第25話 崩れ始めた均衡
異形体を倒したあとも、空気の緊張は解けなかった。
紅蓮の牙の三人は、その場で武器を構えたまま俺たちを見ている。敵じゃないのに、完全に警戒されてる。
「……で?」
ガルドが口を開いた。
「お前ら、何者だ」
「普通の冒険者」
「嘘つけ」
即答された。
いやまあ、分かるけど。
セリアが腕を組む。
「さっきの動き、普通じゃないわよ」
「連携が異常に正確だった」
リラが一歩前に出る。
「パーティー戦術です」
「それだけ?」
「それだけです」
静かなやり取り。でも、空気はピリついたままだ。
バルクが低く言う。
「……だが、助かったのは事実だ」
ガルドが舌打ちする。
「チッ……気に入らねえがな」
「素直に礼言えばいいのに」
思わず口から出た。
「何だと?」
「いや別に」
危ない危ない。今ケンカしてる場合じゃない。
その時だった。
ドクン。
足元が揺れた。
「……!」
全員が反応する。
壁が脈打つ。
さっきよりもはっきりと。
「これ……」
「迷宮が活性化しています」
リラの声が緊張する。
レンが言う。
「圧が強い」
確かに。空気が重くなる。まるで何かに押し潰されそうだ。
ピロン。
──深部反応、急増
「やっぱり原因は奥だ」
俺が言うと、ガルドがニヤリと笑う。
「当然だろ」
「最初からそこ狙いだ」
「……で、今の状況分かってる?」
「何がだ」
「さっきよりヤバくなってる」
セリアが周囲を見る。
「魔力濃度、上がってる」
「このままだと魔物がさらに強化されるわね」
バルクが頷く。
「数も増える」
つまり――
「単独行動、危険すぎるな」
俺が言うと、ガルドは一瞬黙った。
そして。
「……一時的だ」
「は?」
「協力する」
お、来た。
「ただし」
「足引っ張るなよ」
「そっちもな」
軽く言い返す。
一瞬、にらみ合い。
でもすぐにガルドが笑った。
「いい度胸だ」
セリアがため息をつく。
「ほんと単純ね」
こうして――
即席の共闘が成立した。
なんか嫌な予感しかしないけど。
その直後だった。
通路の奥から音がする。
ズル……ズル……
何かが這うような音。
現れたのは――
迷宮異形体 Lv20
迷宮異形体 Lv20
「またか」
でも、さっきと違う。
数じゃない。
圧が違う。
空間が歪む範囲が広い。
「強化されてる!」
リラが叫ぶ。
戦闘開始。
ガルドが突っ込む。
「ぶった斬る!」
高火力の一撃。
確かに強い。だが――
「浅い!」
セリアの魔法が続く。
でも決定打にならない。
その瞬間、異形体が広がる。
黒い霧が一気に膨張する。
「来る!」
バルクが前に出るが――押される。
「くそっ!」
やっぱり。
この戦い方だと押し切れない。
「ユウト!」
リラが叫ぶ。
分かってる。
「分体網、断続!」
ピロン。
一瞬繋ぐ。
「レン、右!」
「了解」
「ガルド、今突っ込め!」
「指図すんな!」
「いいから!」
一瞬の共有。
タイミングが揃う。
ガルドの一撃が深く入る。
「……チッ」
でも効いてる。
明らかにさっきより深い。
セリアが驚く。
「何それ……」
「連携だよ」
レンがもう一体を抑える。
リラが削る。
俺がタイミングを作る。
そして――
迷宮異形体 Lv20
撃破
もう一体も続けて倒す。
静寂。
ガルドが俺を見る。
「……なるほどな」
「何が?」
「お前らの強さ」
「個じゃねえ」
「分かってるじゃん」
セリアも納得したように言う。
「単純火力じゃない」
「制御してるのね」
バルクが頷く。
「安定している」
評価されたっぽい。
でもそれどころじゃない。
ピロン。
──深部反応、臨界
ドクン。
迷宮全体が揺れる。
「……来るぞ」
ガルドが笑う。
「やっと本命か」
リラが弓を握る。
「準備を」
レンが言う。
「強敵」
俺は奥を見る。
そこにある。
すべての原因。
迷宮核。
そして――
取り込まれた何か。
「行くぞ」
ここからが最終章。
もう引き返せない。




