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黄金の雫と賢者の秤 ~1円ポーションから始める弱者救済マーケティング~  作者: かっぷ


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2:ぼちぼち、といいますか……

 そのダンジョンは、一層と二層が初心者向けのマイナーなダンジョンの一つだった。

 マイナーな理由は単純で、初心者向けならもっと他に良い場所があること。宿場から少し離れたこのダンジョンは、初心者が気軽に通うには少し遠いのだ。

 けれど、そんな過疎地であっても、たまには変わり者が訪れる。

 例えば、今日のように。

「おわあぁぁーーーっ!? 痛っ! いっ……ぎえぇぇぇッ!!」

 悲痛な声と共に入口から転がり出る一人の青年。テオ・ヴァン・クロム、その人だ。

 革製の胸当てを身に着け、手には小ぶりなハンドアクス。金のない初心冒険者丸出しの装備構成だった。

「いぎぃ……初心者向けなんだろ、なんでアクティブな魔物が湧いてんだ? 痛ってぇなぁ、くそぉ……!」

 呟く彼の腕には、血の流れ出る噛み傷。ダンジョンに生息するジャイアントバットからの奇襲で負った傷だった。

「はぁ、畜生……ポーションは使い切っちまった。毒消しやら麻痺消しやらは腐る程あるんだが、どうするか……」

 流石に手傷を負ったままダンジョンへ潜るほど命知らずではない。とはいえ彼はここを訪れたばかり。回復ポーションだけ使って赤字状態で逃げ戻るのは、流石にちょっと……などと考えていた時だ。

「なんだ、ありゃ?」

 ふと視線を向けた先に、小さな手書き看板が見えた。そこには細く几帳面な文字で「ポーション販売中」と書かれている。

「ポーションの露天か……こんな僻地に、珍しいな」

 ダンジョンの出入り口付近でポーション等の消耗品を売る露天商は、さほど珍しくない。しかしそれは人気ダンジョンでの話。いくらブルーオーシャンを狙ったとはいえ、客が来なければ売りようがない。

「ま、俺みたいなヤツも居るわけで……あながち、的外れでもないのかな。すんませーん、商品見ても構いませんかー?」

 テオが声を掛けつつ近付くと、露天商はハッとした様子で顔を上げる。淡いミントグリーンの長い髪に、大きな丸眼鏡。どこか気弱そうな雰囲気を漂わせる、年若い女性だった。

「あっ、えっ……お客様!? ど、どうぞ……見ていって、ください……!」

 接客に馴れていないらしい女性は、オドオドとした様子で顔を上げた。中々の美少女……なのだが、髪はボロボロ、服はクタクタ。どこか疲れ、萎れているように感じられた。

 まあ、こんな僻地で商売をしようというのだ。疲れが出る程度には理由があるのだろう……と商品に目をやったテオの口から「おっ」と、小さな驚きが零れ出る。

「……安いな」

 店頭に並んでいたのは回復ポーション。価格は100円。一般小売りの相場ではあるが、ダンジョン前の露天では相場よりも高い価格設定が当たり前。

 しかも――。

「品質も、悪くない……ってか、かなり上質だな」

 澄んだ色合い、滑らかな流感。不純物や混ぜ物の一切を感じさせない、高品質なポーションだった。

「一つ買うよ」

「あ、ありがとう……ございます!」

 代金とポーションを引き換え、意を決して一気に口へ……と、またここで驚きが一つ。

「……ぷはっ! え、これ……甘いんだけど!?」

 瓶から口を離し、テオが声を上げた。

 良薬口に苦しとでも言うかのように、普通のポーションは苦くて不味い。しかも渋柿を囓ったような苦味の残滓が舌に残る、嫌ぁな感じのヤツだ。

 けれどテオが飲んだポーションは蜂蜜の入ったジュースのような、爽やかな深い甘みのある、極めて美味しい飲み物だった。

「す、すいませんっ! お口に……合いませんでしたか?」

「いや、驚かせて悪い。むしろ逆……もっと飲みたくなるくらいだ、すげぇ美味しい」

 瓶に残っていたポーションを飲み干し、最後の一滴まで舌でお迎えして……一息をつく。その頃には腕に負った傷は、キレイさっぱり消えてなくなっていた。

「えへへ……良かった。喜んで貰えたみたいで、嬉しいです」

 受け取った100円を大事そうに抱え、娘が微笑む。チラリと彼女の背後を見れば、在庫と思しきポーションがギッチリと箱のまま残っていた。

「なぁ、突っ込んだコト聞いて気ぃ悪くしたらゴメンなんだけどさ……ぶっちゃけた話、ポーション……売れてない?」

「う……っ!」

 テオの一言で、娘の顔に浮かんでいた笑顔が固まり、引き攣ったモノへ変化する。考えるまでもなく、図星だった。

「えぇと、まぁ……ぼちぼち、といいますか……」

 足下を見られまいとしたのか、娘は必死に誤魔化そうとしているようだ。彼女がどことなくみすぼらしいのは、商売が上手くいっていないことが原因だろう。

「ぼちぼち、か……」

 しかしこれほどの高品質。しかも良心的な価格価格。なのに売れないとは、どういうことなのか。

 客は少ないが、来ないワケじゃない。それを繋ぎ止める方策が欠けているのだ。

「なぁ、もし良かったら……なんだけどさ。俺がアンタのポーション、全部買おうか?」

「そーですね、是非……って、えっ? ふえええぇぇぇっ!?」

 驚き、本日一番の大声を上げる娘。その名は、メルルゥ・アンブローシア。

 今後、公私にわたり長い付き合いとなるテオとメルルゥは、このようにして出会ったのだ。

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