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【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

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13:ダンジョン・ステイ

 冒険者を志し、独り立ちしたばかりの初心者たちへ。

 先達である俺が「メルポ回し」のやり方を教えてやろう。

 まずは辺境ダンジョンに迎え。

 そこで緑髪メガネの可愛い店員から1円メルポを買い、そのままダンジョンへ潜れ。

 無理のない範囲で頑張って、メルポを使い果たしたら空き瓶を集めながら戻り、冒険者ギルド支部に報告だ。報酬としてメルポが貰える。

 おっと、その際に気位の高い受付嬢から姫の微笑を貰うことを忘れるな。

 彼女は嫌味っぽいことを言ったりもするが、それは我々へのご褒美だ。ありがたく頂戴しろ。

 それを繰り返して腹が減ったら、メルポを売っていた店員のところへ行け。

 そして言うのだ。

 どんぶり、一つと。

「はい! ご注文ありがとうございます! 蒼麟丼ですね!」

 注文カウンターでメルルゥの明るい声が響く。

「青ひとつ、ご注文頂きました!」

「あいよ、青ひとつね!」

 メルルゥの声に応えたのは、奥で控えるテオだ。

 彼は炊きたてゴハンを丼に盛ると、メルポ・ロングエステで運んだ新鮮生魚の切り身をたっぷり乗せ、その上から特製タレをトロリとかける。

「青いっちょ上がり!」

「はい! 蒼麟丼、お待たせしました!」

 素早く提供される生魚の海鮮丼。それを受け取ったハラペコ冒険者は美味そうにかきこみ、口いっぱいに頬張るのだった。


 ――ここはいつもの辺境ダンジョン。

 しかし普段と違うのは「ダンジョン前ではない」という点だ。

 テオとメルルゥが冒険者たちに丼を振る舞うのは、入口から少し踏み込んだダンジョンの第一層。その一角にある食事スペースだった。

 いくつものテーブルと椅子が並んでおり、壁際にはテオとメルルゥが待つお食事注文カウンター。

 冒険者たちはそこで注文した丼を席へと持ち帰り、舌鼓を打つ――簡単に言ってしまうならフードコートである。

「まさかダンジョン内でメシが食えるなんてなぁ!」

「スゲェ美味い上に、たった500円って言うんだからよぉ! しかも回復効果まであるとか……信じられねぇよ!」

 うっすら緑色の輝きに包まれながら、バクバクと食べ進める冒険者たち。

 だがしかし。

 いくら新鮮で美味いといっても海鮮が苦手な者も居るだろう。生魚全般を受け付けない味覚を持つ者も居るのではないか?

「そんな人には、はいこちら! 赤肉丼です! テオさん、お願いします!」

「あいよっ、赤いっちょう!」

 テオが丼に盛られたゴハンへ乗っけるのは、大鍋でじっくりと煮られた肉とタマネギだ。甘辛い味付けのメルポで煮られたそれらは、口の中で柔らかく解け、ゴハンとの相性も抜群! いくらでも食べられる!

 けれど――魚も肉も苦手だという人が居ても不思議ではない。戒律などで食肉を避けている者も居る筈だ。

「そんな人には、はいこちら! 緑葉丼です! テオさん、お願いします!」

「あいよっ、緑いっちょう!」

 テオが丼に盛られたゴハンへ乗っけるのは、メルルゥ厳選の薬草サラダ。そこへドレッシング状のメルポをかけ、更にメルポ・パウダーで味を調えれば、ヘルシー志向のサラダ丼が完成する!

 蒼、赤、緑の三本立てで、冒険者たちの胃袋をガッチリと掴む作戦――だが、それだけでは終わらない!

「テオさん、来ましたよ! 極み丼のご注文です!」

「あいよっ、極みいっちょう!!」

 それは姫の微笑みを最大まで溜めた者だけが味わえる最高の栄誉。

 海と陸と森――三界を統べる究極の一杯。

「がんばった人には、はいこちら! 三極丼です!!」

 青、赤、緑の全てが一杯に詰め込まれた三色丼。渾然一体となった味わいは、まさに究極。これを食べずしてメルポ回しは完結しない!

「よし! 腹ごしらえが終わったら、もう一仕事だ! 頑張ろうぜ!」

 食事を終えた冒険者たちが意気揚々と席を立ち、第二層へと繋がる通路に向かって行く。

 ダンジョン魔物掃討大作戦は継続中なので、食った分だけガンガン倒してガンガン稼ごう! と意気込んでいるようだ。

 そんな彼らを見送るのは、フードコートから少し離れた通路の出入り口付近。いつものミカン箱カウンターに陣取ったフィオナだった。

「だ、ダンジョンの一層を丸ごと店舗にするなんて……信じられないことするわね、あの人たち」

 テオとメルルゥが食事の提供を始める、という話は少し前から聞いていた。

 てっきりメルポ販売の延長線上にある話だと気軽に捉えていたのだが、何やら店舗における飲食物提供の資格まで取得して割と本格的に準備を進め、魔物の狩り尽くされたダンジョン第一層を忙しそうに出入りしていると思ったら、いつの間にやらキッチンと飲食スペースを作り上げていた。

「この為の魔物掃討大作戦だったのね」

 形の良い顎先を撫で、フィオナが呟く。

「ダンジョンの魔物は最深部で発生して、弱いものから順に押し出される形で出口へと向かう。深く潜る程に強敵が出るけど、入口付近なら弱いから一掃も比較的容易……」

 つまり辺境ダンジョンのように一層と二層に雑魚が出る構成の場合、一層の敵を掃討した後に二層の敵を狩り続ければ、敵はそれ以上に上がってこない。念の為に二層へ繋がる通路には安全扉が取り付けられており、更に確実性は増していた。

「そして安全になった第一層を使って食事を提供し、冒険者たちの滞在期間を増やす。オマケに私まで……」

 テオたちがダンジョン内で店を開くのと時を同じくして、フィオナの冒険者ギルド支部もダンジョン内へと移動した。これで太陽にジリジリと炙られることもなくなり、雨が降る度に大慌てで退避することもなくなった。冒険者たちも立ち寄りやすい。

「しかも、あんな店まで……」

 フィオナが視線を向ける先。そこでは道具屋ギルドの直営店が消耗品やら何やらを店先に広げて売り込みをしている。

 更にその向こうには武器と防具の店。言うまでもなく戦士ギルドの関連店舗だ。初心者用装備を中心に、修理も行っている。

 そして通路を挟んで反対側に見えるのは術士ギルドの受付――主に鑑定を行っているらしい。

 更にそして、少し奥まった場所には「INN」の看板が掲げられ、宿泊スペースまで。

「何から何まで揃って……もうこれ、一つの町じゃないの?」

「そう、その通り!!」

 いつの間に近付いていたのか、テオが声を上げてニヤリと笑う――いつもの笑みだ。

「ダンジョンの第一層に冒険者が必要とする設備を集め、彼らを囲い込む! 名付けて、ダンジョン・ステイ! 安全で快適な冒険者の止り木だ!!」

 割烹着姿のまま、テオはお玉をフリフリして得意気に語る。

「小端洞は少し不便な場所だけど、一旦訪れたら暫く滞在出来る! そうなれば常時稼働の冒険者は減らず、クエストはガンガン達成される! そして俺たちは第一層を商業区として設定し、テナントから出店料を頂く! 物資輸送はプレゾさんたちポーター部隊へ依頼という形を取れば、更にクエスト達成件数も増えて……!」

「ちょとテオさん! 油売ってないで、早くこっち! 青三つ、赤一つ!」

「おぉ悪い、いま行く!」

 メルルゥに呼ばれ、慌てて厨房へと戻るテオ。お昼時ということもあるのだろうが、フードコートの客足は好調、素晴らしい賑わいに満ちていた。

「まさか、こんなコトになるなんて……ね」

 呟くフィオナ。

 冒険者ギルド支部設立のタイムリミットまでは、残り二週間を切っていた。

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