10.孤独な女王(4)
その頃トラードたちは、ミコトと一緒にゴーレムと戦っていた。
ルリラナは、空を見て風の方向を見る。地属性の魔物は、風に弱い。風の魔法と言えば、サイクロンだ。
四メートル近い魔物を倒すには、さっきとは比較できない大きな竜巻なら簡単だろう。その為には、集中できる場所と自然の力、そして、多くの魔力が必要だ。しかし、いくら純血のエルフであるルリラナ一人の魔力では、作ることが出来ない。
一人でも多くのエルフが必要だ。しかし、此処は、人間の国。エルフなんて珍しい。
「サイクロンの以外の魔法…私が知っている魔法…」
ルリラナは、考える。呪文を唱えないと。 ラルクが来るまでこの目の前のゴーレムを殺さないと
ルリラナは、ふとある呪文を思い出す。
「刃の如く風の剣、全てを切り裂け…ーーウィンドソード」
するとトラードの剣に風が纏いトラードは、走ってゴーレムの足を切る。ゴーレムは、バランスを崩し倒れていく
「やっ…え?ちょっ」
効果は、抜群な筈だ。足は切り落とされた筈だ。後は、急所である胸の心臓部を狙うだけの筈だ。なのに何故かゴーレムは、ピンピンとした様子で何事もなかった様に平然と立っていた。
「何で?どうしてなのよ!?」
「確かに僕は、足を狙ったはずですよ!?」
「ならどうして無効なんだ!?」
弱点は、風だ。地の魔物であるゴーレムが風の攻撃が無効な筈がない。ルリラナは、考える。しかし考えても解らない。
「きゃああああ!」
考えているうちに街の人が魔物に襲われている。ミコトは、慌てて魔物を殺しに向かった瞬間、油断しているミコトをゴーレムは、後ろから殴り飛ばした。
「痛っ!」
「ミコト!」
ルリラナは、走ってミコトの近くに行き癒しの魔法で、ミコトの傷を直す。
「俺は良い…ゴーレムを殺せ…」
「でも!ラルクにミコトを守れって!」
「ルリラナ…貴様は、エルフだ。あのゴーレムを倒せるのは、この街で唯一貴様だけだ」
しかしルリラナは、ミコトの治癒を止めなかった。ミコトは、ルリラナを見る。
「だから私は、ミコトの傷を癒すのよ。この国を守る女王が死んだらダメだから」
目の前では、トラードが剣をふりゴーレムと戦っている。ラルクのせいで目立っては、無かったが方目に眼帯をしていると言っても剣術が自己流と言ってもなかなかの腕前だ。
エルフとハーフエルフと人間の不思議な3人組。ミコトは、鼻で笑う。
「俺は、死なない」
突然、立ち上がりルリラナを突き飛ばす。ルリラナを狙って攻撃をしていたゴーレムに気づいたミコトは、再び攻撃を食らった。
「ルリラナさん!ミコトさん!」
ルリラナは、起き上がりミコトの所へ走って向かった。ゴーレムの攻撃を食らったミコトは、気絶をしているが、生きている。ルリラナは、ほっとした顔で、トラードを見る。
「良かった…」
二人は、無事だ。しかし、一向に終わりが見えない戦い。魔法が使えないトラードにとっては、かなりの苦戦だ。弱点が解らない。新種のゴーレムなのだろうか?風が無効なら地属性ではない。
「弱点は“水”だよ」
「え?」
聞きなれない声がする。女性の声。トラードとルリラナは、辺りを見る。
「こっちだよ。上」
「上?」
二人は、言われた通り上を見ると屋根の上に長いオレンジ色の髪をサイドポニーテールをしている女性が仁王門だちで、立っていた。
この街は、屋根の上に上がるのが好きなのだろうか?と思いながら二人は、見ていた。
「あれはホニマーだよ」
女性は、屋根から飛び下りゴーレムを見る。
「ホニマー…火属性の魔物。あらゆるモノに化けいたずらなどをする化け狐ってことは…」
ルリラナは、考える。
「例えあれがホニマーだとしても水の魔法は、人魚しか使えないぞ?」
「ラルクさんにサンさん!って何で、男二人で手を繋いでるんですか!?」
やっとたどり着いたラルクとサンを見て、トラードは、ドン引きをしながら言った。
サンは、繋いでいる手をほどき気絶をしてるミコトの所へ向かいミコトを安全な場所へ向かった。
「確かに水の魔法は、人魚しか使えないけどこの魔法道具を使ってみたらどうかな?」
女性は、水の魔方陣が書かれた剣をラルクに渡す。水の魔法を宿した剣を使えば、このホニマーは、倒すことができる。
「ちょっ!ちょっと待ちなさいよ!」
「は?」
ゴーレムの姿を変え人間のケバい女性の姿に変わった。
「んもう!あと少しだったのにー!!水の魔法なんて嫌よ!たださえあの眼帯の坊やの剣だけでも痛いのに!もーう!嫌!」
ホニマーは、腕をくみ女性を睨み付けすたすたと歩く。
「本当、あと少しで、女王を殺すことが出来たのに…」
そう言って、不気味に笑う。ラルクは、少し考え水の魔方陣をさわり剣を発動させる。
「何よ?あんた、この美しい女性が解らないの?私は、この世界で一番美しい女性って言ったら“ティファニー”よ?そんな物騒なもの捨てなさい」
ラルクは、にっこり微笑みホニマーに剣を向け構える。
「お前は、女性じゃあねぇーよ。オバサン」
「ちょっ!」
ラルクは、剣をギリギリのところで止めて少し考える。ホッとした顔で、ホニマーは、ラルクを見る。
「オバサンでもじゃあねぇか…ホニマー」
「いやー!」
剣を振ると同時に水が舞い上がるが、しかし何も感触が無かった。こんな至近距離でまさか空振りをした?違うホニマーがいた足元に魔方陣があるとこからこのホニマーも召喚陣により呼び出された魔物だ。誰かに呼び出されて、強制帰還されたのだろう。気づけば何もなかったように魔物の全て消えていた。
いったいなぜ、何のために、誰がこの騒ぎを起こしたのだろうか?
ラルクは、目を細目辺りを見ると黒いローブを着た人が、立っていた。
「アイツは!」
黒いローブを着た人を見ると片手には、龍王の欠片を持ち片方の手でラルクを指し手を振ってその場を後にした。
「この騒ぎを起こしたのは…」
龍王の欠片を集めている奴の仕業。そして、ラルクの中に龍王の欠片を宿している事も知っている奴。あいつがこの騒ぎを起こした。アイツは、誰だ。何者なんだ。ラルクは、考える。
「“朱獅子の目”だ」
気が付いたミコトは、ふらつきながら言った。
「朱獅子の目ってなによ」
「…………後で、詳しい話しはするが、今は、死んだ者への最後の祈りをするからもう少し付き合ってくれ」
「ああ」
そう言って、ラルクは、借りた剣を女性に返そうとしたが女性は、すでに居なくなっていた。