70. アツアツの餃子
「そうだにゃ!タツキとか言う人間に会いに行かなきゃ行けないんにゃね。」
それにしてもと彼は悩む。
「困ったものにゃ。人使いならぬ猫使いがひどすぎるにゃ。」
「さてと......晩御飯の準備も出来たし後は焼くだけ。」
樹生はホワイトマーケットで購入した鉄板の上に餃子をならび終える。餃子はブルーオークとビックディアーの合挽き。
その横では3つ程フライパンを並べ星熊の羽根つき餃子も作る。
(これでほとんどの肉が無くなったか。また調達しないと。)
残りはレッドファーとグリフォン。後シルエルが獲ってくれた魚が数匹......。そう言えばギルドにワイバーンの肉の解体を依頼してたな......
「おっ!...米もいい感じになってきたな。」
大きめの土鍋で米を炊く。異世界に来てから米は土鍋で炊くようにしていた。これが意外と便利で焚き火でも上手くたけるので重宝している。
(魔力で炊ける炊飯器もあったけど、下手に使うと自分の身が危なくなるしな。)
聖剣だったり、貴重なお宝だったり...樹生は持ってるだけで命を狙われるようなものを幾つも所持している。その状況でさらにとんでもない魔道具やスキルを所持してるともなれば、アンギス帝国だけでなく他の刺客からも狙われる可能性が上がってしまう。
(だからこそ、自分から墓穴を掘るようなことはしないように気を付けないとな。実際何度かやらかしたし。)
餃子にお湯をかけふたをする。後はいい感じに火が入るまで蒸し焼きに。
羽根つきの方は水溶き片栗粉を回しかけ蓋をする。
「スープも必要か」
鍋に大根、人参、玉ねぎ、ベーコンを入れ火にかける。中華の元を入れ塩コショウで味を整える。
「最後に溶き卵を回しいれて......」
「餃子定食の完成!」
「こ、これは......」
アーサーが餃子をジーッと眺めていた。
「食べないの?遠慮しなくていいんだよ?」
ちらりとフウナさん達を見るとすごい勢いでがつがつと食べていた。
「い、いえ......頂きます。」
ヒョイとついばみそのまま飲み込む。
「うん!?...こ、これは!」
パクパクと餃子を食べていく。どうやら口にあったようだ。
「これは美味しい!見た目が白虫に似てたから躊躇しましたが......素晴らしいです!マスター!」
「ありがとう。それじゃあ俺も......あちち、はふ...」
焼きたての餃子はかなり熱く味も良くわかないが、慣れてくるとその美味しさに驚愕する。ブルーオークの肉は脂身が甘く赤みが少ないのが特徴でビックディアーは赤身に旨味がギュッと詰まっているが、少し淡白なのが特徴である。つまり......
「この合挽き肉旨いな!ご飯が無限に食べられそうだ。」
「本当に美味しいわね。タツキは本当に料理人じゃなかったの?」
「そうよ......見たこともない料理をポンポン作るんだから。」
フウナさんとシルエルに聞かれる。
「料理人じゃないよ。そもそも社会人ですらなかったからね。趣味程度にやってただけだよ。」
羽根つき餃子を皿に盛りながら樹生は答える。鉄板にも第2段を置き焼き始める。
「趣味程度ね......。よほど環境が良かったのかしら?」
いつの間にかいたシリラさんが言う。
「あっ!シリラさん、戻ってたんですね。」
「ええ、頂いてるわ。お酒に合いそうね...」
「同感です。」
シリラさんの言葉にリーシェルさんが同意している。あんた聖職者だろう?いいのか?
「ははは......リーシェルさんは変わってると言うか豪快というか...」
隣で食べていたルビアが呆れた目で見ていた。どうやら今さらなのだろう。
「これがタツキさんの料理ですか。本当にすごいです。私は簡単な物しか作れませんから。」
ルビアはそう言うと少し寂しそうな顔をしていた。
「......別に大したことじゃないよ?ルビアは手先は器用な訳だし難しいと思わないことが大事なんじゃないかな。」
実際一緒に餃子を作っていて思ったがルビアは物覚えが物凄く早い。
「ほら、これ見てよ。」
タツキはルビアに手を見せる。
「......キレイな手ですが」
「はは、ありがとう。じゃなくてここ」
「古傷が幾つかありますね。これは火傷後ですか?」
ルビアの言った通り樹生の手は傷だらけだった。
「怪我も火傷も何回もしたよ。今だって油断したらザックリ切っちゃうからね。そんな不器用な俺だって出来るんだよ?ルビアに出来ないわけがないよ。」
樹生の言葉にポカンとしていたルビアだが、少ししてからニコニコしていた。
「リーシェルさん、リーシェルさん。私何だか嬉しくて......」
ルビアはパタパタとリーシェルさんの元に行くと何かを話していた。元気が出たようで何よりである。
「ムゥゥゥ......」
クウが睨みながら唸っている。
「どうしたの?ほら、おいで」
「ワフッ!」
両手を広げると胸に飛び込んでくる。普段なら軽く吹き飛ぶぐらいの衝撃だが今回は優しく胸に飛び込んできた。
「ウー......」
お腹に顔を埋め甘えてくる。
「ははは、可愛いやつめ!」
くしゃくしゃと撫で回すと、さっきまでの不機嫌さが嘘のようになくなった。そのまま撫でているとシリラさんが話しかけてくる。
「タツキ君はこの後はどうするの?」
「もともとカンドラに行く予定でしたから変更は特に無いですね。」
そもそもグラニア魔術学院にきたのだってロックバードを届けに来るのが目的だったのだ。色々あって滞在が伸びたが結果的にアーサーとも契約出来たし、色々な出会いもあった。
(なんだかんだ楽しい数日間だったな。)
「カンドラ......ドワーフが住む鉱山街ね。いったいどんな用で行くの?」
「新しい包丁が欲しくて。今使ってる物だと魔物の解体が難しいものが多いんです。」
安物だからすでにガタが来ている。包丁直しで誤魔化してはいるが限界が近いだろう。
「でも、その前にいくつか寄らなきゃいけないところがあるんですけどね。」
何枚かの依頼書をシリラさんに見せる。
「ふむ......キマイラにデビルスネーク、ミスリルゴーレムね。」
「!?!!!!!!!?!!」
シリラさんは物凄い形相で二度見していた。
ははは、気持ちは良くわかるよ。できれば俺だって受けたくなかったからね。
「タツキ?何をしてるのおかわりよ。」
「ワフッ!(おかわり!)」
フウナさんとクウが第二段を今か今かと待っていた。
「マスター......」
アーサーもチラチラと蓋がしてある鉄板を見ていた。
「むぐむぐ......タツキ!早くしてね!」
シルエルは口いっぱいに頬張りながら催促する。
「はいはい......ちょっと待ってね。」
こんな感じにも慣れてきたなと思いながら蓋を開ける。立ち上る湯気は同じものだと言うのに、食欲を掻き立てる。
「「「「わぁ!」」」」
シリラさんやリーシェルさん、ルビアも感嘆の声を上げフォークを伸ばす。
餃子パーティーは夜遅くまで続いた。何度包み何度焼いたことか......気づいた時にはフウナさん達は寝息を立てていた。
「よいしょっと......」
シリラさん達もすでに眠っている。リーシェルさんと一緒にかなりの量のお酒を飲んでおり、自然と静かになっていた。ルビアは酔っぱらい二人に巻き込まれお酒を飲まされ......
「ふぅ......やっとキレイになった。」
シリラさんの研究所は学園の地下に存在していた。そこには様々な魔道具があり、大きな洗面所もあったため油まみれの鉄板を洗っていた。
「さてと......明日の朝ごはんの仕度だけするか。」
量が量だけにある程度仕込んでおかないと間に合わなくなる。ホワイトマーケットで買ってもいいがゴミの処理が確立してない以上それは出来ない。
「まぁ保管庫にいれてもいいんだけど、探しものするたびにゴミ山があるのは気が滅入るしな。」
大きな鍋に玉ねぎ、セロリ、じゃがいもなどをいれてコトコト煮る。
「あれ......オイル切れか。魔法でつけるか。」
「私がつけましょう。」
鍋の下に敷いてある薪にボッと火がつく。
「アーサー?起きてたんだ......」
「ええ、マスターが何やら作っている様子でしたから。」
鍋が沸騰するまで火を眺めながらボーっとしていた。
「マスター.........眠いのですか?」
「いやいや...疲れてはいるけど、火を使ってる以上寝る訳にはいかないよ。」
パチパチと薪が燃えるなか樹生とアーサーは無言で火を眺めていた。ボコボコと沸騰し始めた所にシーフードミックスを投入。
「それは?」
「これ?シーフードミックスって言う冷凍食品だよ。」
アーサーが興味深そうに眺めていた。
「海から離れていても海産物が簡単に手に入るとは......マスターがいた世界は発展していたんですね。」
「そうだね......魔物なんていなかったし、絡まれるとしても酔っぱらいくらいの平和な場所だったよ。」
「それはこちらも同じでは?」
アーサーがうなされているルビアを横目に言う。
「はは、そうだね。」
苦笑いを浮かべながらずれた毛布を直す。
「よし、後はシチューベースを溶かして......少しコンソメも入れようか。」
とろみが付くまで焦がさないようにかき混ぜる。
「マスター......先に寝ます。」
飽きたのだろうか、アーサーは羽をたたみ横になった。しばらくするとスース-っと言う寝息が聞こえてくる。
(俺も早く寝よう。)
ある程度完成したので火を消しておいておく。
「ふぁぁぁ......」
寝袋の中に入り樹生は眠りにつくのだった。
「マ......スター......マスター。」
「う、うん?アーサー?」
ちょいちょいとつつかれアーサーに起こされる。
「どうしたの?まだ朝じゃあ......うわぁ!」
「ふふ......お休みなさい。」
アーサーの羽の中で樹生は再度眠りについた。ポカポカの日向て寝ているような感覚。久しぶりに快眠できた樹生であった。
「ふん......まぁ今回は見逃して上げようかしら。」
「大人げないわね......」
フウナさんとシルエルは仲良く眠るアーサーと樹生を見ながら何だかんだ嬉しそうにするのであった。




