16:ラスト・ダンジョン
戦士ギルド協賛の製造実演販売が終わって、しばし。
辺境ダンジョン前での露天を再開させた二人に、平穏な日々が戻っていた。
仕入れ妨害は終わり、ネガティブキャンペーンも鳴りを潜めた。メルポの売れ行きは順調で、製造が追いつかない日さえある。
「フフーン、ふふふーん……」
メルルゥもご機嫌で、鼻歌交じりのメルポ製造は今日も絶好調だ。
ちなみに例の新制服だが、あの後でメルルゥが攻撃力に気付いてしまい封印となった。いま着ているのは別の、もっと大人しい、ごく普通の……つまんない制服だ。
それはともかく。
「なぁメル、その鼻歌……たまに出てるけど、何の歌だ?」
「あー……コレですか? 私も詳しくは知らなくて。お父さんが、お料理する時に歌ってて……」
ハーフ・アルラウネである彼女の父は、人間だ。腕の良い料理人だったそうで、材料集めに迷い込んだ森でメルルゥの母であるアルラウネと出会い、恋に落ちた。
「お父さん、よく言ってたんですよ。美味しいゴハンで、みんなを笑顔にしたい……って。そもそもポーションに味付けしようって言い出したのも、お父さんで……」
「そうか……そうだったのか」
メルルゥがメルポに拘る理由。自分を排斥した連中の鼻を明かしてやりたい……そんな気持ちも多少はあるのだろうが、基本的に柔和で恨み言を言わない彼女には似つかわしくない気がしていた。
だがその話を聞き、腑に落ちた。
彼女は父の掲げた理想を受け継いでいたのだ。
そして母の技術を交えてそれを成し遂げ、長く辛い雌伏の時を経て、いま、それらは成就の直前にある。
「……私、幸せです」
囁くように、メルルゥが言った。
「そうか、そりゃあ良かった。本当に……」
テオも囁くように返す。
彼女の両親は十数年前に天災で亡くなってしまったとのことだが、きっと天国で喜んでいるに違いない。
「あ、そだ……テオさん、また例の申し込みが来てるんですけど……どうしましょう?」
「おぅ、そっか。新規の契約は俺が……いや、少し後にした方が良いかもな」
ふとテオが視線を向ける先。そこへメルルゥも視線を重ねると、こちらへ向い山道を独り歩く某かの人影。
「ようやくお出なすった……待ちに待った、お客様の到着だ」
服の埃を払って姿勢を正したテオは、その人影に不敵な笑みを投げかけるのだった。
翌日――。
テオとメルルゥは、街までやって来ていた。
相変わらず変化のない街並みと人の流れ。しかし道具屋の一部には「メルポ特約店」「メルポ、始めました」の看板が掲げられており、僅かながらの変化を感じ取る。
「腹ごしらえは済んだか? 行くぞ、メル!」
「……はい!」
そんな中、鼻息も荒く真剣な表情を見せるテオ。メルルゥも自らを鼓舞し、気合いを入れ直す。
今日のメルルゥは先日買ったちょっぴりフォーマルな服装で、しっかりとメイクアップ。ミントグリーンの長髪も綺麗に纏め、アップにしてある。テオもそれに合わせたキチッとした格好で、普段はあまり使わない整髪料で髪をオールバックに纏めていた。
これから彼らが向かうのは、道具屋ギルド連合・東部支部。昨日訪れた使者に招かれてのことだった。
「どうぞ、こちらへ」
到着した道具屋ギルドでは、受付でしばらく待った後、担当者の案内を受けて支部の奥へ。そこは一般人は殆ど立ち入ることのないエリアだ。
「……ふぅっ!」
「メル、なるべくリラックスしとけ。いまからそんな緊張してたら、最後まで保たないぞ」
強張るメルの頬を引っ張って、強制的かつ物理的に解す。だが、そんなテオとて緊張は隠しきれない。
ここは道具屋ギルド連合・東部支部。即ち、敵の総本山。仕入れ妨害をしたりネガティブキャンペーンを仕掛けてきた輩が住まう悪の巣窟なのだ。
「と、いかんいかん。平常心、平常心……」
大きく鼻から息を吸い、ゆっくりと口から吐く。それを数回繰り返し、逸る気持ちを「凪」の状態へと持って行く。
「テオ・ヴァン・クロム様。メルルゥ・アンブローシア様――こちらが当支部長。ゼノス・バリンジャーです」
そして案内された支部長室。
二人はそこで待ち構えるラスボスと対面したのだ。




