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【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

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8:あれれぇ? おかしぃぞぉー?

 質の良い調度品で揃えられた室内。高級ではあるが華美でなく、上品で優雅。洗練された上質な空間。

 道具屋ギルド連合、東方支部。その支部長室は訪れる者を自然と律する、厳格な雰囲気に満たされていた。

「ああ、こちらでも確認している。例の……味付きポーションの件だな」

 低い男の声が室内に響き、重厚な佇まいの椅子がギシリと軋む。ただそれだけで報告に訪れたギルドの下部職員は、更に背筋を伸ばして姿勢を正す。

「い、如何いたしましょう。販売しているのはギルドの認可を持たない野良薬師……取るに足らない小物です。どのようにも出来ますが」

 下部職員に問われた道具屋ギルド連合、東方支部長――ゼノス・バリンジャーは、報告書をファイリングしつつ、抑揚のない口調で呟いた。

「取るに足らない小物……か」

「は……?」

 下部職員はゼノスの言葉が持つ真意を読み解けず、間の抜けた返事を返す。

「いや、気にするな。お前たちが動く必要はない、既に対策済だ。すぐに……未認可ポーションは、市場から消える」

 そして静寂……再び椅子が軋む。

「報告は、それだけか? ならば仕事に戻ってくれ」

「はっ! 承知しました!」

 びっ、と音がするほどの勢いで頭を下げた下部職員は、キビキビと回れ右をして支部長室を後にする。

 ドアが閉まり、再び静寂を取り戻す室内。

 職員の足音が遠離るのを聞きながら、ゼノスはファイリングされた報告書を「対処済」の棚へ戻すと、次の書類へと目を移すのだった。


 場所は変わって、いつもの僻地ダンジョン前。そこからほど近いベースキャンプ。

「あ、お帰りなさい。どうでした?」

 ポーションに焼き鳥のタレで味付けしていたメルルゥは手を止めて、町から戻ったテオを出迎えた。

「予想通り、どの店も売ってくれねぇな。瓶も、薬草も。精製水の類いも、ほぼ全滅だ」

 背負っていた雑嚢を下ろし、長い息を吐いて肩を回す。彼はポーションの原材料を集めに出ていたのだ。

「あちこち回って数日分くらいは何とかなったけど、これからもっと締め付けは厳しくなる……次はないって感じかな。俺たちみたいな新参の端役如きに、ご丁寧な話だぜ」

 道具屋ギルドはポーション類の流通を支配している。なら小規模小売りに圧力を掛ける最も簡単な方法は、仕入れ先を封じること。売り物がなければ売れない……当たり前だが、商売人にとって致命的な状況だった。

「そうですか……」

 メルルゥがシュンと肩を落とす。だがそれほど落ち込んで見えないのは、この状況をテオが予測していた為だ。

「連中、これで俺たちがポーション作れないって思ってるんだろうな。ククク……だが、しかし!」

 悪い笑みを浮かべたテオが雑嚢を開く……と、そこから出て来たのは大量の草! 薬草でも何でもない、その辺に生えている雑草だった。

「いつも通り目一杯まで集めてきたぞ! まさか連中もメルが雑草からポーションを作っているとは思うまい! クハハハっ!!」

「そ、その悪役みたいな笑い方……何とかなりません?」

 メルルゥが若干引いている。

 彼女のポーションは、アルラウネの能力を用いて植物から生命力を抽出して作られる。なので素材が薬草である必要はなく、植物でさえあれば、雑草だろうが雑木だろうが、最悪毒草であっても(効率は落ちるが)作ることは可能だ。

 従来の薬草のみを原材料とする方法に比べ、革新的かつ効率的。更に美味しい。それ故に彼女が故郷を追われる原因ともなった、新世代の製法だった。

「この辺って人の手が入ってないから、草ならまだまだ沢山ある……取り放題だ! 仕入れ先を封鎖してんのに、どうしてアイツらポーション作れるの? あれれぇ? どうして? おかしぃぞぉー? とか言って首を捻るアホゥどもの顔が目に浮かぶぜ! だーははっはっはァ!」

 悪っぽい笑い声のバリエーションには事欠かないテオ。しかし――。

「でもテオさん、瓶はどうするんですか? 仕入れ、出来なかったんですよね?」

「ああ、その件か。言っただろ、俺に任せとけって! 二段階で対策を考えてるんだが……取り敢えず第一弾だ。今からちょっと行って仕入れてくるから、お前はポーション作りながら待っててくれ!」

 そう言い残すとテオは再び雑嚢を背負い、何処へかと駆けて行った。

「あ……い、行ってらっしゃい」

 彼を見送り、メルルゥは手元の雑草へと視線を落とす。

 奇妙な胸騒ぎ……最後に見たテオの背中。そこに言い知れぬ不安がこびり付いて離れない。

「テオさん……」

 再び視線を向けた先に、もう青年の姿はなかった。

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