懐かしき友人
仲間が増えました。
私たちはLEC本社ビルを出た。
最近、様々なことが一度に起きているような気がする。―――そう、全てはアリスたちがやって来たところからだ。
問題はアリスとフリードリヒを送り届けた後だった。
あれから鈴は一言も喋らなくなってしまった。快活さが消え失せ、常に無表情だ。ゼロは元々無口だし……。私がどんな状況に置かれているか分かる? この気まずさは耐えがたいのよ。
「それにしても、あんさんら面倒事に首突っ込み過ぎやとちゃいます?」
シュンエイが溜息混じりに言った。彼が口を開いたことによって沈黙は破られる。
「相手はあの残酷な女神様やで? フローラ様言うたら光の楽園を敵に回したようなもんやんか」
「そうよね、やっぱりそう思う? ……って、あなた何で関西弁なのよ。さっきまで普通に喋ってたじゃない?」
「何や、普通て。関西弁も『普通』や!! 俺は元々関西弁喋っとったんや。けどのぉ、イハウェルのおっさんが標準語に直せ言うたからわざわざ直してやったんよ。文句あるかいコラ」
シュンエイがムッとした表情で詰め寄って来た時だった。
「はいはい、喧嘩はよしなよ良いことないぜ?」
聞き覚えない声が聞こえたかと思うと、『彼』はシュンエイを掴み取った。「何するんや!?」
「だからァ、喧嘩は良くないって言ってんの。あんた手乗りワニ族でしょ? オレの言葉分かるよね?」
シュンエイは顔を真っ赤にして怒鳴った。「馬鹿にするな!!」
若者はやれやれと言ったように肩を竦める。その時、ゼロが『彼』に言い放った。
「お前はいつも唐突だな」
若者は声に振りかえる。
「あんたも全然変わってないぜ、ゼロ」
次の瞬間、二人はガシッと拳を交わした。
「久しぶりだな!!」同時に二人はにやりと笑う。
「ゼロ、その人は?」
「ただの知り合いだ」
「つれないこと言うなよ、ゼロ! 俺たち、親友じゃなかったのかよ?!」
「冗談」ゼロはフッと笑った。
「こいつは俺の親友だ。……自己紹介は自分でやれよ?」
「自分でやるから自己紹介って言うんだろ? まあそんなのは置いといて。オレはニックって言うんだ」
「レイチェルよ。よろしくね」
「ああ、よろしくな。……ところで、そこにいる少年は? 元気無さそうだけど」
「鈴か。実はたった今、お前の国の女帝に玲を―――あいつの姉のことだが―――人質に取られてしまってな。傷心している」
どうしようもない、と言いたげにゼロは溜息をついた。
「―――よしっ。じゃあオレもついて行ってやるよ!」
「………は?」
ゼロは反射的に訊き返した。いきなり何を言い出すんだ、と顔にはっきり書いてある。
「『は?』じゃねーだろ? オレの言わんとすることに気付いてくれよ、察しの良いお前らしくねえなぁ。詳しいことは知らないけどさ、要するに困っているんだろう? オレが協力してやるよ」
「お前の協力なんかいらない」
ゼロはスパッと切り捨てた。すると、ニックは腕を組み激しく頷いてみせる。
「なるほど、お前は『一人で』女帝様に立ち向かうんだな? いやぁ、凄い勇気と自信だなぁ。オレだったら絶対に無理だね! その自信過剰には惚れ惚れするよ、流石ゼロだ!」
「誰もそんなことは言っていない!」
ゼロがブチ切れた。彼が怒鳴るところを私は初めて見たかもしれない。っていうか、ゼロって怒るんだ……?
「―――俺は、自信があるわけじゃないぞ」
自分がキレてしまったことに気付いたのか、ゼロはいつも通りの口調で―――淡々と言い直した。
「協力しなくていいと言ったのは、お前に迷惑がかかるからだ。お前の母国は光の楽園だろう? フローラを敵に回すのはまずい」
「別にいいも~ん。オレ、旅人だから」
どこ吹く風である。
「帰る家がなくなってもいいのか?」
するとニックは困ったように笑った。
「旅人に帰る家なんてないさ。だからオレは旅人なんだ。……それに、迷惑とか考えなくていいんだぜ? 『旅は道連れ世は情け』ってな!」
ゼロは面倒くさそうに「分かったよ。よろしくな」と渋々了承した。
「ああ。よろしくな、ゼロ!」