その頃…。
「きいいいいっ!!! このボクちんがメグちゃんに出し抜かれたなんてーーー!!!」
光の楽園、城内。チャールズは地団駄を踏んでいた。
「せっかくの楽しいオモチャだったのに、あっけなく壊れちゃった……。どうしよっかなぁ、ボクちん暇になっちゃったよ~」
人質として捕えられている玲は、彼のその様子を見て吐き気がした。『変な奴』とは彼のためにある言葉なのだと改めて認識する。
そんな玲の視線に気付いたのか、チャールズはくるりと振り返り、不気味な笑みを浮かべて言う。「玲ちゃんは、ボクちんの新しいオモチャなのかなァ?」
「ありえない」
玲はズバッと言った。その言葉はチャールズをぐさりと刺す。だが彼はめげなかった。そもそも、めげるという言葉を彼は知らないのだ。全てが自分の思い通りだと思っている。
「ボクちんの言うこと聞かないと、串刺しにしちゃうよ?」
「そうしたければ、するがいいわ。私はあなたを助けないから」
「……助ける? アナタ、何を言っているんです。いい加減にしないと本当に殺しますけど?」
チャールズの表情から余裕の笑みが消える。玲はまともに取り合わなかった。
「可哀相な人ね」
「鈴、お前いい加減機嫌直せや」
シュンエイは苛立ちを隠せない様子で鈴に話しかけた。一体どちらの機嫌が悪いというのか。レイチェルには違いが分からなかった。
「それで、ここから一番近い街はどこだ?」
ゼロがニックに尋ねた。ニックは少しの間首を傾げていたが、「ここからだと、『過去の荒波』かなぁ」と言った。
『過去の荒波』とは、光の楽園の西側にある小さな街だ。元『タタンの国』の民が住んでいる。光の楽園が攻めてきたせいで、タタンの国は滅びてしまったのだ。今は光の国の植民地となり、名も『過去の荒波』に改められている。
「どうでもいいじゃん、そんなの」
唐突に鈴が口を開いた。あまりにもいきなりだったので、全員が鈴に注目する。
「どういうことだ?」
「だからァ、どこが一番近い街だとかそんなのどうでもいいって言ってんの。さっさと女帝様? のところに行って玲を助けようよ」
「フローラの城まで行くのに最低でも三日はかかるわよ」
すると、鈴は無言で魔法エネルギーを細長いロープに変えた。城の方角を再確認し、彼は作り上げたロープに軽く触れる。すると、ロープは意思を持ったかのようにゆっくりと動き出し、終いにはとてつもない速さで城の方へと消えて行った。暫くしてからロープの先が鈴の元へと戻って来る。
「あんたら僕をみくびってない?」
鈴はハッと嘲笑った。今までの無邪気な彼を思い起こさせるものは何もなかった。彼はロープをぎゅっと握り、冷たく言い放った。
「もういいよ、僕は一人で行くから。……大切なものが奪われたことのないあんたらには、あの城に囚われている彼女の気持ちなんて分からないんだ」
あ、ちなみに。去り際、鈴はたった今思い出したかのように彼らに告げた。
「誤解しないでほしいんだけどね、僕は鈴じゃないよ」
僕の名前は鈴だ―――。