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7.たろう、少しだけ知らない顔を見た


「ゆーちゃん。パウンドケーキ持ってきたよぉ」


 昨日は完売して持って来れなかったから、今日は最初からゆーちゃんのものは別に残しておいた。

 保健室に入り、机で作業してるゆーちゃんの前まで行き紙皿に乗せてるパウンドケーキを机の上に置く。


「おお。これは美味しそう。太郎君考案なのも楽しみだね」


 ゆーちゃんは、お皿にかけてあるラップを外して備えてあるフォークを手にして「いただきます」と手を合わせて食べてくれる。


「うん。美味しい。甘さも控えめでぐとくなくていいね」


 感想も的確に伝えてくれる。


「そーなのぉ。甘いものが苦手な人でも食べれるように甘さをギリギリまで調整したんだよ」

 

 甘いものが好きな人も、苦手な人も、どっちも美味しいって思えるところを探して、甘さをギリギリまで調整した。だからそこ褒めてもらえるの嬉しい。

 

「太郎君は、相手の気持ちや感じ方まで考える気が使える子だからこそ、この味を出せるんだろうね」


 ゆーちゃんが褒めてくれるからくすぐったい気持ちになる。


「そ――だ!ゆーちゃんあのね。あゆくんと会えたの!」


 ゆーちゃんにパウンドケーキを食べてもらおう。

 そう思って保健室に来たけど、本当はあゆくんのことも伝えたかった。

 

 ゆーちゃんが、少しだけ顔を上げる。

 

「あゆむ?昨日会えた?」

「ううん。さっきたろうの教室まで来てくれたのぉ。あゆくんなんでか分かんないけど、気がついたらたろうに会いに来てたって」

 

 ゆーちゃんの視線が、少しだけ上がる。

 その表情が、いつもと違って見えた。

 

「あゆむが?」


 ゆーちゃんの手が、一瞬だけ止まる。

 フォークの先が、皿に軽く触れて音を立てた。

 

「うん。さっき来てくれて、たろうがもっと話したいから連絡先交換してとお願いしたらあゆくんも『これで終わりたくないかも』と言って連絡先交換したよ」


 ほらとあゆくんと交換したメッセージアプリを見せる。


「まぁ……あゆむにはいいかもね」


 ゆーちゃんはそれだけ言った。

 それ以上は、何も言わなかった。

 

 それってど――ゆ――こと?そう聞こうと思った。


「さ!太郎君はもう教室戻った方がいいよ。今日は片付けしてからみんなで打ち上げあるんでしょ?」


 そう言って話を切り上げられた。



 (あっ……まただ。ゆーちゃん……なにかあゆくんのことで……隠してる?)


 胸にす――っと冷たい風が吹いた気がするけど、それ以上踏み込めなくてゆーちゃんに帰る挨拶をして保健室を出る。


 教室に戻ったら、パウンドケーキは完売してぼくたちのクラスの出し物は無事に終わった。

 2日間とも大成功に終わったこと、これはホッとした。


 みんなと騒ぎながら片付けをしながら、ぼくの頭の中は別のことを考えてる。


 あゆくんにいつ、どのタイミングで連絡していい?

 もう連絡していいかな?

 だめかな?


 片付けが終わり、打ち上げ会場の案内がクラス委員から行われてる。

 1時間後にお店に集合。


 それなら……。


 気がついた時には指が文字を入力してた。


『あゆくん。たろうです。今日はありがとう。パウンドケーキ今日も完売したよ』


 変かな?いいかな?パウンドケーキの内容入れない方がいいかな?でもそれだと、あゆくんお返事しにくいかもしれないよね?



 いいや!送っちゃえ!


 今のこの勢いじゃないと送れない気がして、送信ボタンを押す。


 画面にぼくが打った文字が表示される。


 (これであゆくんとやりとりできるんだ……)


 急にあゆくんと連絡を取れるようになったことがリアルに感じられた。


 あゆくん、もう読んでくれたかな?返事来るかな?打ち上げ会場にみんなで行く間も意識はずっと右ポケットに入ってるスマホに向かう。


 (あっ……もしかして……ミュートにしてるかも。あゆくんから返事きて分かるようにバイブにしとかなきゃ)


 ポケットに、入れてるスマホを取り出して、バイブ設定になってるか確認する。


 良かった。バイブ設定になってる。


 スマホをいつもの癖で右ポケットに入れようとして、手が止まる。



 1番バイブに気が付けるのどこ?

 胸ポケット?

 ズボンのポケット?


 でも移動してたら気がつかないかも。


 色々スマホを入れる場所を変えてみる。

 

「たろう!何立ち止まってんの!」


 横断歩道の前で立ち止まってた。


「あつ……ごめぇ――ん。先行ってて。追いつくから」


 信号が赤になりぼくだけそこに取り残された。


 信号が青になり、走ってクラスメート達の元に向かう。


「たろう何してんの」

「ごめんねぇ」

「ところで、なんでスマホ手に持ってんの?」

「なんとなく?」

「変なたろう」


 打ち上げに集中しなきゃ。


 そう思ってるのに、意識はずっと左手に握りしめてるスマホにある。


 打ち上げ会場に入り、クラス委員が挨拶をしてから打ち上げが始まった。



 その時左手に振動がきた。




 (あゆくん!?)


 ドリンクを慌ててテーブルに置いて急いでスマホの画面をみる。



『ぼくの方こそ昨日、今日ありがとう。パウンドケーキほんとに美味しかったら完売は当然だね。咲太郎の頑張りだよ』


 あゆくんから返事が来た。

 スマホをそのまま胸に抱きしめてる。


「ちょっと!たろう何してんの!」

「あっ……間違えた。ごめーん」


 みんなにはそう謝りながらちょっとお手洗い行ってくるねぇ。と言って席を立ち部屋を出る。


 見間違いじゃない。

 あゆくんからぼくに返事が来た。

 このままあゆくんとの繋がりを終わらせたくなくて、お店から出て外に出る。


 

『へへっ。あゆくんにそう言ってもらえたら嬉しい。今ね打ち上げに来てるの』


 今のぼくの様子を入れてみる。あゆくんお返事くれるかな。


『文化祭の後の打ち上げいいね。楽しんでね!そっか。明日は休みだね』


 すぐにあゆくんから返事が来た。


『そうなのぉ。明日はお休みだよぉ』


 あゆくん明日何するの?そう本当は聞きたかったけど、いきなりそこまで聞くのは印象悪い?かな。

 そう思ったら中途半端な文章のまま送ってしまった。


『文化祭の後あるあるだね。咲太郎は明日なにするの?』


 見間違いじゃないよね?あゆくんがぼくの予定聞いてくれてる?



 (あゆくん……少しはたろう……に興味ある?)


 胸がどっどっどっ。と少し激しく鳴ってる。


 震える手で文章を打ち込む。


『明日は、たろう図書館行くの。たろう、ゆーちゃんとも約束してるお勉強頑張ってるの。あゆくんは?』


 ぼくもあゆくんの予定聞いていいよね?


 打ち込んで、おかしくないか何度も確認して送信ボタンを押す。



『ぼくも明日図書館行く予定だよ。一緒に行く?』


 手からスマホが滑り落ちそうになって慌ててキャッチする。


 これ……ぼくの都合のいい夢じゃないよね?

 あゆくんから誘われたらよね?



『いきたい』


 胸が苦しくなって息が詰まってそれだけ返すのがやっとだった。


『じゃあ行こう。10時に駅前でいい?先生との約束も気になるし明日会った時に教えてね』


 見間違いじゃないよね?ぼく明日あゆくんと会う約束したよね?


 読み間違いじゃないか、何度も画面を確認する。

 そこには確かにあゆくんと会う約束が書いてあった。



『10時に駅前行くね。あゆくんに会えるの楽しみ』


 最後ちょっぴり本音を混ぜてみた。


『ぼくも楽しみにしてる。打ち上げ中に邪魔しちゃったね。打ち上げ楽しんで』



 (あっ……あゆくんとのやりとり終わっちゃった。打ち上げなんて言わなきゃ良かった……)


 なんとな――く、寂しい気持ちになる。


 打ち上げ会場に戻らなきゃ。

 慌てて会場に戻る。


 スマホはカバンに直して、みんなに心配させちゃったからここからは盛り上げようとテンション上げていく。


 打ち上げも終わってみんなで連なって駅までの道のりを歩く。

 駅前で解散になった。


 ぼくも帰ろう。そう思って改札に目を向けた。


 あれ?あの服装って……。


 今日あゆくんが着てた服に似てる。

 後ろ姿だけどあの茶色の髪の毛。それにあの上着はあゆくんが着てたやつだ。



 声かけようかな?そう思って足を一歩踏み出して、そのまま立ち止まった。



 改札から出てきてる人があゆくんに手を振ってる。

 あゆくんも片手をあげてる。


 あゆくんお友達と待ち合わせだったんだ。

 それなら声かけたら迷惑かけちゃうよね。

 そう思ってあゆくんのそばに行くのはやめた。


 あれ?


 なんかあの人。あゆくんに距離が近い。


 なんとな――く、その人とあゆくんの距離感が気になって目が離せない。


 その時、

 その人があゆくんを肩を触って促すように歩き出した。

 あゆくんもそのまま一緒に歩き出した。


 あの人って……。


 その時、昨日の保健室の重たい空気、ゆーちゃんの様子、もやもやしてた違和感が一気に浮かんで形になった。




 あゆくん……お付き合いしてる人いるんだ……。


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