第21話 縁談と、道三の余計なひと言
お玲と会ってから二度、三度と偶然が重なった。
一度目は関の薬屋の前。二度目は城下の市で。三度目は道三の城に向かう道すがら——お玲が父の使いで城下の医師のもとへ薬を届けに行く途中だった。
「また会いましたね」とお玲は言った。
「また会いましたね」と雲八も言った。
(これは偶然じゃなくて、俺が無意識にお玲が通りそうな道を選んでいるかもしれない)
自分の行動を冷静に分析したら、そういう結論が出てしまった。四十二歳の転生者が十代みたいなことをしている。少し恥ずかしかったが、止める理由もなかった。
三度目に会ったとき、少し長く話した。薬草のこと、関の郷の農民の体調のこと、冬の病がどれだけ多いか——お玲は話の幅が広かった。薬屋という仕事柄、いろんな立場の人間と話してきた人だと分かった。
道三に相談したのは、その翌月のことだ。報告のために城に上がり、一通りの話が終わった後で、雲八は少し迷ってから言った。
「道三様、少し私事を聞いていただいてもよいですか」
「なんじゃ」
「縁談を……考えております」
「ほう」
道三の目が光った。この人の「ほう」は、ただの相槌ではない。興味を持ったときの「ほう」だ。扇子を持つ手が、わずかに止まった。
「関の薬屋の娘です。名をお玲と言います」
「薬屋か」
「はい。賢い方で、私の変な話し方を不思議がらずに受け止めてくれます」
道三はしばらく扇を閉じたり開いたりしていた。それから言った。
「わしは反対せんが、ひとつ聞いていいか」
「なんなりと」
「お前、その娘に気があるから縁談を考えておるのか。それとも、条件が合うから縁談を考えておるのか」
(鋭い質問だ。道三様は、いつもこういうところを突いてくる)
雲八は正直に答えた。
「……両方です。でも気持ちの方が先でした」
「そうか。ならよい」道三は扇を開いた。「条件だけで決める男はつまらん。気持ちが先にある方が、長続きする。苦労しても腐らない」
「商売でも同じですか」
「商売は逆じゃ。気持ちが先だと失敗する」
二人で笑った。
「道三様から大島家への口添えはいただけますか」
「構わん。ただし」
道三は少し意地悪そうな顔をした。
「わしから口添えをもらったと言うな。お前が自分で頼め。武士がそのくらいできんでどうする。儂の名を使って縁談をまとめるより、自分で頼んだ方が後々ずっと良い」
(道三様、意地悪……でも正しいな)
「承知しました」
道三はまた笑った。「頑張れ」と言った。一国の主が「頑張れ」と言う光景は、普通ではなかったが、道三らしかった。廊下を歩きながら、雲八は少し気持ちが軽くなっているのを感じた。
縁談の話は、思いの外すんなりと進んだ。
大島家は弓衆の名家で、道三の信任も厚い。薬屋の父親は難色を示す理由もなく、むしろ喜んだ。問題はお玲本人の気持ちだったが、直接会って話したとき、お玲は少し考えてから言った。
「大島様は、変わった方ですね」
「そうですか」
「はい。でも変な方は嫌いではありません。父も変な方ですし、兄も変な方ですし、私自身も変な方だと言われますので。変わった人の方が、話していて面白い」
「それは……承諾と受け取ってよいですか」
「はい。よろしくお願いいたします」
(あっさりしてるな。でも、この人らしいとも思う)
こうして雲八とお玲は夫婦になった。天文二十一年(一五五二年)、雲八四十四歳、お玲三十歳のことだった。道三に報告すると、「やったか」と言って珍しく声を出して笑った。辰之助は「良かったです! 本当に良かった!」と言い、周囲が「落ち着け」と宥める羽目になった。
(続く)




