スウィート ストーリー
タイトルのまんまです。
朝、目が覚めたら、すぐ傍にあったルークの寝顔に見とれてしまった。
なんで此処にいるのだろう?そう思いながら……。
金色の長い睫毛、すっと通った鼻梁。緩くウェーブのかかったブロンドの髪は、朝の光に輝きを放っている。あとは、結構曲者な薄い唇。
相変わらず綺麗なひとだなあ…。なんでこんなひとが私のことなんか好きになってくれたんだろう…。
見とれていると、その金色の長い睫毛が揺れた。
ああ――、綺麗なエメラルドグリーンの瞳が開いていく。吸い込まれそうだ。
「…ミツキ…?」
綺麗な王子様の声に私は微笑んだ。ルークも微笑み返してくれる。そうしてやっぱりその曲者な唇が近づいてくる。
私は静かに目を伏せ、顎を上げた。
「おや、起きたのかい?」
明るい元気な声に、飛び上がらんばかりに驚いた。
慌てて起き上がる。
「お、おはようございます!」
「おはようございます。随分元気になったみたいだね。良かったけど……」
「?」
「殿下が敷けてるよ」
「え?」
女将さんの目線に自分の手元に目を向ける。
「!!!」
慌てた私は掛け布団と一緒にルークをベッドに押し込めていた。
「だ、から、手を離せ。ミツキ…」
声にならない悲鳴とともに両手を挙げた。
起き上がったルークは柳眉を上げている。またやってしまった。
「何度目だろうな?」
「えーっと…」
「馬鹿、数えなくて良い」
「ごめんなさい…」
「まあまあ、元気があって良いじゃないの。朝食は?ふたり分ここに運ぶようにしましょうか?」
「ああ、頼む」
「承知しました」
女将はにっこり笑って部屋を出ていった。
「怒ってる?」
おずおずと尋ねる美月はまた違った可愛さがあると、ルーカスは心の中で悶絶していた。
「怒ってはいないが――、いや、やっぱり怒っている。どうもミツキは王太子の顔をぞんざいに扱いたいらしいからな」
「そんな事はっ!」
「ないのか?」
「ない、です」
「ふうん。じゃあ、証拠を見せてみろ」
「へ?」
にやりとルーカスが笑う。
「証拠って…」
「簡単だ。大事に扱っているというなら、優しくくちづけを」
「―――へ?」
優しくくちづけ…それってつまり―――。
美月の顔が真っ赤に染まる。
「えええーっ!」
そのまま固まった。
「何時もしてるだろう?ほら…」
ルーカスが少しだけ顔を上げた。
「………」
「何だ、やっぱり無理か」
「いや、その…」
美月は赤い顔をして口をパクパクさせている。
これ以上は笑いを堪えられそうにない。流石にこの辺で止めておこうかと、ルーカスが口を開きかけた時だった。
「やる」
「は?」
「やるよ」
「えっ?」
全身に緊張感を漲らせた美月が、ルーカスに震える手を伸ばしてくる。
その両手は、そっとルーカスの頬に添えられた。
想定外の展開にルーカスも戸惑ったが、そこは嬉しい誤算だった。
赤い顔をして近寄ってくる美月の顔はいつもより艶めいて見える。こんな美味しいシチュエーションならもっと早くに試しておけばよかったと、美月の顔を眺めていると、目を閉じてと怒られた。
そうして目を閉じると遠慮がちに美月の柔らかい唇が触れてきた。離れたかと思うとすぐに啄んでくる。優しく触れる口づけにルーカスの想いも高ぶっていく。
堪えきれずに美月に手を伸ばそうとした瞬間、けたたましい音とともに客室のドアが乱暴に開いた。
「ミツキ!大丈夫ですかっ!――――っと」
入ってきたのはレナードだった。
そのレナードの目に映ったのは、ベッドに座る王太子に口づけているミツキの姿だった。
赤かった美月の顔はさらに赤くなり、一瞬の静寂の後、悲鳴が轟いた。
それから、布団に籠って出てきてくれない。
顔がにやけている悪戯なルーカスを一瞥し、動かない布団の山に目を向ける。
「…すみません、ミツキ。ルークが部屋に居なかったので探していたら、女将に『ミツキが襲われるかもしれないから早くいけ』と言われまして…。ノックもせずに無作法なことをしました」
レナードが眉尻を下げ弁明した。
「……いえ…」
しばらくして、今にも消え入りそうな声で返事があった。
「あ――――、ミツキ、悪かった。その、俺がちょっと調子に乗りすぎたのだ。本当は途中で止めるつもりだったんだがな。余りミツキが可愛かったものでつい………」
「馬鹿!…馬鹿、馬鹿、馬鹿!ルークの馬鹿!もうヤダ!恥ずかしすぎて死にそう!」
「それは困る。せっかくこうして会えたのに。俺が悪かったから機嫌を直して出てきてくれないか?もうすぐ朝食も運ばれてくるだろうから…」
美月の布団の塊がピクリと動いた。
「わかった」
ルーカスは美月の食欲に救われた。
美月が意を決して布団から出ると、ルーカスが優しく手を引いてベッドから下ろしてくれた。気をきかせたのか、レナードの姿は無かった。
ルーカスがそっと引き寄せ抱きしめてくれる。
「悪かった」
ルーカスの肩がわずかに震えている。
「………ルーク、笑ってるでしょ…」
「怒るな、ミツキ」
ルーカスが額に口づけた。
「怒ってない、恥ずかしいだけ!」
「そうか、それは良かった」
何が良いんだか、まったく…。そう思ってみても、なんだか異常に機嫌の良い王太子を前に、文句を言う気にはならなかった。




