やら可愛らしい声でそんなふうに言ってくる。


「いやいやいやいや!」浩太は慌てて反論する。「いや待て寧子! お前だって、確か頭はいい方だって言ってなかったか! うちの高校進学校とかでもないし、お前ならもっと上を狙って……!」

「あのねぇ浩太。」やれやれと言った様子で寧子が口を挟む。「別に私の能力があれば、高校なんてどこ受けてもどうとでもなるのよ? それよりも浩太。私は浩太と恋人として同じ高校に通った未来は一度も体験したことがないの。

そうじゃない赤の他人として同じ高校だった予知は何度か見てるけど、これは初めてのことなの。

だからぜひともリアルで体験してみたいと、そう考えているのよ。


それとも浩太。あなたは私が同じ高校に通うのはイヤ?」

寧子は見上げるようにして上目遣いでそんなふうに言ってくる。


「いや……。別に嫌とかじゃなくて……。突然だからびっくりとしたというか……。いや……。」


次の瞬間だった。

浩太は唐突に見慣れた学校の玄関口に立ち尽くしていた。

いつもの下駄箱、いつもの校庭前。季節は春で、入口の向こうでは満開の桜が風に花びらを舞い散らせている。


いったいどういう事だろうと訝しみながらも、ともかく外履きへ履き替えた浩太が玄関の外へ出ると、一人の少女が待ち受けていた。


黒髪で長身の、とても美しい少女。浩太がよく知る彼女が浩太がよく知る学校の制服に身を包むその姿は、浩太にとっては初めての景色で、それはとても新鮮なものに思えた。


これほどまでに美しい女の子である。周囲が遠巻きにこちらの様子を伺っている気配がびしびしと伝わってくる。

だが目の前の少女はまるで意に介した様子もなく、真っすぐに射貫くような目で浩太だけを見つけてくる。


少女はニコニコと嬉しそうに微笑みながらこう話しかけてくる。


「これから1年間、よろしくお願いね。センパイ!」


そのまぶしい笑顔に浩太はクラリとなって……。



バチンっ!



浩太は唐突に今の自分が高校2年生で、恋人である寧子と自分の家の中にいることを思い出した。

傍らではその寧子が心配そうに浩太の顔を覗き込んでいる。

「大丈夫? 浩太。なんだか顔色が悪いわ。」


浩太は頭を振ってこれに応える。

「大丈夫。……っていうか、なんか。」ここで浩太は大きく一呼吸おいて、「……なんか今、来年の春にお前にさんざん振り回される未来が見えた。」


寧子はぱちくりと大きなお目目を瞬きさせ、それからケタケタと笑い出した。

「あら? 浩太! あなたもいよいよ予知能力者デビューね!

予知というものは唐突に見えるものなのよ。それもまるで白昼夢のように、まるで現実のものであるかのように身近に感じられるの。

始めのうちは私もびっくりしたものだわ。けれども慣れればある程度コントロールできるようになるから、やり方は全部私が教えてあげるわ!」

はしゃぎ声でそんな事をのたまう寧子に対し、「いや、いい。」浩太はお断りの返事をしておく。


運命論が大嫌いな浩太は予知なんてもってのほかなのだ。

例え今しがたのヴィジョンが未来を表す予知であったとして、そんなものを頼りに生きていくなど到底受けいられるものではない。

未来はいつだって真っ白で、偶然に支配されてまるで予測がつかない。

そうでなければ浩太の世界はあっという間に面白くなくなってしまう。


だが今しがた脳裏に焼き付いた未来の寧子の立ち姿はあまりにも生々しく、なにより真実味に溢れていた。


予知とは何か?

それは人の願望か?

100%決められた運命のなれの果てか?


運命とは何か?

己が自我を否定する決められた演算の結果なのか?

それとも偶然を必然に変える魔法の力か?



浩太には分からない。

分からないがしかし、まだ来ぬ未来の学校に立つ黒髪の少女はあまりにも美しく、浩太はぜひもう一度彼女に逢いたいと、なぜかそう願ってしまうのだった。



だがこの先の未来は開かれている。

真っ白な未来に向かってどのように物語が描かれるかは、語らぬことによりその自由が保障される。


だからこの物語はここでお終い。

浩太と寧子の幸せな未来は、我ら現実の人間が生きる世界と同じだけの無数の可能性に満ち溢れているのだから。



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