おまけエピソード:赤ちゃんとイケメン双子
妊娠五ヶ月という身重の身体で帝国を脱出して日本へ亡命したアナスタシアは、帝位争いが終わった後も日本に滞在し続けることを望んだ。
死にたくなくて必死で逃げてきたが、今では日本が……というか、民宿西野が大好きになっている。
女将の風花は、アナスタシアから日本永住希望の話を聞いて喜んでいた。
「ナーシャはもう家族だから。産休の間もここにいていいからね」
「ありがとうございます」
臨月に入った頃、風花はアナスタシアに言う。
その言葉に甘えて、アナスタシアは産休期間も民宿西野で過ごした。
産休に入って間もなく、アナスタシアは可愛い女の子を出産した。
彼女によく似た蜂蜜色の髪と紅茶色の瞳の赤ん坊は、大きな幸せという意味をもつ「アリーサ」と名付けられた。
今は亡き前皇帝の子だが、皇族として帝国に連れ帰ることは無い。
(もう二度と、帝位争いで子供を亡くしたくない)
アナスタシアはアリーサを私生児として育てる決意をした。
彼女のように定住者ビザを持つ外国人が日本で子供を出産した場合、子供の国籍は親と同じ外国籍になる。
本国への出生登録が必要であり、帝国への出生登録は私生児として手続きを済ませた。
居住地の役場にも出生後30日以内に出生届を出す必要があり、アナスタシアは子供の父親の欄を空欄のまま役場に提出した。
いずれは、アリーサから父親について聞かれるかもしれない。
そのときまでは、何も告げるまいと心に誓うアナスタシアなのだった。
秘密を抱える赤ちゃんだが、可愛いのは間違いない。
容姿に恵まれたアリーサは、西野家の人気者になった。
「可愛いなぁ」
「いいなぁ、赤ちゃん」
赤ちゃんアリーサはみんなを魅了する。
特にメロメロなのは、冬斗と冬馬だった。
「あぁ、なんて可愛いんだ」
「天使か? 妖精か?」
二人は暇さえあればアリーサを構いにくる。
抱っこしたり、ガラガラを振ってあやしたり、見事な溺愛っぷりだ。
子守りが二人もいるおかげで、アナスタシアは産後一ヶ月で民宿スタッフの仕事に復帰した。
今日も洗濯物を畳むアナスタシアの近くに、アリーサを抱っこする冬斗と、哺乳瓶を口にあてがう冬馬がいる。
「あんたたち、そんなに赤ちゃん好きなら、誰かと結婚して孫を作ってくれたらいいのに」
「結婚以前に、俺たちには彼女がいないよ」
「お見合い婚には興味ないし」
アナスタシアと共に洗濯物を畳む風花が笑ってツッコミを入れても、イケメン双子は赤ちゃんに夢中だ。
アリーサもすっかり懐いていて、双子のどちらかに抱っこされていれば機嫌が良い。
彼女なし、見合い興味なしという彼等の結婚や孫の誕生は、当分なさそうな感じだった。
「うちの子たち、見た目は悪くないのにどうしてモテないのかしら?」
風花は首を傾げる。
近くで聞くアナスタシアは苦笑していた。
イケメン双子は、モテないわけではない。
御近所の若い女性たちからは、いつも熱い視線を送られている。
単に本人たちが気づいていないだけであった。
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