19:黄金の滴と賢者の秤
ポーション用フレーバーエキス、通称「メルシロップ」のライセンス契約は着々と進み、およそ一ヶ月後に初回のライセンス使用料が受け渡された。
働かずして手にする大金にテオは悪い笑みを浮かべ、メルルゥは目を回す。そしてメルポの安全性検証もテオの目論見通りに道具屋ギルド主導で進み、予想よりも遙かに早く検証完了。幾つかの規制事項はあったものの、概ね問題なく製造可となっていた。
そこからも契約件数は伸びて、メルポの一般販売は順調。おかげで二人はちょっと暇を持て余す……と思っていたのだが、テオも予想していなかった嬉しい誤算が降りかかった。
まず一つ目。
メルシロップが店頭に並び始めたことにより、辺境ダンジョン前の露天は存在意義を減らし、そのまま消滅する。二人はそのように考えていた。
ところがいつの間にか初心冒険者たちの間で「1円ポーションを購入して辺境ダンジョンへ入場。空き瓶を拾いながら戻り、割引を受けながら中古の格安メルポを購入。再びダンジョンへ潜る」というローテーションが確立されていたのだ。
そのせいで辺境ダンジョン前の露天を畳めず、1円ポーション販売も止められない。初心冒険者たちが増えた為に前より忙しい――そんな状況へ追い込まれてしまったのだ。
更にもう一つ。
メルルゥが手慰みに作り、純正品のオマケとして配った素朴なチャーム。そのチャームが冒険者たちの間で、御守りとして流行ってしまった。
雑嚢の紐に。
剣帯の端に。
鎧下の内側に。
これを持っていると無事に帰れる。ピンチを乗り越えられる。小さな幸せが訪れる。
見た目の可愛らしさと、虫除けという些細であるが便利な効果。そして美少女の手作り(しかも手渡し)という単身男性冒険者にとって心の拠り所となる要素は、本来の意図を大きく飛び越えて、メルポと共に一大ムーブメントになったのだ。
メルルゥはメルポを作りつつチャームも作り、更には店頭で彼女のファンに愛想を振りまくというアイドル顔負けの超多忙生活を送っていた。
「テオさん、メルポの店頭在庫が切れそうです! あとチャームも残数僅か!」
「わかった、ひとっ走り取ってくる! あと、もうすぐ夜だから――」
「はい、野営セットもお願いします! チャームの作り置きは、いつもの所で!」
忙しく走り回る二人。
そうする間にも次々と冒険者たちは訪れ、買い物を済ませて行く。
洞窟の奥で。
魔王の眼前で。
異世界の深淵で。
テオとメルルゥの売った道具が使われ、冒険者たちを助けるだろう。
だがメルポの名は、英雄譚に記されず、伝説にも残らない。
しかし当たり前のように使い続けられる――多くの笑顔と共に。
「おっ、いらっしゃい! 今日はどうする? 新しいフレーバー試してみるかい?」
「お買い上げ、ありがとうございます。冒険の無事な成功、お祈りしてますね!」
今日も辺境ダンジョン前の露天は、冒険者たちを、待っている。




