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【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

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17:まさかと思うが、たったコレだけかネ?

 その日、アペオス辺境洞窟群、第三坑。通称「小端洞」の周辺は、昨日までの大雨が嘘のように晴れ渡り、心地の良い快晴となっていた。

「ついに来たわね……」

 ミカン箱カウンターに腰掛けていたフィオナが立ち上がり、ダンジョン入口から外を覗く。

 すると緑萌ゆる細い山道を、えっちらおっちらと揺れながらこちらへ向かい来る駕籠かごが見えた。

 乗っているのは巨体の外務監査官、バルカス・ヴォル・グリード。その身体は大半が座面からはみ出し、座面も歪んで垂れ下がり、地面を擦りそうになっている。

「おいおい、マジかよ。泥濘の登り道を駕籠で移動とか……鬼畜過ぎるだろ。人夫が死んじまうぞ!」

 テオが呟き、眉をしかめる。その隣ではメルルゥがメルポを準備し始めた――人夫に渡すつもりなのだろう。

 そういえば、とフィオナは思い出す。

 自分が初めてここへやって来た時も、雨上がりの、こんな日だった。

 心配して駆け付けたテオを下僕のように扱い、メルルゥの差し出したポーションを無下にした。もしかするとテオとメルルゥには、当時の自分がいまのバルカスと同じように見えていたのかもしれない。

「ふん……無様ね」

 かつての自分を嘲笑い、髪をかき上げる。

 もしも過去へ戻れるのなら、その連中が差し出した手は素直に握り返しても大丈夫だと伝えられるのだけれど……おそらく、素直に聞きはしないだろう。

「おい、フィオ。準備はいいか?」

「愚問ね。私を誰だと思っているの」

「あ、貧乳ぼっちがイキってますよ。さっきまでソワソワしてたクセに……あっ! いったぁぃ……け、蹴りましたね!? つ、爪先で容赦のない蹴りが私を襲いましたよ!」

 そんなことをする内に、駕籠は小端洞の前に到着する。

「やれやれ……何て辺鄙な地だろうかネ。地面はビシャビシャ、蒸し暑い……駕籠は揺れるし遅いから汗をかいてしまったよネ」

 滝のように流れる汗をハンカチで拭いながら、バルカスはのっそりとした仕草で彼らの前に立つ。

 本来は昨日中に到着の予定であったのだが、荒天を受けて一日遅れての来訪となっていた。

「久しいね、フィオナ。山中での生活は辛かったろう? 元々薄っぺらい身体が、より痩せて見える……よく頑張ったネ」

 そう言ってバルカスが、フィオナの頭から足先までを舐めるように見つめる。彼女は、その粘着質な視線に怖気立つが――。

「ええ、お陰様で。そちらは邪魔な小娘がいなくなって食事が美味しかったようね。随分と太られたようにお見受けするわ」

 ともすれば震えそうになる脚で大地を踏みしめ、真っ直ぐに立って言い返す。

 テオが、メルルゥが、プレゾが見ているのだ。負けてなどいられない!

「小娘が、言うようになったネ。まぁ良い……監査が終わった後でじっくりと自分の立場というものを教え込んでやる」

 捨て台詞を吐いてニヤリと笑う。それは獲物を狙う、捕食者の笑みだった。


 そして場所を小端洞の中へと移し、バルカスによる監査が始まった。

「えー……アペオス辺境洞窟群、第三坑。通称、小端洞における、冒険者ギルド連合東部管轄第二支部の設立に纏わる監査を開始する」

 形式的な読み上げが行われ、同じく形式的な書類へバルカスとフィオナのサインが為される。監査を行った、と証明する為の書類だ。

「立ち会いは、関係者各位に……冒険者ギルドからは私、バルカス・ヴォル・グリードと、フィオナ・エル・シルフリード。また衛生調査員としてヘルヘルト・スリッカーが立ち会う。よろしいな」

 名を呼ばれたヘルヘルトがぺこりと頭を下げた。

 彼は衛生調査に訪れた数日前より、ずっとここへ滞在し続けている。元からこの予定であったのだろう。

「立ち会いの参加者は、ここにサインを……さて、では冒険者ギルド支部の設立条件を順に確認しつつ、監査を進めようかネ」

 バルカスが言って、小脇に抱えていた分厚い本をテーブルに置いた。冒険者ギルドの規約が網羅された魔法の本だ。

 彼が本に向けて手を掲げると、指に嵌められた無数の指輪から魔法の輝きが伸び、本へと宿る。そして本は音もなく開かれて、パラパラとページが捲られ始めた。

「先ずは、一ヶ月間の依頼達成件数および所属冒険者の稼働数が一定数を超えること――ここから始めようかネ」

 バルカスの求めに応じ、魔法の本が当該のページを開いて止まる。

「具体的な数値は時代や情勢で変動するとされているがネ。慣例的に、冒険者稼働数は5組以上。クエスト達成数は一ヶ月平均で100件以上が目安になっている。ではフィオナ、依頼受け付け台帳を見せなさい」

「……これよ」

 フィオナはミカン箱の上に置かれていた真新しい台帳を手に取ると、バルカスの前に置く。そこには十数件の依頼が、達成済みの状態で書き込まれていた。

 それを簡単に確認し、バルカスが笑みを深める。

「まさかとは思うが、たったコレだけかネ? 三ヶ月もかけて、十数件? コレは流石に……ぷふっ、擁護できないネ……ぷふふっ!」

 堪えきれない笑いを零すバルカスだが……当然、そんな筈がない。

「ええ、まだあるわ。これも、これもそうよ。あと、コレも……誰か手伝ってくれない?」

 テオたちの手を借りて、次々と取り出される依頼台帳。一冊、二冊、三冊と最初の頃こそ個別に出されていたが、途中からは大きな箱にまとめてドサッとテーブルの上に置かれた。

「以上よ」

「……っ!?」

 山のように積み上げられた台帳にバルカスの表情が強張る。一冊を手にして捲ってみれば、そこにはギッシリと書き込まれた依頼達成の文字。

「バカな……こんな辺境で、これほどの依頼など……!」

「疑わしいなら、そこらに居る冒険者に尋ねてみれば如何かしら。それとも、ご自慢のマジックアイテムで詳細の確認をしてくださる? どちらでも構わないわよ」

 顔を上げたバルカスの目に、監査の様子を遠巻きに見守る冒険者たちの姿が映る。一組や二組ではない。十数のパーティーが集まり、ことの成り行きを伺っていた。

「ぐっ……あのような連中がアテになるものかネ! 魔道具、起動! 本よ……読み込め!」

 バルカスの「力ある言葉」に反応し、魔法の本が能力を解放する。それは周囲の本に書かれた内容を取り込み、求めに応じて抽出する。索引の力だ。

「依頼台帳から依頼達成の件数を抽出しろ! 最優先だ!」

 テーブル上の本が淡い光に包まれる。そして開かれたページに浮かび上がった件数は――。

「ろ、6187件……だと!?」

 それは冒険者ギルド本部が同等期間でこなす依頼の、三倍以上にもなる件数だった。

「キリの悪い数字で恐縮ね。あと一ヶ月もあれば大台に乗っていたでしょうに、残念だわ」

「ば、馬鹿な……こんなコトが……!」

 噂では最初の一ヶ月、彼女の所にはただ一つの依頼さえ舞い込んでいなかった筈。それが何故、急にこんな……!

「……! そうか、分かったぞ! ほ、本よ……依頼者毎にクエストを整理して抽出しろ! 水増し案件を洗い出せ!」

 小狡い真似をしたに決まっている!

 よくあるのだ、ギルド支部を設立する際に身内でクエストを回して件数を水増しする案件が。

「そら見ろ、依頼者の大半はテオ・ヴァン・クロム! さっきのサインにあった名前だ……身内だネ!? そこの男がそうだろう!」

 指輪だらけの太い指がテオを指差す。

「これは支部の依頼供給安定化を図るという設立条件の思想に反する行為! 故に、無効だ! 件の依頼者は達成数としてカウントしない! 同様に、立会人の書類にサインがある者の依頼は全て無効とする!」

 バルカスの声に反応し、魔法の本に記された依頼達成数のカウントがぐんぐん下がって行く。

「クハハっ! 依頼数を盛り過ぎたコトが仇になったネ! 所詮はハーフエルフ、純血に大きく劣る……浅はか極まりない! こういうのは、もっと目立たないように、ひっそりと上手くヤる物だよ!」

「あら、ご教授に感謝するわ。でも私は、そういう狡い真似に興味はないの」

 フィオナが言い終わるのを待っていたかのように、本のカウントがピタリと止まる。

 そこには未だ1150件との数値が記されていた。

「そんなことしなくても、これだけあれば十分でしょう?」

「ぐぅ……っ! ば、バカな……!」

 バルカスが大きくよろめき、台帳の山が崩れる。

 通常、このような方策を用いる者は、身内に頼りきりで外部からの依頼など皆無。それ故に指摘のし甲斐があるし、見逃した際の見返りも大きいというのに――!

「アテが外れたわね」

「あぐゥ……!!」

 確かにフィオナが受けたクエストの大半は、テオが依頼人となっている「空き瓶回収クエスト」と「魔物掃討大作戦」だ。

 しかしそれ以外でも、メルポ・ハイドレーションやメルポ・ロングエステを用いたポーター関連クエストが好評かつ好調で、特に最後の一ヶ月では、噂を聞きつけた商人たちが依頼人となった運送クエストが依頼台帳を埋め尽くす程となっていた。

「ま、コレに関しては……ポーターの皆が頑張ってくれたお陰ね。もし彼らが本気で走ってくれなければ、達成数は半分も行かなかったと思うわ」

 ちらりとフィオナが視線を送ると、その先でプレゾたちポーターの一団が小さく肩を竦めた。

「さあ、冒険者の稼働数やクエスト達成件数については、これで足りたわね。そうなると独立採算についても当然ながら問題ないのだけど……一応はやっておく形かしら?」

「そ、そうだネ。一応、形だけでも……やっておこうか」

 ようやくショックから回復し、バルカスがヨロヨロと立ち上がる。

「万が一、というコトも有り得るからネ」

 しかし彼の表情には未だ狩猟者としての色が浮かび、その視線は後方に控えるヘルヘルトへと向けられていたのだ。

「あの貧乳ぼっち『ワタシ、そんな狡い真似に興味はないのぉオホホ』とか言ってますけどぉ、最初の頃とかその『小狡い真似』で埋まった台帳見てニヤニヤしてましたしぃ、何だったらもっと早くにヤッときゃ良かったみたいなコトも言ってましたしぃ……」

「うるさいわよ、乳眼鏡。オッパイ引き千切られたくなかったら黙ってなさい」

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