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終章 片割れ

 風の城に連れ帰られたインジュは、どこかボンヤリしていた。

「おい、大丈夫か?」

リティルはインジュに詰め寄った。ここは、インジュの自室だ。シングルベッドの上で体を起こしたインジュは、詰め寄るリティルに若干引いた。

「も、問題……な、ありま、せん……よ」

無理して言葉を発してるような感じだった。

「あの、私と2人にしてくれませんこと?」

リャリスの提案に、リティルはなぜかえ?と瞳を見開くと躊躇うような素振りを見せた。

「インジュ、無理だったら無理って言えよ?」

「無理なんかじゃ、ね、ないですよ?」

ぎこちなく笑って、首を傾げるインジュに様子に、リティルはハアとため息を付くと、廊下にいるとと言って、部屋を出て行った。

そんなリティルを見送り、リャリスはインジュに向き直った。

「あなた、誰ですの?」

ジロッと見つめる糸のように細い切れ長の瞳は、心の中の中まで見通すようだった。

フッ。

インジュが笑った。ニヤリと引き揚げられた口角。インジュの浮かべる微笑みとは、かけ離れていた。リャリスは退きそうになる体を、何とか押し止めた。

「ああ、やっぱバレるよなぁ?陛下も気がついてたな」

インジュは突然砕けた口調になると、頭の後ろに両手を置いて、ドサッとベッドに倒れた。リャリスは、ニヤニヤとどこか楽しそうに笑う乱暴そうな男に警戒したが、恐る恐る近づいた。

「オレはエンド。インジュのもう1つの人格だ」

「もう1人のインジュ……」

エンドはジロリと舐めるような視線を送ってきた。

「知ってるみてぇだな?」

「インジュが、話してくれたことはありませんでしたわ。けれども、殺戮形態に変身すると人が変わると聞いたことがありますのよ」

「へえ?なあ」

え?――リャリスはエンドの半分オウギワシのかぎ爪に変わった手に、顎を掴まれて引き寄せられていた。足が浮き、リャリスは慌ててベッドに膝をつく。

「おまえ、いい女だよなぁ。オレにしとかねぇ?」

「な、何を言って――」

「インジュのこと、冷めたんだろう?オレならもっとちゃんと、可愛がってやるぜ?」

それを聞いたリャリスは咄嗟に、エンドの腕を叩いた。触れた腕に小さな魔方陣が描かれ、小さな爆発が起こる。爆発で緩んだエンドの手を外し、リャリスは距離を取っていた。

「インジュが!例え婚姻を解消したとしても、私の夫は煌帝・インジュただ1人ですわ!あの方が次をお決めにならないのならば、その妻の座に、居座ってやるのですわ!私は蛇。蛇女はしつこいと相場は決まっていてよ?」

自分で言った言葉なのに、泣きそうだった。

ギシッとベッドが鳴った。見れば、エンドが腕から血を滴らせたまま薄ら笑っていた。身構えるリャリスを見据えて、エンドは突然大声で笑い出した。

「アーハハハハハ!それ聞いて安心したぜ?インジュが、情けねぇくらい動揺してたからなぁ。オレとしては、インジュを泣かせたくねぇわけよ。けどなぁ、参ったなぁ」

インジュは半分吹き飛んだ腕で頭を掻いた。痛くないのだろうか?見かねたリャリスは駆け寄ると、その手に手をかざした。そんなリャリスの顎に、エンドは遠慮なく手を伸ばし、耳の横にいる蛇に手を噛まれた。しかし、食らいつく蛇をそのまま引っ張り上げて、エンドは遊ぶだけだった。

「インジュのヤツ、いなくなっちまったんだよなぁ」

「え?インジュは……いないのですの?」

「ああ、参ったぜ。オレな、ただの人格だからなぁ、主人格のあいつがいねぇといろいろ維持できねぇんだ。余っ程おまえに嫌われるのが怖かったんだな。だったら、あんなエロいことするなよなぁ?」

ククッとエンドは低く笑った。同じ顔なのに、どうしてこんなに違って見えるのだろうか。リャリスは不思議だった。インジュは見方によっては女性に見えてしまうほど、柔らかな雰囲気を纏っていた。対するエンドは、どう見ても男性にしか見えない。荒々しい荒んだといっていいくらいの雰囲気を纏っている。

「おまえ、インジュ捜してくれねぇか?」

「それは、もちろんですわ。けれども……いいえ、それよりも、この体を維持する方が先ですわね」

リャリスはマジマジとエンドの体を見つめ、その胸にそっと触れた。

「おっと、あんまり気安く触ると、喰っちまうぜ?」

エンドはリャリスの頭を引き寄せると、チュッとその頭に口づけた。

「どちらが気安くて?インジュの体でなければ、大穴を開けていてよ?」

エンドの腕を払いのけて距離を取ったリャリスは、蔑むような冷たい瞳で睨んだ。エンドは、そんな拒絶を受けてもただただ満足そうに笑っていた。

「お堅いねぇ。ま、仲良くやろうぜ?煌帝妃様?」

油断ならない人。リャリスのエンドに対する第一印象はそれだった。

それが、2人共を愛することになるとは、このときのリャリスには思いもよらないことだった。


 神樹の森に出没する、死の魔王と呼ばれる魔物は鎮圧された。

だが、死がなくなったわけではない。

どこかで、誰かが反魂の儀式を行えば、再び開かれる。

あれは、その時を虎視眈々と待っている。

原初の風と、風の王をこちら側に引きずり込もうと、手ぐすねを引いているのだ。

 死の門を閉じた煌帝・インジュは、性格がガラリと変わってしまったと精霊達は噂した。けれども、奥方となった智の精霊と、仲良く口論している姿がイシュラースのそこかしこで目撃され、しっかり尻に敷かれているようだとも噂された。

今日も、世界は風に守られ、安泰だった。

これにて、ワイウイ14閉幕です!

楽しんでいただけたなら幸いです

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