表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/40

7:ボケカス腐肉糞々女は今日もうざい

 その日、冒険者たちは僅かな違和感を感じていた。

「え? なにコレ? オレたちは、空き瓶を――」

「そこの支部に行けば、理由が分かるよ」

 初心冒険者一行は、いつものように1円ポーションを買ってダンジョンへ潜り、空き瓶を回収しながら帰還。そして空き瓶の回収割引でリサイクル・メルポを買おうとしたら……店主らしき青年にリサイクル・メルポを4本渡され、上記のように言われた。

 何のことか分からないまま、ダンジョン入口を挟んだ反対側。巷で噂の「可愛いけどキツい受付嬢」が居るギルド支部カウンターへ向かう。

「あ、あのさ。ココに来れば分かるって言われたんだけど……」

 おっかなびっくりで話しかける初心冒険者一行のリーダーへ、「可愛いけどキツい受付嬢」ことフィオナはチラリと視線を向ける。

 そして――。

「クエスト達成よ、お疲れ様。もう報酬は受け取ってるわね」

「えっ? あの、何が? 俺たち別に、クエストなんて……」

 困惑するリーダーへ、斥候担当らしいレンジャーの女性が声を掛ける。

「ねぇリーダー、もしかしてコレじゃない?」

 彼女が指し示した先、そこにはクエストボード――現在受付中のクエストを貼り出す掲示板――が掲げられており、そこには「空き瓶回収クエスト」が貼り出されていた。

「あー……なるほど、別に俺たちは受けちゃいないけど、知らない間に条件を達成してたのか」

 リーダーが掲示を読んで頷く。報酬はリサイクル・メルポ4本……間違いなさそうだ。

「もし報酬が不満なら取り消すけど、どうする?」

 フィオナがそう尋ねるが、彼らにしてみれば全く損はしていないし、取り消す理由がない。

「そう? じゃ、依頼達成ということで……」

 サラサラっと台帳に「完了」の文字を書き込む。

 今日一日……というか午前中だけで、10件目の依頼達成報告だった。

「くふ……」

 フィオナの顔に思わず笑みが浮かぶ。

 昨日までの一ヶ月、待てど暮らせど埋まらなかった依頼台帳が、もう10件も……!

 埋まったページを何度も繰って、数え直す度に湧き上がる達成感……これは、たまらない!

「っ!?」

 ハッと気付き、フィオナがテオの様子を伺う……と、彼はまた例の表情でニヤニヤとこちらを見ていた。

 その視線を、ハエでも払うように手で逸らし、深呼吸で表情を整える。

「ふぅ……気を引き締めて、と」

 そう自らを戒め、姿勢を正す。

 しかし台帳を見る度、嬉しさが込み上げて頬が緩む。

 なんだか悪魔の奸計にズブズブと嵌まるような気持ち悪さはあるけれど、真っ白だった台帳が次々と「完了」で埋まって行くのは、その気持ち悪さを払拭して上回る快感だ。

 テオは当初から依頼の受注をこの形で――冒険者たちが依頼を受けてから達成を目指すのではなく、条件を達成してから依頼を受けるという形を想定していたようだ。

 これならば冒険者から避けられている自分がカウンターに居ても、顔を合わせるのは達成時のみの最低限で済む。気に食わない女が居るからといって達成済みのクエストを放棄する冒険者は少ないだろう。

「まさか私がカウンターに居ても依頼が回るだなんてね……」

 正直、思ってもみなかった。

 支部設立作戦を実行する上で、当初フィオナは裏方へ回ろうと考えていた。嫌われ者の自分がカウンターに居たのでは誰もクエストの受注に来ないと思った為だ。

 代わりにあのメルルゥとかいうメガ乳女でも立たせておけば、好色な男どもが腐肉に集まるハイエナのように群がるに違いないと。

 だがテオは「だ、誰が腐肉ですか!?」と熱り立つメガ乳女を適当にあしらい、フィオナがカウンターに立つべきだと言った。そうでなければ意味がないと。

「……ふん」

 商売について素人のフィオナであっても、それがどれ程の不利益であるかは想像に難くない。カウンターという人が訪れてナンボの場所で、人を寄せ付けない自分は純粋な足手纏いだ。

 だが、それでも彼は言った。

「俺を信じて、そこに立ってろ。自信満々で姿勢を正して、いつもと同じようにな!」

 そんなことを言われたのは、初めてだった。

 いつも笑顔を振りまけだとか、愛想良くしろだとか、そんな話ばかりだった。ただまぁ彼にも「一言多いのだけは注意しろ」とは言われたのだが……その程度であれば造作もない。

「変わった男ね」

 誰に言うでもなく呟く。

 平々凡々、何の特徴もない十把一絡げの青年。しかし彼の言葉には、人を惹き付ける何かが……信じてみようと思わせる何かが感じられる。

 それはカリスマや求心力といった大それた資質の類いではない。ただ単に誠実で、真っ直ぐであること……きっと、それだけだ。

「あれあれぇ、おやおやぁー? 高飛車ぼっちが、なんだかニヤニヤしてるぅー!」

「……っ!?」

 その声に顔を上げると、そこにはニマニマと邪悪な笑みを浮かべる陰キャ眼鏡女が立っていた。思想に耽るあまり、接近に気付かなかった……不覚だ。

「独りで何を考えてニヤけてたんですかねェ……あぁ、イヤらしぃ……!」

「くっ……!」

 薄笑いを浮かべるクソ女……本当にコイツだけは何度顔を合わせてもイラつく……というか、ムカつく。

 きっと向こうも同じなのだろう。ことある毎にウザ絡みしてきては嫌味ったらしい文言をネチネチと垂れ流す。

「良かったですねェ、依頼台帳が無駄にならずに済んで。インクも今度はダメになる前に使い切れそうですねぇ……フフフフフ」

 本気で鬱陶しい。

 インク云々については、前に買って置いたインクが、ずっと使う機会がないまま置いといたら腐って使えなくなっていた話だ(インクは腐るのだ)。

 それが発覚した時にも揶揄されて一悶着あったのだが、まだ言い足りないらしい。

「使い心地はどうですか、そのインク……あ、そっか。これが初めての使用ですから、他と比べようがなくて分からないですよね! ごぉめんなさぁーい?」

 嬉しそうに喋り続けるボケカス腐肉糞々女……初めて見た時は、もっと大人しくて儚げなイメージだったのだけれど、全然全く、そんなことはない。阿呆で嫌味で陰湿なクソ女だ。

「次は何が欲しいです? 羽ペンは……足りてますよね。だって使う予定もないのに最初から大量に持ってて……くすくすくす」

「……」

 テオが一言多いから注意しろと言うから、せっかく頑張って黙っていたというのに。

 人が大人しくしてれば調子に乗って……これだから眼鏡で緑髪のキャラはクソなのだ!

「てぃ!」

「あぃ……っ!? ちょっ、見ました今の!? このエルぼっち、蹴りましたよ!? 私のことを蹴っ飛ばしましたよ、てぃ! とか言いながら!」

「ていっ! やぁッ!!」

「いっ、ぎゃんっ!? に……二連撃! 明確な攻撃です! 敵意を感じました! こ、この……! フンぬうぅぅぅーーー……ッ!!」

 拳を振りかざして殴りかかってくる馬鹿味噌以下略女。こちらも負けじと反撃して――。

「コラお前らケンカすんなって言ってんだろ!? っていうか今のはメルが悪いぞ! フィオが反撃してこないからってウザ絡みするんじゃないよ、もう!」

「だって! だってえぇぇぇーーーっ!!」

 テオが割って入り、以下略女を引き剥がす。そこへ追撃のキック! 更にキック! 爪先で尻を抉る!!

 もう二、三十発くらい蹴飛ばしてやりたかったが……テオに「もうストップ!」と窘められた……仕方ない。

「覚えてろっ! 覚えてろぉっ!! 今日からの夕飯にはチビぼっちのキライな生魚ばっかり並べてやるっ! お刺身の三種盛りにしてやるんだから!!」

「ふんっ……楽しみにしておくわ」

 テオに引き摺られて行く馬鹿を見送り、カウンターへと戻る。

「あ、ごめんなさい。依頼達成の報告ね……はい、オッケーよ。ご苦労様」

 このようにバタバタとしながらではあったけれど、午後からも順調に達成数は伸びて、初日の最終的なスコアは53件と驚異的な数字となったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ