25.2つの魂、1つの心(1)
その頃、ルリラナは、と言うとあの変な夢を気にして、こっそり家に帰っていた。
「治癒魔法について、書いてある本は、確か地下にある書庫だったわね」
ルリラナは、息を飲み地下へと降りてた。あの夢が何なのか。夢は、所詮夢だ。非現実的で、ありえない。しかし、時に意味がある時もある。
ルリラナは、本棚に並べられた本を一冊づつ見て、やっと見つけた治癒魔法の本を手に取った。この本を手にするのは、2回目。初めて、治癒魔法を使った時だ。
「あの頃は、今使っている魔法だけしか解らなかったわね。今の私ならきっと…っ!」
本を開き一行、一行読んでると精霊が現れた。その精霊は、かつてビオラから受け取った精霊。知られざる生命の精霊“エイム”だ。
「全て、理解し私の声も解るのですね?マスター」
「……」
この本に書かれている事も、精霊の声も聞こえる。ルリラナは、最後のページを見ながらエイムに言った。
「思い出した。思い出したけれど…エイム…私…私…」
ルリラナは、泣きそうな顔で、苦しそうな顔で
エイムを見た。エイムは、優しく抱きしめて黙ったまま頭を撫でた。
ルリラナは、解っていた。彼女が、答えを言わない事も自分がやるべきことも解っている。でも、しかしルリラナは、その答えを否定するしか出来ない。
自分が何者か。それは、アストの魂を持つ者。自分がやるべき事。それは、肉体と魂を1つにする事。
「ルリラナ」
優しくルリラナを呼ぶ声。この声は、知っている。ルリラナは、血の気が引き弓矢を取り出し強く握った。
「どうして、あんたがいるの?ヘル」
「酷いな。昔みたいにクク師範と言ってくれないのか?」
クク・エルメル・ルース又の名をヘルだ。ヘルは、知っていた。ルリラナが、アストの魂を宿していること。ラルクが、アストの肉体だと言うことを。
ヘルは、ルリラナの近くへ向かい顔を近づけた。
「私もお前もお互いに殺し合いが出来ないだろ?」
「何の用よ?」
「用がないと会ったらダメなのか?」
ルリラナは、一歩下がり威嚇するようにヘルを睨みつけたが、そんなルリラナを嘲笑うかのように机に座った。
「1つ“物”に2つの魂は、入れない。貴女が、本当に“救いの女神アスト”になりたいなら肉体を持っている“物”の魂を消さないとな。“魂を消す”すなわちラルクを殺す。貴女は、出来る?」
「私は…っ!」
出来ない。出来ない。好きになってしまったのが、間違いだった。知らなかったから、知ろうとしなかったから。ラルクが好きだ。好きだ。好きだ。でもルリラナは、ラルクを殺す事で、アストへとなれる。そうすれば、混沌へと成り果てた世界も元の姿へと戻る。
争いも、殺し合いも、痛みも、無くなるのだろう。そうすれば、アークルも目覚めるのだろう。
戸惑っているルリラナを見て、ヘルは、ニッコリ微笑み
「私と貴女は、同じだ。でも私と同じ選択を選ばないだろな」
そう言って、消えていった。ヘルが言っている意味は、解る。ルリラナは、目をそらし本を閉じエイムを見た。
「エイム。お願いがあるの」
「はい。何でしょう?」
「ーーーーー」
ルリラナが言うことにエイムは、目を見開き悲しい目で、深々とお辞儀をして、光となって消えた。ルリラナは、本を持ったまま書庫へ出る事にした。
「ルリラナ」
「パパ」
レホルは、ルリラナが帰ってきたと話を聞いて、ルリラナの元へ駆け寄って来たようだ。息も上がり少しだけ汗もかいてある。どうやら走ったようだ。ふと、手に持っている本を見て、レホルは、顔色を変えた。
「全部、読めたんだな」
「うん」
「その本は、ククから貰った本だ。ククは、いずれお前が、解読が出来た同時に二度と此処へは、戻らないだろうと言っていた。
…せめて、プリンセチアに別れを行って、出ていってくれ」
レホルは、目をそらしながら悲しい目で言った。ルリラナは、そんな父親を見て、目をそらし少しだけ考えてこう言った。
「パパ。私は、別れを言わないわ。だって、必ず帰るもの。どんな事があっても、どんな明日があっても、私が帰るべき場所は、此処だから。絶対に私は、ラルクと一緒に帰るから。さよならじゃなくて、私は、こう言うわ」
そう言ってルリラナは、レホルの近くへ向かい頬を触りニッコリ微笑んだ。
「行ってきます」
レホルは、涙を流しルリラナの手を握った。冷たい手。震える手だ。我が娘ルリラナ。愛しい愛しい愛娘。小さい頃は、病弱で貧弱だった。病弱で病弱な体を強くするためククから弓矢と魔法を覚えさした。レホルに似て、魔法の解読が苦手だ。弓矢は、ルリラナの母プリンセチアに似て上手だ。
ククが処刑された日ルリラナは、強くなった。多分それは、レホルもその理由を知っている。
レホルは、ルリラナのおでこにキスをしてこう言った。
「行ってらっしゃい。我が愛しい愛娘ルリラナ。お前の無事に帰ってくる事を願っている」
ルリラナは、おでこを触り微笑みながら小さく手を振り家から出て行った。