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【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

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20/40

1:すべて世は、こともなし

第一章、無事に完結いたしました。

読んでくださった皆様のおかげです、ありがとうございます。


本日より、第二章がスタートします。

全21話。

毎日17:30の更新となります。


よろしくお願いいたします!

 剣と魔法が交錯し、魔物が跳梁跋扈する。

 そんな世界の片隅に、小さなダンジョンがあった。

 アペオス辺境洞窟群、第三坑。通称「小端洞」。

 第一層、第二層は弱い魔物が湧く初心者向け。第三層からは数ランク上の魔物が蔓延る上級者向けの構成だ。

 そんな辺境ダンジョン前によく店を開いている露天商は、しばらく前に一部界隈を賑わせた、美味しい味付きポーション「メルポ」の元祖。テオとメルルゥが切り盛りするポーション露天だ。

 普段であれば初心冒険者を中心に、かなりの賑わいを見せる人気露店なのだが――。

「……今日はなんだか、ヒマですねぇ」

 丸眼鏡の少女が、長いミントグリーンの髪先を弄りながら呟く。ハーフ・アルラウネの少女、メルルゥだ。

 見るからに暇を持て余しており……メルポ作りも、手慰みのチャーム作りも朝からずっとで飽きてしまったらしい。

 いまは毛先に止まったテントウムシがヨジヨジ歩く姿を見るのが仕事となっている。

「ふあぁ……そうだなぁ……」

 その隣で大あくびをする青年、テオ。彼も帳簿を付けていたのだが……売り上げがなくては書くことがない。

 眠そうな目を擦り、腰を捻って姿勢を正す。

「昨日まで天気悪かったし……西の方で新しいダンジョンが見つかったらしいから、みんなそっちに行ってるんじゃないか?」

「そういえば冒険者さんたちが、そんな話してましたねぇ」

 そこで途切れる会話。

 客足は疎ら。昨日までの雨は嘘のように上がって青空は清々しく、白い雲がプカプカと浮かび、鳥がピーヒョロ鳴きながら円を描き飛んでいる。

 平穏で長閑な時間が、辺境ダンジョン前にゆっくりと流れていた。

「……ん?」

 あまりのノンビリ空気にテオがウトウトしかけていると……視界に何かが映り込んだ――人影だ。

 山道の向こう。まだ遠く離れた位置で小さな人影が一つ、こちらへ向かい動いている。

「ソロの冒険者さん、ですかね?」

「それっぽいな。こんな辺鄙な所、冒険者くらいしか来ないだろ」

 手をひさしに目を細めるメルルゥへ、そう返すテオだったが――。

「……? なんか、あれ……変じゃないか?」

 しばらく観察し、人影の奇妙な点に気付く。

 一向に近付いてこないのだ。

 あの距離なら五分か、せいぜい十分もあれば到着するものを、二十分近く経っても全く進んでいる様子がない。

「何かトラブルか? ちょっと様子を見に行ってみる」

「ケガかもしれません。ポーションを準備しますね」

 立ち上がる二人。そして人影に近付いて行くと……何やらキーキーと喚き散らす声と、泥に足を取られて滑る靴音が聞こえ始めた。

「くっ! こ、このようなド田舎の山中にぃ……ぜぇ、はぁ……どうして、この私が……! はぁ、はぁ……っ!」

 そのように息を切らす人影は、小柄な少女だった。

 歳の頃は十代中頃か、もっと若くも見える。キッチリと編み上げられたプラチナブロンドの髪に、白磁の肌。整った顔付きに加え、尖った耳から想像するに、種族はエルフだろうか? 小さな身体に大荷物を背負い、にじり寄るように山道を歩いている。

「おーい、大丈夫か?」

 テオが声を掛けると彼女はハッとして顔を上げ、背筋をピンと伸ばして姿勢を正す。そして何事もなかったかのようにキリッと表情を引き締めて……さっきまでぜぇはぁ言ってた人と同一人物とは思えない豹変ぶりだった。

「ええ、問題ないわ……どうやら終点のようね」

 そう言うと彼女は背の荷物をよいしょと道端へ下ろし、その身一つで残りの山道を登り始める。

「えっ? あの、ちょっ……?」

 残された荷物にテオが困惑していると――。

「そこの貴方、何時までボーっと突っ立っているつもり? さっさと私の荷物を運びなさい」

「うぇっ? あ、あぁ……」

 当たり前のように言われ、更に困惑する。しかも――。

「うぉっ!? お、重っ……! 何入ってるんだコレ?」

 元ポーター(荷運び役)であるテオでさえ驚くほどの重量感。小さな身体にこんな重い荷物を担いでいたのでは、山登りが捗らなくて当たり前だ。

「ふぅん……ここが小端洞なのね。何もない所だわ」

 一足先にダンジョン前に到着した少女は、冷めた表情で辺りを見渡して鼻を鳴らす。

 そしてメルルゥを見つけ、指先で指図して自分の方へと招いた。

「貴女は何? そんな所で何をしているの?」

「わ、私はここで露天商をしてまして……自家製のポーションを売っています」

 少女は目線だけでメルルゥの顔と露店に並ぶポーションを見比べて、またもフンと鼻を鳴らす。

「自家製……ということは薬師なのね。なら、もっときちんとした清潔な格好をなさい。そのように薄汚い格好で薬師だなんて、威厳も何もあったものじゃないわ」

「うぐ……っ!」

 いきなりの口撃にメルルゥが怯む。

 確かに今日の彼女はグータラしていた関係で調薬用の薄汚れたエプロンドレス姿。髪も簡単に纏めた程度で、キッチリとはしていない。

 だが初対面で、そこまで言わなくても……。

「まあいいわ。ところで、この辺りの地権者は誰? 疲れているの、早くして頂戴」

 山歩きが相当堪えたのか、苛立った様子の少女。そこへ遅れてテオが到着する。

「ふぅ、重かった。それで、何かご用かな? 別に地権者じゃあないけど、話なら聞くよ」

 少女はチラリとテオの方を伺い、小さく溜息を付く。その顔には「下っ端では話にならない」と書かれていた。

「まあ、そんなカリカリしなくても。その格好……冒険者ギルドの人だろ、しかも内勤の」

 冒険者ギルド――それは地域の何でも屋から救世の勇者まで。冒険者と呼ばれる者たちを管理、監督、サポートする連合組織の総称だ。

 地域の困り事を「依頼クエスト」という形で冒険者たちへ斡旋する他、未開拓地域やダンジョンの管理も一括して行っている。

 そして少女が着ている衣服こそ、冒険者ギルド受付嬢の制服だ。

 輝くような白と淡い水色を基調とした上着に、スリットの入った短いスカート。ケープのような肩当てには冒険者ギルドの紋章が金糸で刺繍されている。

「珍しいね、受付嬢がこんな僻地まで。何しに来たの?」

「見かけによらず話が早いじゃない。そっちの田舎娘に話すよりは、貴方の方が多少はマシみたいね」

 ムッとするメルルゥを気にする様子もなく、少女は優雅な動作でテオへと向き直る。

「私はフィオナ・エル・シルフリード。お察しの通り、冒険者ギルドの職員よ」

 フィオナと名乗った少女は、どこか尊大さを感じさせる口調と他人を見下すような視線のまま、事もなげに言い放つ。

「ここに冒険者ギルド支部を建てるから、今すぐその薄汚い露店をどかしなさい」

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