2:私、あの人……キライです
テオは――メルルゥも一緒に、二人して――目が点になった。
「聞こえなかったかしら? ここに冒険者ギルド支部を建てるから、露店を撤去して。私はそう言ったのよ」
フィオナと名乗る冒険者ギルド職員は、ふんっ! と鼻を鳴らすと改めてそう言い放った。
「え? えっと……支部? 冒険者ギルドの? こ、ここに建てるの?」
「何度も言わせないで頂戴。これだから凡愚は……ほら、材料なら持ってきてるわ」
彼女は背負ってきた荷物を指し示す。
中には何本かの材木と「冒険者ギルド連合・東部管轄・第二支部」と書かれた看板。そしてカウンターの代わりなのだろうか、ミカン箱が一つと、クエスト等を書き記す台帳が入っていた。
「さあ、これだけあれば如何な凡愚でも出来るでしょう? わざわざ私が苦労して持ってきたのよ、ありがたく使いなさい」
「お、俺がやるの? 何で!?」
テオが慌てると、フィオナは目を閉じて「やれやれ」とジェスチャーをした後、哀れみを込めた溜息を付く。
「こんなにも気高くか弱い女子に重労働をさせるつもり? 少しは弁えなさい。それに私は疲れているの。いつまでこんな泥だらけの道端に立たせておくつもりなのかしら……せめて椅子くらい用意したら?」
「えぇー……」
いやまぁテオとしては、何か力仕事があるのなら手伝うくらいは吝かでない。しかし言い方というか、頼み方があるのではなかろうか。
それに冒険者ギルドの支部を建てる? もし本気で言ってるのだとしたら、それはあまりにも荒唐無稽だ。となれば、もしかすると彼女は――。
「あの、フィオナ……さん? お疲れのようですし、冷たい飲み物でも……」
薄らと何かを察したテオが僅かに黙ると、その間を取り持つようにメルルゥがポーションを差し出した。
しかしフィオナは一瞥をくれると、厳しい口調で彼女を手を払う。
「余計なお世話よ! 誰がそんな、どこの馬の骨ともしれない薬師が作った、得体の知れないモノを口にすると思うの!」
メルルゥの手を離れたポーションの瓶が地面を転がり、テオの足に当たって止まる。
「……もう貴方たちには頼みません。そこで指を咥えて見てなさい、自分でやるわ!」
そう言うとフィオナは露店が出ているのとは逆サイドのダンジョン入口前へ、重たい荷物を引き摺って行った。
それからしばらく、テオは考えていた。
他でもない、高飛車な少女フィオナのことについてだ。
こんな辺鄙な場所へ内勤の職員を一名だけ寄越して、ギルド支部を設立? 有り得ない。誰がどう考えても無理だと分かる話ではないか。
「なぁメル、どう思う?」
「私、あの人……キライです」
ムスーっとした顔で、メルルゥが言った。温和な彼女にしては珍しい、明確な拒絶だった。
「そうだよなぁ……でもまぁ、向こうも疲れてたんだろ。多少は大目に見てやったら?」
あの大荷物を背負って、雨上がりの山道を登る。馴れた冒険者でも一苦労の行程を野外活動に適さない受付嬢の制服で行ったのだ。
靴はドロドロ、足はパンパン。流れる汗で服は張り付き、林野の蒸し暑さが体力を奪う。明らかに不慣れなフィオナには相当な苦痛であった筈……少々気が立ってしまうのも仕方がない。
「何ですか、テオさんはあっちの肩を持つんですか? あれだけボロカスに言われたのに、ちょっと可愛い娘だと、すぐにそうやって……!」
「あ、いや……そういうワケでは……」
しまった、ミスった。
だがテオは慌てない。
「まぁ、これでも食って落ち着けよ」
「何ですか、私がいつも食べ物で誤魔化されると思ったら大間違いですよ……もぐもぐ……」
オヤツ代わりの焼き団子をメルルゥの口へ放り込む。これでしばらくは大人しくなるだろう。
「しかしまぁ、あれだな……あんまり面倒事になっても困るから、ちょっとくらいは調べておくか」
「もぐもぐ……ごくん。調べるって、何をです?」
団子を食べ終わったメルルゥの口へ次の団子を押し込んで、テオは呟く。
「まあ、色々だよ」




