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思惑 4

「いい加減にしてください、殿下」

 気持ち悪いんですけど。という言葉を必死で飲み込んだ。


「ミツキ、僕は本気で君を迎えたいんだ。もう2年も前からずっと、君を迎える日のことを考えて来たんだよ。少しぐらいハメを外してもいいじゃないか」

「2年も前から?何故?」

 美月は眉根を寄せる。やっぱりストーカーか?


「ミツキの事が好きだから」


 違う!やっぱり馬鹿だ!


「そうじゃなくて!なぜ私を知っているの?どういう事?」

「んー、今は言えないなあ…。君が僕のもとに来てくれたら言えるんだけどなあ」

 にやりと笑うサミュエルに、細めた目を向ける。


 この王子は相変わらずだ。


「じゃあいいです、言わなくて」

 ミツキは嘆息する。

「おいおい、そこは“行きます!教えてください”だろう?」

「行きません」


 やっと円舞曲が終わった。

 礼をしてルーカスの方を振り返る。相変わらず令嬢方に囲まれている。


「ミツキ様、お顔の色が優れませんわ。あちらで少し休みましょう」

 声をかけてきたのはアイラだった。

「アイラ、ありがとう。そうするわ」

 美月は愛想笑いを解き、表情を和ませた。


「では、失礼いたします。サミュエル王子」

「ああ、待って、ミツキ。僕も行く…」

 その場を辞する美月を追うべく、足を踏み出すサミュエルの前に人影が割り入る。


「おお!これはこれは!サミュエル王子殿下ではございませんか!」

「レスター辺境伯…」

「殿下におかれましては、ますますご清祥のこと。先日はお目通りが叶いまして、恐悦至極にございました。ご紹介させていただいてよろしいでしょうか。こちらが、エアージョン帝国フランドル伯に輿入れさせていただきます、次女のルーシーにございます」

「あ、ああ…」

 上機嫌なレスター辺境伯の勢いに任せ挨拶をしている間に、美月の姿は見えなくなっていた。



 ホールから外れて、談話スペースまで移動してきた美月とアイラは、ソファーに座り顔を見合わせた。

「ありがとうアイラ、本当に助かったわ」

「ミツキ様のお役に立てて嬉しいですわ」

 にっこり笑ったアイラは少し声を潜めた。


「実は、先ほどのレスター辺境伯とサミュエル王子の絡みも、父に協力していただきましたの」

「アイラ…」

 美月はアイラの手を握り締めた。

「流石だわー、アイラ。本当にありがとう」

「勿体無いお言葉ですわ、ミツキ様。それにしましても、本日のドレスも本当に良くお似合いでございますわ」

「何言ってんの!アイラこそ素敵!やっぱり華があるわ!」

「まあ、そんな…」

 レースとフリルをふんだんに配ったピンクのドレスに身を包んだアイラは、いつもの灰白色のお仕着せとは違い、とても可憐だ。

 恥じらうアイラを見て、美月は思った。

 きっとこれが、世のご令嬢のあるまじき姿だと。


「ミツキ殿、ここにいたのか」

「え?…団長?」

「そうだが、なんだ?」

「わは、それ騎士団の正装なの?格好良すぎて誰かわかんなかったよ」

「え…、そ、そうか」

 顔を真っ赤にして照れるオリヴァーは、いつもは洗い晒しの短髪を、今日はきっちりと整えていた。明るい赤毛が、騎士団長の正装である深い緑に映える。

「うん。格好良い!ちゃんと団長に見えるよ!」

「…ミツキ殿、褒めているようで貶されている気がするんだが、気のせいか?」

 赤くなった顔を複雑に歪めるオリヴァーの顔を見て、美月は吹き出しそうになった。


「やだなあ、気のせいだよ。普段の団長もちゃんと格好いいって思ってるから」

「そ、そうか」

 団長は、再び嬉しそうに笑った。


「うん。私は団長の真摯な対応を尊敬してる。私のトレーニングにもきっちり付き合ってくれる所も、新しいことにもどんどんチャレンジしていく所も本当に感謝している。ありがとう団長」

「ミツキ殿…」

 微笑む美月はどこか寂しそうで、まるで別れの言葉のようだった。


「それで?私を探していた?」

 いつもの美月の声のトーンに戻る。


「ああ、そうだ、忘れるところだった。明日のトレーニングだが、夜会の後なので開始時間がずれるんだ。昼の刻からになるが構わないか?」


 刹那、美月の表情が輝く。


「全然!いつでも良いよ!ありがとう!もう二日も休んでいるから走りたいし、ボールを触りたい。本当は今すぐにでも走って行きたい!」

「お、おい、勘弁してくれ」

「大丈夫だよ、流石にそれはしない。だけど…」

 そこで美月は口篭もり、ドレスを眺めて盛大なため息を漏らした。


 アイラとオリヴァーは目を見合わせた。

 夜会が始まってからの美月は、ルーカスの腕の中、幸せそうな笑みを浮かべていた。しかし、先程から覗かせる表情は憂いを帯びている。


「ま、今考えても仕方ないか。あー、ふたりの顔見て安心したらお腹空いたよ。今日は軽食しか食べてないからねー」

「まあ、それは大変ですわ。こちらに何か持ってこさせましょうか」

「ここに?良いの?」


「いいぞ。もう持ってきたがな」


「ルーク!」

 突然の声に振り返ると、いつから居たのかルーカスが立っていた。


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