君は何を賭ける?
パソコンが完全に逝かれたので投稿遅れます
一介の学生に過ぎないからこそ、俺は保護されている。
だが学生だからこそ立ち入れない事がある。
エツナさんの嘘をどのように暴けば良いのか、さっぱり見当がつかない。本人に尋ねるのが手っ取り早いのは確かだが、わざわざ隠す辺り無理に暴けば何をされるか分かったものじゃない。そもそも記憶喪失じゃない可能性まで考えなければいけない以上迂闊な真似は禁物だ。
―――やっぱり情報が足りなさ過ぎるなあ。
邦条家の情報網はことエツナさんにおいて頼りにならない。俺が間に入って曖昧にしているだけで彼女は暫定容疑者だ。蒔凛には材緣寺の施設で見たあれについて調べてもらうとして、もう一つ別の情報源が必要になるかもしれない。
「……仕方ない事と知っているけれども、蓮二君。何かと私を頼るよねえ」
「投票関係なしに協力してくれそうな人、誰か知りませんか?」
困ったときの安宿先生。彼女は唯一、俺と関わりを持っていながら何処の事態にも巻き込まれない安全地帯の様な存在である。残念ながら中立とは言い難い。どちらかと言えば俺よりだ。滅茶苦茶有難いけれども。
票を引き合いに動くのは候補者だけではない。その候補者に投票した支持者もそうだ。彼等は彼等で自分の投票者を勝たせる為に選挙活動をする。蒔凛本人が特別選挙活動をしている様に見えないのもそれが原因だ。票がある程度入ってしまう財閥の代表者はぶっちゃけ最低限の選挙活動だけで良い。後は殆ど裏だ。
「うーん。この学校に所属する人は一票を至上の価値として動いてるからねえ。私は養護教諭だから関係ないけどね。それは嬉しい気もするし、寂しい気もするな。私は居て良い存在なのかどうか……私が学生の頃に居た先生も、こんな気持ちだったのかな」
「先生にも学生の頃ってあったんですね?」
「生まれた時からこんなおばさんだったら人生に絶望してるよ。ハハハ」
おばさんとは言うが、安宿先生は全然更けてないし、制服を着たら全然高校生に……いや、駄目だ。目付きの悪さが高校生じゃない。
「当り前だけど、私もここの生徒だった。当時、君みたいな物好きは居なくてね。保健室の先生は誰も来ないのを良い事に自分の趣味部屋に改造していたよ」
「自由過ぎる……」
「だって本当にする事がないんだ。先生は『昔の方が良かった』なんて懐古していたけれども……ああ、ごめん。協力してくれそうな人だったよね」
「何なら先生が協力してくれても良いんですよ?」
「私は君以上に身動きが取れない立場にある。出来る事はこうして話し相手になってあげる事と……色々お世話してあげる事くらいさ―――心当たりは一人だけ居るよ。最近は休学してるんだけどね」
「え、休学? 投票は……?」
「勿論してるが、今の彼は票に興味なんてないだろう。君には何が何でも票を入れたくない拘りがあるが、誰しもそれを持っている訳じゃないという事さ」
話を聞くに、その男は絶対に財閥からの根回しも干渉も受けないらしい。男はいつも遊戯室に居るらしい情報を受け、校内地図を頼りにその場所へ向かうのだった。
遊戯室なんて物が存在する事自体初耳だった。流石保健室に籠りきりだった男は登校している建物の構造にさえ疎い。そんな部屋があるなら俺も入り浸りたかった。 学校が終わるまで遊び放題じゃないか。
「こんにちはー……誰かいますか?」
安宿先生の情報を疑う訳ではないが、初めてくる部屋に対しては畏まってしまうというかなんというか。室内にはゲームセンターで見かけた様なアーケード筐体がずらりと並んでおり、そこには何かと情報に疎い俺でさえ見覚えのあるゲームまであった。
それだけにとどまらず、ここには無数のボードゲームが並んでいる。バックギャモンの様な歴史ある物からつい数日前に発売されたばかりの新作までよりどりみどり。その横に収納されているのはカードゲームだろうか。それはトランプの様なものもあれば俗にTCGと呼ばれる物もある。デッキもあるし、ご丁寧に絶版されたパックまでも収納されている。
ここには娯楽の全てがある。そう断言しても良いくらいだ。伊達に遊戯室を名乗ってはいない。
「……この部屋はいつだって誰かを歓迎する。ようこそ遊戯室へ!」
何処から持ち出してきたのか無数のクラッカーを自分で鳴らしながら飛び出してきた男が一人。キューを片手にビリヤードでもする気かと思いきや、行っていたのは背後にあるモグラ叩き……どうみても道具を間違っているが、一応機能しない事は無いらしい。
「……火薬臭ッ」
「うーん八つも出すべきではなかったかなあ。まあそれはそうと……ここへ来るのは初めて?」
「え、ああまあ」
「ならば説明しよう。ここは界立高校の遊戯室。何者にも侵されない聖なる領域であり、今は有魔家当主の有魔天平が仕切らせてもらっているッ。 一見さんとはいえここにきたという事は何をする場所なのか分かっているんだろう? では聞こうか!」
有魔天平は光沢のある髪を掻き上げ、力強く俺を指差した。
「君は何を賭ける?」
勝手に自己紹介を済ませてしまったが、この男こそ遊戯室を支配する存在。有魔財閥は『賭博』を生業とするグループであり、この国に存在する全ての賭博は彼らによって管理されている。
生業とするだけはあり、違法賭博が行われた日には材緣寺よりも素早く摘発してしまう……らしい。学生の身分でそうそうカジノなどに出入りはしないから仕方ない。
安宿先生曰く、彼は天運信奉主義者であり、支配者になりたい欲望は抱きつつも運がなければそれまでというなんとも不思議な生き方をしているとの事。
結果的に運が無かったので、財閥代表にしては珍しく候補者レースから脱落している。
「……えーと。実は賭博しにきた訳じゃないんだ」
「何っ? しかしここにきたんだ、冷やかしに来たとは言わせないぞ。何の用だ?」
「……貴方って、情報屋としての側面もあるんだってな。俺としてはそっちを利用したい」
用無しではないと示したのに、天平は八割程やる気をなくした様に見えた。そこまで芳しくない反応をされるとこれが冷やかしだったとしても同じなのではないか、と邪推する。当てにされて嫌な仕事なら最初から持ち出すなという話だが。
「…………そうか。それで、何が知りたい?。一応言っておくが、支配者に関連する出来事は無理だ。ここ三十年全く情報が手に入らん」
「大丈夫。それよりはきっと、何倍も楽な情報を求めてる」
協力。それは厳密な意味では違う。賭博を生業とし、天運を信奉する彼が利害や情で動く訳がないだろう。
情報と引き換えにされるものは、いつも決まっている。
「では取引といこう。希望するゲームは?」
「特にない」
「オーケー。ならドット&ボックスで勝負しよう。君がどれだけその情報を欲してるか、見極めさせてもらうよ」




