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8.ひとりじゃなくていいと思った

 

 久々に足を運んだ母校を出て、駅までの道のりで昨日と今日の出来事を振り返る。

 

 歩きながら思い出して、ふっと笑ってしまう。


 先生から文化祭誘われて、久々だしと思ってそら君も誘っていくことにしてた。

  そらくんとは高校の同級生で、卒業してから付き合ってる。


 でも……。

 多分。


 ぼくは、1人になりたくなかっただけなんだろうな。




 ギャルメイクにセーラー服を着た子が保健室に飛び込んできた。

 ギャルピースをしてる姿が似合ってた。


  そこだけ、光が集まっているみたいだった。

 


 最初見た時の印象は、可愛い子だった。

 180センチぐらいの身長でふわふわの髪の毛が、大型犬を連想させる見た目をしてた。

 

 元気のいい女の……子?いや、違う?そう思ってた時に先生が「太郎君」と呼んだのでやっぱり男の子なんだと思った。


 屈託なく笑う笑顔がぼくにはないな。

 そんな風に思った。


 彼をとり巻く空気が澄んでるような、ぼくの周りにいない人で興味が沸いた。


 この子と話してみたい。

 そう思った時にはもう話しかけていた。


 メイクもネイルもキラキラした目で説明してくれて、真っ直ぐした眩しさを持った子だった。


 この子……咲太郎が男のくせにとか言われて周りから嫌な目にあってるそれを聞いた時、考えるよりも先に言葉がでてた。


「男だからとかそんなの関係ない」


  そんな言葉を、この子にぶつける人がいるなんて許せなかった。

  ……この子に傷ついてほしくない。そう思った。


 少し照れたように笑う笑顔が可愛かった。


 なんだか……眩しい……な。


 自己紹介をし終わった時に、咲太郎が「たろうでいいよぉ。咲太郎って呼びにくいでしょぉ。みんなたろうって呼ぶからそれでいいよぉ」と言った。


 その時の笑顔がなんだか曇って見えて、ぼくは太郎じゃなくて"咲太郎"と呼びたいそう思った時には口から言葉が飛び出てた。


 もうすぐ駅に着く。


 その時咲太郎と呼んだ時の嬉しそうなくすぐったそうな恥ずかしそうな咲太郎の顔が浮かんできた。

 


 やっぱり今日ぼくもちゃんとしなきゃ。


 

 改札口に向かわずに、駅前のカフェに入り飲み物を頼んで、テーブルに座る。


 カバンからスマホを取り出して、

 そら君の名前を開く。


 少しだけ指が止まって、

 それでも……打ち込んだ。


『今日中にどうしても会いたい』


 普段なら連絡がなかなかつかないけど、今日はすぐに返事がきた。


『まだ友達と一緒にいる。18時過ぎだったら』

『うん。分かった。じゃあ18時に駅で』


 約束の時間まであと2時間ぐらい。

 帰ることに微妙だし、少しここら辺で時間を潰すことにする。


 自己紹介だけ済ませたら、また戻って来るから待ってて。そう言い残して慌てて帰っていく咲太郎。

 一つ一つの動きが、可愛いとの違うでも嫌じゃない激しさで目を奪われる。


「元気な子ですね」


 嵐のように去っていた咲太郎のことを先生にそう伝える。


「あの子を、みてるとこちらまで元気をもらえる。そんなパワーを持ってる子だよ」


 先生もそんな風に言う。それから先生とそら君の話になった。

 今日も一緒に来る予定だったけど、朝昨日友達と飲み会して起きれなくてパスと連絡が来てた。

 またいつものことかと何も思わなくなっていた。


「あゆむ。そらがしてることはいいことじゃない。それに慣れてるあゆむもだめだよ。お互いにとって今の関係はいいものとは思えないよ」

 少しだけ厳しさを含んだ先生の声。


「うん……でも……ぼく1人になるのが怖いんだ」

 そらくんは約束は守らないし、いつもドタキャンだし、そらくんが暇な時しか連絡もくれない。でも繋がれてはいるかは……1人じゃないって思えるから……。


「あゆむ。人は1人が怖いからで、付き合うものではないよ。お互い思いやれてない今の関係は歪んでる」


 眉を顰めて、静かに力強く先生がそう言う。

 先生の言ってることは正しい。


 けど……ぼくは1人が怖い。



 保健室の空気が静かに重くなる。


 その空気を変えたのは咲太郎だった。慌てて走ってきたのかまた肩で息をしてる。

 ぼくに咲太郎考案のパウンドケーキを食べて欲しい。それだけ言うとまた帰って行った。


「あゆむ。パウンドケーキは?食べて帰る?」

 先生が静かに聞いた。


「そうしよっかな。せっかく咲太郎がまた誘いに来てくれたから。咲太郎の教室に行って3年の後輩に挨拶してから帰ります」


 そう言って保健室を出た。

 廊下を歩きながら、先生の言葉が頭を駆け巡る。


 多分……ぼくも分かってる。


 かい君とぼくの今の関係は正しくない……。

 1人になりたくないだけで繋がってるから、恋人なんて言えない……。



 そんなことを考えてたら咲太郎の教室に着いた。


 入り口で咲太郎の名前を出すと、咲太郎を呼んでくれた。ぼくを見つけてパッと表情が明るくなって一目散にぼくに向かって走ってくる咲太郎。


 咲太郎を、みてるとなんだかぼくまで笑顔になる。


 不思議な存在。


 パウンドケーキを食べさせてもらって、後輩に挨拶してそのまま学校を後にした。


 廊下を歩いてる時に、そら君に『夕飯食べる約束は?』と聞いてた返事が咲太郎のパウンドケーキを見せてもらってる時に来た。


 やっぱりまただ……。

 結局1人で駅から学校まで歩いてきて、1人でまた駅に戻ってる。


 1人になりたくない。けど実際は、ずっと1人だった……。


 次の日、朝起きてスマホホルダーの写真を何気なく眺めてたら昨日撮った咲太郎のパウンドケーキが出てきた。

 パウンドケーキと共に、咲太郎のあの食べる姿を見つめてる時の、顔が浮かんできた。


 気がついた時には着替えて、高校に行くために電車に乗ってた。

 昨日、挨拶してなかったから……挨拶だけしようと思って……そんな風に言えばいいかな。なんて駅から学校までの道のりで考える。


 文化祭でざわついてる校内を進む。

 少しだけドキドキする胸を押さえて咲太郎の教室に向かった。


 咲太郎から、連絡先を聞かれてぼくも咲太郎とはこのままが嫌だから今日ここに来たんだ。

 そう不意に理解した。


 カフェで飲み物を飲みながら昨日からさっきまでの咲太郎との出会いを振り返ってるとスマホが震えた。


 また、そらくんが今日無理って連絡だろうな。

 そう思ってちらっと画面を見たらそこには咲太郎の名前。



 慌ててスマホを手に取り画面を開く。

 咲太郎からお礼とパウンドケーキのことが書かれてた。


 文面も咲太郎らしいな。


 そんな風に思ったら画面を見ながら口角が上がるのがわかる。


 返事を返したら、すぐに咲太郎からの返事が来る。少しだけやりとりをして明日一緒に図書館に行くことになった。


 明日が楽しみだ。

 こんなに胸がワクワクして明日が待ち遠しいなんて感覚あったかな。


 咲太郎と先生の約束も気になるし、それは明日聞かせてもらおう。


 そっか……。


 ぼくとそらくんにはこれがなったんだ……。


 そらくんと約束して、楽しみなんて感情なかった。


 1人になりたくない。1人が嫌だから。それでそらくんと約束してた。


 そして……心の奥底ではどうせまたドタキャンされるに決まってる。そんな風に諦めてた。


 ぼくたちは、恋人って名札をただかけてただけなんだ。


 でも……これまで1人じゃなくて過ごせてたのは……そらくんのおかげ。


 だから感謝の気持ちを込めてきちんと今日お別れしよう。


 心が決まったらなんだかスッキリした。


 そらくんと会う時間まで駅周辺で時間を潰す、約束の時間に駅に戻る。

 今日は連絡が来てないから、きっとドタキャンはされないんだろう。


 そう思いながらぼんやりと改札口を見てた。

 改札口の手前に手を挙げてるそらくんがいる。


 そらくんの顔見たの久々だな……。


 そっか……。



 それぐらいの時間、ぼくたちはもう会ってなかったんだ。


「お待たせ。あっち行くか」

 そらくんがぼくの肩をそっと押して駅とは反対側に歩くように促す。

 ぼくもそのまま着いて行った。


 そらくんと話して、駅で別れる。


「じゃあ……もう会うこともないかもだけど、元気で」

 あっさりそう言ってそらくんは改札口に入って行った。


 ぼくが別れたい。そう言った時にも、全く表情変えずに『わかった』それで、終わり。


 ぼくたちって……もしかしたら……似てたのかもね。

 

 

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