第28話 繋がらない連携、それでも
押されている。
それはもう、誰の目にも明らかだった。迷宮核の脈動はさらに激しくなり、空間そのものが歪んでいる。黒い霧は濃度を増し、視界すら不安定だ。異形体は増え続け、減る気配がない。
「チッ……キリがねえ!」
ガルドが叫びながら剣を振るう。確かに一体一体は倒せる。だが、その先からまた湧く。完全に消耗戦だ。
「出力が落ちてるって言ってるでしょ!」
セリアの魔法も鈍っている。バルクは必死に前を支えているが、徐々に押し込まれていた。
「ライン維持できない……!」
紅蓮の牙は強い。間違いなく強い。だが、この状況ではその強さが活かしきれていない。
俺たちも同じだ。
分体網は使えない。いや、使えば逆に危険だ。
それでも――
「ユウト!」
リラの声。
「どうしますか!」
俺は歯を食いしばる。
分かってる。
このままじゃ全滅する。
でも、方法が――
その時だった。
侵食体の声が響く。
「……繋がれ……」
黒い霧が揺れる。
異形体の動きが一斉に変わる。
統一される。
「……っ!」
今までバラバラだった動きが、一つにまとまる。
完全な連携。
いや――
「支配か……!」
レンが低く言う。
その通りだ。意思の共有じゃない。強制的な統一。
だから強い。
「来るぞ!」
次の瞬間、異形体の群れが一斉に動く。
速い。
今までとは比べものにならない。
「ぐっ……!」
ガルドが受けるが、押し返される。
セリアの魔法も間に合わない。
バルクが弾き飛ばされる。
レンも一撃を受けて膝をつく。
「レン!」
リラが叫ぶ。
完全に崩壊寸前。
その時――
俺は理解した。
あいつは“完成形”だ。
繋ぐ力の。
ただし歪んだ形の。
「……なら」
俺は小さく呟く。
「こっちもやるしかない」
リラが気づく。
「ユウトさん……?」
「分体網を使う」
「ダメです!」
「分かってる!」
危険なのは分かってる。
でも――
「完全には繋がない」
「え?」
「必要な分だけ」
「限界ギリギリで止める」
レンが立ち上がる。
「制御できるのか」
「分からない」
「でもやる」
それしかない。
侵食体の“支配”に対抗するには――
「こっちは“意志”で繋ぐ」
リラが目を閉じる。
そして頷く。
「……信じます」
レンも言う。
「任せる」
ガルドが笑う。
「面白え」
「巻き込まれるぞ?」
「上等だ」
よし。
「行くぞ」
俺は分体網を発動する。
ピロン。
いつもより深く。
でも、限界までいかない。
ギリギリで止める。
ノイズが走る。
頭が痛い。
でも――
繋がる。
「……見える」
リラの声。
「来る!」
レンが動く。
異形体の攻撃を避ける。
ガルドが突っ込む。
今までより正確に。
セリアの魔法がタイミングよく炸裂する。
バルクが完璧に受ける。
「これ……!」
セリアが驚く。
「何やってるのよ!」
「連携だ!」
俺が叫ぶ。
でも違う。
完全な共有じゃない。
ズレもある。
不完全。
それでも――
噛み合っている。
「いける!」
リラが叫ぶ。
異形体を一体、撃破。
流れが変わる。
侵食体がこちらを見る。
「……違う……」
「完全じゃない……」
その声には、わずかな“揺らぎ”があった。
俺は笑う。
「当たり前だろ」
「俺たちは三人だ」
「一つじゃない」
それでも繋がる。
それが俺たちの形だ。
「押し返すぞ!」
レンが前に出る。
ガルドも続く。
戦線が戻る。
崩れかけた流れが、少しずつ戻ってくる。
でも。
まだ足りない。
核は無傷。
侵食体も健在。
「……あと一手」
必要だ。
決定打が。
その時、分体網がわずかに変化する。
ピロン。
──接続安定率、上昇
「……来るか」
まだ不完全。
でも。
もう少しで――
届く。
俺は奥を見る。
迷宮核。
侵食体。
すべての中心。
「次で決める」
そう呟いた。




