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マッド ファンタジア ・ カーゴ カルト  作者: 囹圄
第十章

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第三百八十四節 『参戦』

 ジャメサと相対するミツキは、この負けん気にばかりは感心させられる、と思う。

 出会って間もない頃、ブリュゴーリュへ進軍する途中で成り行きから決闘することになり、己に敗北した後、熱心に教えを乞うてきたのを思い出す。

 その後も戦を繰り返すたびに強くなったのは、やはりこの性向ゆえなのだろう。

 そしてだからこそ、〝近衛〟の相手を任せられるのだ。

 他のふたりにしても、単純に戦闘技能ばかりを評価しているわけではない。

 エウルの抜け目なさは敵の意表を突き勝機を手繰り寄せる可能性を感じさせるし、ティスマスは弱気の裏返しの慎重さと味方への気遣いがチームの生存率を高めるはずだ。


 ただし、こいつらには足りないものがあるともミツキは思う。

 それは、どうやっても敵わないと感じる程圧倒的格上との戦いで、死の瀬戸際まで追い詰められた経験だ。

 〝幻獣〟との戦いの中で、ミツキはそんな状況に幾度も直面してきた。

 ゆえに、絶望を前にして心折れずにいるのがどれだけ難しいかよく知っている。

 それでも、諦めずに勝利を求め、あらゆる手を尽くしてきたからこそ、こうして今も生きている。

 テトやフレデリカたち他国へ派遣した異世界人はもちろん、アルハーン救出のため闇地へ降下したレミリスやシェジアにしても、やはり絶望を越えて来た。

 その点、ジャメサ達三人は、戦の中で危機的状況を幾度も潜り抜けてはきたはずだが、それでも、闇地の影人間や汚染魔素を吸収したトリヴィア、魔王軍の〝摂政〟といった難敵と相対した経験はなかったはずだ。

 だからこそ今ミツキは、稽古といいながら、己の力を見せつけるように彼らを圧倒しているのだ。

 命を落とす危険はないとしても、己との戦いの中で幾度も自身の無力を実感すれば、この三人とてかつて経験したことのないほどに打ちひしがれるだろうとミツキは考える。

 それでも、己に立ち向かうことができたなら、これから格上の敵に追い詰められたとて諦めずに戦い続けられるだろう。


 そんな思惑から、ミツキは三度(みたび)彼らを打ち負かすため前へ出る。

 その瞬間、横合いから飛来する強烈な魔力の波を察知し、右腕で遮る。


「づっ!」


 衝撃で腕が跳ね上がり、体勢を崩しかけてたたらを踏む。

 王耀晶(ヴェリスティザイト)の破片が飛び散り、陽光を反射してミツキの周囲がきらきらと光る。

 腕を下ろして攻撃を受けた部分を確認すると、深い亀裂が走っていた。

 体内魔素を義体に流し込み、腕の破損を修復しながら、ミツキは攻撃してきた相手に視線を送る。


「おい……久々に会うってのに随分なご挨拶だな」


 その場の全員がミツキの視線を辿り、練兵場の入り口に注意を向ける。

 そこには、メイド服を着た長身の女、トモエが振り抜いた刀をゆっくりと納刀していた。

 失明した目には、ジョージェンスから帰ってきた頃と変わらず、包帯が巻かれている。

 先程の攻撃は、闇地最深域で習得した飛ぶ斬撃〝飛剣〟だろう。

 見えもしないのに、よくこうも正確に狙えたものだとミツキは感心する。


「ミツキ殿、無事幻獣の討伐を終えられたこと、祝着に存ずる」

「え? あ、ああ」


 相変わらず言い回しが古風だなとミツキは思う。


「怪我はもういいのか」

「今の斬撃を受けたのであればわかるのではないか?」

「快調ってわけね」


 彼女が絶対防衛線で魔獣狩りに参加しているということは、ハリストンから戻った際にヴォリスから聞いていた。


「それで? どうしていきなり攻撃してきたんだよ」

其処元(そこもと)らの教練に加えてもらいたい」

「え? なんで?」

愚拙(ぐせつ)もそこなる三人とともに讐怨鬼(リヴルロイゼス)とやらの相手をするよう命じられたからだ」

「なんだって?」


 予想外の答えに、ミツキは戸惑いの表情を浮かべる。


「レミリスがそう決めたのか?」

「然り」


 ミツキは考え込む。

 〝近衛〟の相手をする班の割り振りに、彼は直接かかわっていない。

 だいぶ以前に魔王の側近に誰をぶつけるかという話はしていたものの、幻獣討伐のため長く軍から離れていたので、この期に及んでは事実上軍を掌握しているレミリスにすべてを委ねることにしたのだ。

 今回、ジャメサ達を稽古を誘ったのは、元々気にかけていたからだ。

 しかし、そこにトモエを加えるというのは初耳だった。


「……そんなのいつ決定したんだよ」

「通達を受けたのはつい先ほどだ。サクヤから情報を得てから、人事をどうするかずっと考えていたようだ」

「それで、参加しろって命令されたから、承諾したってのか?」

「うむ」


 ミツキは溜息を吐き頭を抱える。


「おまえ……自分がどういう状態か忘れてんのか? 両目が見えないんだぞ? そんなハンディを負ったまま戦えるわけないだろ」

「戦えると証明するために、絶対防衛線で魔獣の迎撃に加わってきた」

「まさか……そのために、視覚を失ってからも戦場に出ていたってのか」

「左様。でなければ、(めし)いた剣士が失敗の許されぬ決戦に加わることなど、誰も承知せぬだろう」

「どうしてそこまで――」

「其処元がそう言ったのだろう」

「は? な、なんの、話だ?」

「王都奪還に際して、愚拙の力が必要ゆえ、死ぬことはまかりならんと」


 そういえば、バーンクライブで絶影獣(ヴァルフェーン)の核石を吸収した際、凄まじい破壊衝動に支配されるも、トモエの発言をきっかけにどうにか正気に戻った後、そんなようなことを伝えた気がするとミツキは思い至る。

 あるいはそれ以外にも、同じようなことを何度か彼女に伝えたかもしれない。

 ただそれは、戦場に出るたび己の命を顧みない彼女を生きながらえさせるための方便だった。

 ここに至るまで憶えていて、彼女が自ら死地へ向かう理由になるとは完全に想定外だ。


「よもや今更、連れていかぬなどとは言うまいな」

「それは――」


 言ったところで聞き入れないだろうとミツキは理解している。

 ジョージェンスから帰って以降も実績があり、先程ミツキに放ったような攻撃ができるのなら、周囲も彼女を外すことを承諾すまい。

 ただそれでも、ミツキは躊躇(ためら)わずにいられない。

 エコーロケーションでも習得しているのか、盲目になっても彼女は目が見えているように振る舞っている。

 だがそれでも、強敵との戦ううえでは()()()()()()があると知っているからだ。


「言っておくけど、〝近衛〟は〝摂政〟と同等以上の実力者と考えられている。今のあんたじゃ、剣技を極めていようが、太刀打ちできない可能性が高い」

「承知のうえだ」


 全部分かったうえでかと、ミツキは理解する。

 であればもはや、自分に言えることなどない。


「わかったよ、そこまで覚悟が決まってんならもう好きにしな。でも、どうしてこの三人と組ませられたんだ?」


 レミリスは、自らも〝近衛〟を相手取る班を率いることが決まっている。

 それならば、これまであまりかかわりのなかった三人よりも、一応部下として身柄を預かってきた彼女自身の班に組み入れた方が、連携がとりやすいのではないか。


「レミリスの担当する金泥(エルドルブロ)には、物理攻撃が効かぬのだろう? 剣士である愚拙とは相性が悪いと考えたようだ。同じく、大質量を誇る千遍万華(サウズフラブレム)も、剣でどうにかできる相手とは思えぬ。そして愚拙は、対人戦ならお手のものだ」

「讐怨鬼は唯一相性が良さそう、っていうか消去法か」

「それと、フレデリカも、シェジアと〝血獣(ラヴィ・ヅィーヴェ)〟が担当する、対千遍万華の班に入れられるようだ」

「そうなのか?」


 巨群塊(グラボラル)を削り切った彼女の〝ムーンディガー〟なら、大質量の相手に有効と考えたのだろうかと推測された。

 しかしそれでは、レミリス自身の班の戦力がかなり乏しくなるのではないか。

 大丈夫なのかと心配になる。


「あ、あのー、ダンナ?」

「え? あ」


 ティスマスに声をかけられ、三人を放置していたことにミツキは気付く。


「ああ、悪い。稽古の途中だったな」

「い、いえ、そりゃいいんですけど、結局彼女、うちらの班に入ってくれるんですか?」

「そうなるみたいだ」


 返答を訊いた瞬間、ティスマスはガッツポーズとる。


「うおぉ、こんなびじ、い、いや、実力者が加わってくれるんなら百人力だよ!」

「ティスは女の人が入るのが嬉しいだけでしょ」

「そ、それもあるけどね!」


 ミツキは、再戦の出鼻を(くじ)かれ、落ち着かない様子のジャメサに向きなおる。


「ジャメサ。彼女の〝飛剣〟は、おまえのさっきの魔法剣技と似ている。さっき、もっとコンパクトに技を出せって言ったけど、彼女の剣技を参考にしてみると良い」

「……承知」


 さて、そうと決まれば、作戦までにトモエを加えて四人が連携をとれるようにする必要があるなとミツキは判断する。

 レミリスと話した直後は、作戦決行まで思ったより暇そうだと思ったものだが、予想に反して慌ただしくなりそうだった。

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