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【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

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14/40

14:味付きポーション、その名は「メルポ」!

 そのイベントは戦士ギルドの協賛を受け、敷地の一部を借りる形で行われた。

 最近話題の味付きポーション、通称「メルポ」の製造実演販売だ。

「ふぅ……き、緊張してきました」

 路上に面する広場に据え付けられたメルポ展示ブースには、緊張の面持ちで立つメルルゥの姿。

 彼女は今日この場で、メルポを素材から精製して瓶詰めする一連の流れを披露するという、重要な役割を担っている。

「いつもと同じようにやれば大丈夫だ。何度も練習しただろ? 心配すんなって!」

 荷物置き場からひょいと顔を出し、テオが声を掛ける。

「ミスったらフォローしてやるから、どーんと構えてりゃイイんだよ!」

 今回、彼は裏方だ。

 接客馴れしていないメルルゥの傍に居てやりたい気持ちはあるが、今回ばかりは自分という存在自体が邪魔になる。

 彼女が作るポーションの通称である「メルポ」は、利用客の間から自然発生した物。メルルゥのポーション、故にメルポ。となればテオという要素はノイズでしかない。

「改めて確認するぞメル。今回のイベント、目的は何だ?」

「はい! 私の作るポーション、ひいては独自の製造工程が、安全で信頼出来る物だって皆さんに知って頂くことです!」

 メルルゥが淀みなくスラスラと答える。

 透明性の確保と周知――悪い噂が流れてるけど、実際の現場を見てください。ね、キッチリしてるでしょ? 安心でしょ? 各ギルドのお墨付きに間違いありませんとも!

 そう喧伝し、悪い噂を払拭しつつ宣伝も行う。未だ続くネガティブキャンペーンへのカウンターとして、予てからテオが計画していたものだ。

「よぉし、その通りだ! お前のポーションが安心して使える物だってことを教えてやれ!」

「はい! 了解です!」

 小さく拳を握り、テンションを上げるメルルゥ――だがテオはこっそりと舌を出す。

 すまん、メルルゥ。お前には伝えていないことがあるんだ。

「さあイベント開始だ! 張り切って行くぞ!!」

 展示ブースに各種の看板が掲げられ、それを照らすように魔法の灯りが灯る。昼間ではあったが、明るい時間帯であるが故に、照らし出される看板類は非常に目立ち、遠くからでも視認出来た。

 なんだなんだ、と道行く人が注目する中――。

「やあ、やってるね」

「あ! 来てくださったんですね、ありがとうございます!」

 最初にブースを訪れたのは顔なじみの冒険者パーティーだった。

 偶然通り掛かってブースを見つけた……ワケではない。テオの仕込みだ。「最初の内メルルゥはガチガチだろうから、知り合いのキミらが緊張を解してやってくれないか」そう頼まれている彼ら。

 ようはサクラである。

 そして既に人が居れば、新たに訪れる者の心理的ハードルが下がる。何か催し物をやってるぞ、と気付いた者たちが足を止めるようになってきた。

「普通のポーションって苦くてマズいだろ? でも、この娘の作るポーションは甘くて美味しいんだ! マジでビビるぜ!?」

「飲みやすいから助かるんだよね。傷もちゃんと治るし、心も満たされるっていうかさぁ」

 雇った冒険者たちも良い仕事をしてくれている。

 彼らはビジネスライクな関係である以上に、メルポの純粋なファンだ。それ故にやる気が違うし、その熱量は周囲に伝播し、広がって行く。

「いいぞ、その調子だ……!」

 離れた場所でテオがニヤリと笑う。

 ブースは間口を大きく取り、多方向から見ることが出来るようオープンキッチン化してある。荷物置き場を離したのも、それが理由だ。

 見て貰わなければ始まらない。今回は見て貰うことが第一目標であり、その目標は既に達成されつつあった。

「えっと、では……実際にこのポーション……めるぽ、を……作って行きますね」

 少し恥ずかしそうにメルルゥが言って、ポーションの抽出の実演を始める。その頃にはブースを囲むように人垣が出来上がっていた。

「まずは、この雑草を……」

 山盛りの雑草をひとつかみ。それを溶剤の入った大きめ容器に入れて両手で包み込むと、あっという間にメルポが完成する。それを複数並べたポーション用の瓶に移し替えて、蓋をして……時間にして、およそ三十秒ほどの早業だった。

 想像を上回る効率と製法に、ギャラリーから静かなざわめきが広がる。

「あんな草から……本当に効くのか?」

「でも効果あるみたいだぞ。術士ギルドも、戦士ギルドも認めてるし」

 予想通りの反応。

 これが今回のイベントで、テオが最も悩んだ点だった。

 客に納得感を与えるだけなら、雑草ではなく薬草を使えば良い。その方が見栄えも効率も良いし、効果だって変わらない。だが実際のメルポは雑草から抽出している。

 イベント用として割り切るか。それともありのままを見せるか。

 テオは。いや、二人は――後者を。お客に対してより誠実であることを選んだ。

「雑草から抽出しても、効果は変わらないんですよ。生命力的なモノを使っているだけなので」

「そうは言っても、なぁ……」

 これによって客離れが起きるか?

 僅かに宿る不安。メルルゥの手が止まる。

 フォローに行くべきか? 物陰のテオが身を乗り出した、その時だ。

「なら、アタシに飲ませてみなよ。丁度、怪我してるんだ」

 そう言って進み出たのは、見覚えのある女冒険者。最初の頃から頻繁に通ってくれる、見知った顔だった。

 彼女は傷を負っている腕を皆の前に晒した後、精製したばかりのメルポを受け取り、その場で一口。傷は不思議な輝きを帯びて、みるみる内に塞がって行った。

「どうだい、ちゃんと効くみたいだよ。それに甘くて、飲みやすい。何の問題もないね」

 自信満々に言い切る女冒険者。だがテオは彼女に仕込みを頼んでなどいない。本当に彼女は純粋な善意だけで、メルルゥを助けてくれたのだ。

「あ、ありがとうございます!」

 頭を下げるメルルゥへ、女冒険者は僅かに微笑んで返す。イイ女というのは、きっと彼女のような女性をいうのだ。

「えと、ご納得いただけた所で……次は、色々なフレーバーも作ってみますね」

 メルルゥも何とか調子を取り戻し、実演を再会させた。

 これでもう大丈夫。あとは登って行くだけ!

 テオはイベントの成功を確信したのだった。

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