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次期魔王に雇われたが何かがおかしい  作者: 宮路広子
空の英雄と魔王女一行 ~ワイバーンは何が欲しい騒動~
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85 男をみせたが何かがおかしい

 子供の頃。


―うわーんっうわーんっ―

―やーい、弱虫なんだぞーっ―

―弱虫コリンーっ―

―外から来たハーフリットは、臆病なんだぞーっ―

―ワイバーンが怖いなんて、情けないんだぞーっ―

―弱虫ーっ―

―よっわむしーっ―

―うわーんっうわーんっ―


 人族(ヒュー)によって壊滅した人領域のハーフリット集落から焼け出され、魔領域のハーフリット庄に保護されたコリンは、周囲の子供達からバカにされていた。

 それはコリンが、ハーフリット庄中で飼育され暮らしているワイバーンを今まで見た事がなく、酷く怖がったからだった。


―こらーっ! コリンをいじめないでーっ!―

―エスター様だっ―

―やばいんだぞっ! 逃げるんだぞっ!―

―へーんだ! お嬢様にかばわれてやんのーっ!―

―かっこわるいんだぞー弱虫コリンーっ―

―っ!! う……うわーんっ!!―

―弱虫コリンーっ、お前なんか戦士になれないんだぞーっ―

― 一族と国を守るワイバーン飛行士には、勇敢じゃなきゃなれないんだぞーっ―

―な、泣かないでコリンっ!! あんなの気にしなくていいのよっ!!―


 コリンが『英雄』の家に引き取られた妬みも、多少はあったのだろう。

 周囲の子供達は、コリンがエスターに庇われている姿を見る度、益々コリンをからかい囃し立てた。


―ねぇコリン。今のあなたが、ワイバーンを怖くても仕方ないわ―

―ひっく……ひっく……―

―だってコリンは、ワイバーンが傍にいない集落で育ったんですもの。慣れてなくて当然なのよ。それが判らないあの子達が悪いのよ。少しずつ慣れればいいの―

―み……みんなおれのこと……戦士には……なれないって……―

―なる必要なんか、ないじゃないっ―

―えっ?―

―……父さんみたいに、危ない事しなくたっていいじゃない―

―……お嬢様?―

―……そうね、コリンは草花の手入れが得意だから、庭師になるといいわ。平和な庄の中で、きれいなお花や美味しい果実に囲まれて、幸せに暮らすの。素敵じゃない、ね?―

―……―


 エスターはいつも、戦士などにならなくてもいいと慰めた。

 だがコリンは、エスターがそう言う度、自分をいじめる子供達が尊敬するような、強く勇敢な戦士になりたいと思っていた。

 強く勇敢になって、自分を守ってくれるエスターを――生まれながらに英雄となる責務を背負ったエスターを、今度は自分が守りたいと思っていたからだ。


―グルグル?―

―こ……こわくない……こわくないん……だぞ……―


 そしてそんなコリンが恐怖を克服するため、一番最初に接触を図ったのが、養い親であるバジルの相棒、オレンジ七号だった。


―な……なでなで……なで……ひゃああっ?!!―

―グルグル♪ グキャ♪―

―ひっ……お、おこって……ないんだぞ?―

―キャ♪ グ♪―


 歴戦の強者であるオレンジ七号は、がっちり大柄で傷だらけの、ワイバーンの中でも特に恐ろしい外見をしていたが、とても穏やかで優しい気質の持ち主だった。


―な? オレンジ七号は優しいんだぞコリン?―

―う、うん……―

―ワイバーンは敵以外に悪意を向けない、とっても紳士淑女な生き物なんだぞっ。特にこいつは、とっても優しくて忍耐強くて、お母さん並みに包容力があるんだぞっ―

―うん……な、なでなで……―

―キュルル♪―

―うわああっ!!―

―あはは、先は長いんだぞ~っ―

―グルルルッ♪―


 その事をバジルに力説されて知っていたコリンは、震えながらも必死でオレンジ七号へと近づき、コンタクトを計った。

 そしてオレンジ七号も、ハーフリット少年の奮闘を微笑ましく思ったのか、コリンが近づいてくる度にじっとして、コリンに鼻面を撫でさせてやった。


―……う、うわ……触れた―

―グルグル。グル♪―

―……触れたっ。……え、えへへっ―


 オレンジ七号に触れられるようになった時、コリンは自分が夢に向かって進めるのだという自信を得た。


―よーし、じゃあ今度はコリンを乗せて、空へ飛ぶんだぞオレンジ七号!!―

―グゥッ―

―えぇ?!―

―と、父さんやりすぎよっ!! コリンにはまだ早いわっ―

―オレンジ七号なら、大丈夫なんだぞエスター!! さぁ、行くぞエスター、コリンーっ―

―もぉおっ―

―うぁあああっ―


 オレンジ七号の広い背中で大空を飛んだとき、初めてその感動を知った。


―コリンは、ワイバーン飛行士になりたいのか?―

―……はい。なりたいんだぞ。……おれは強くて勇敢な、戦士になりたい―

―そうか―

―……―

―……コリン、戦場はとても怖くて、とても悲しい場所場所なんだぞ?―

―それでも―――

―お前が今夢みてる希望は全て裏切られ……代わりに見たくなかった悪夢と絶望が、一生お前にまとわりつくかもしれない。……それでもいいんだぞ?―

―――っ―


 その背中で、英雄の苦悩を知った。


―そ……それでも……おれ……おれはなりたいんだぞっ―

―……そうか。……だったらコリン、こいつらを信じろ―

―……こいつ……ワイバーン?―

―そうだ。飛行士になったお前が命を預ける、こいつらを信じろ―

―……―

―こいつらと、心を繋ぐんだぞコリン。……最後の一瞬まで後悔せず、共に戦うために―

―ギュルルル……―


 ハーフリットとワイバーンの、絆を知った。

 

―オレンジ七号!! 必ず、必ずバジル様と一緒に帰ってくるんだぞ!!―

―ギュゥウ……―

―待ってるんだぞ……ずっと待ってるんだぞっ!!―


 エスター同様、コリンにとっても、オレンジ七号は特別な存在だった。

 戦場で行方不明になっていたオレンジ七号が生きていると知った時、コリンは喜びに震えた。錯乱していると聞かされた時も、助けてみせると誓った。エスターのために、そして自分のために。


 とてもとても、心から大切な存在だったのだ。

 ――それでも。



「ルビビ!! 両翼速強化発動!! 同時に機関魔砲発射!!」

「了解ヨ!!」


 今コリンは、そのオレンジ七号を、全力で討ち取りに行く。

ここで終りにするために。

 エスターに、その役目を負わせないように。


「左爪裂攻撃!!」

【グァオオオオオオオオオオ!!】


 誰か(エスター)がやらなくてはならないなら、自分がやる。

 英雄ではなく自分自身の誓いを胸に、コリンは凄まじい殺気と共に襲いかかって来る、オレンジ七号を迎え撃った。

 

『……ごめんな。せっかくついて来てもらったけど……お前の助けは……無理みたいなんだぞ……ザイツ』


 後部座席でワイバーンにしがみつくザイツを一瞥したコリンは、未練を振り切るように操縦桿を握り締めると、突進命令を騎竜アップル三号に出した。


【グォ――ガァ?!】

「斜め回避!! 牙裂攻撃!!」


 そしてオレンジ七号のブレス射程圏内に入る寸前急旋回しフェイントをかけると、スピードを落とさないまま別方向から突進し、オレンジ七号の胴体を牙攻撃で掠める。


【ゴォオオオオオオ!!】


 痛みにオレンジ七号が反撃しようとするも、掠める程度の攻撃しかしていないコリンのアップル三号は速度を全く落とさずそこから離脱し。


「喰らウヨ!! ――【光粒散弾(ラーシュショット)】!!」

【ゴォウ!!】


 更に遠距離から、後部魔撃手ルビビが素早く広範囲の攻撃魔法を浴びせかける。


『少しずつ少しずつ――削り取る!!』


 奇襲部隊、そしてルビビの支援を受けて、敵味方の魔法と攻撃を猛スピードでかいくぐり、コリンは目標を次々切り裂いていく。

 曇天の夜という悪条件下でのヒットアンドウェイ攻撃は、コリンの最も得意とする所だ。

 視界が悪いと普通のワイバーン飛行士は多少でも怯んでしまうが、夜目が非常に効くコリンとアップル三号には、その影響が殆ど無い。

 オレンジ七号に反撃させない素早さで、無慈悲な連撃はオレンジ七号の命を刈り取っていく。


『諦めろ!! 逃がさないぞ!!』

【ゴォオオ!!】


 とうとう組み付こうとしたワイバーンをはね除け、大きく羽ばたいたオレンジ七号が、更に上空へと飛び出した。


「あっくそぉ!!」

「速いんだぞ!!」


 負傷して血塗れになってなお、高度を上げる上昇能力は、この場のワイバーンの中で、オレンジ七号が突出していた。

 オレンジ七号は一度ワイバーン達の攻撃射程から外れ体勢を整えるため、上へ上へと、速度を増して飛び上がる。

 ――だが。

 

「ルビビ!! 全装甲切り離し(パージ)!! 更に両翼強化!! 推進魔力砲発動!!」

「っ――了解ヨ! コリン!!」


 その瞬間、オレンジ七号の背後には、それ以上の速度でコリンを乗せたアップル三号が迫った。


【――っ?!!】

「逃がすか!!」


 全ての装甲を捨て、支援魔法使いルビビの全魔力をワイバーン機動力強化につぎ込む事で、アップル三号はワイバーンの限界を超える速さを、僅かな間得ていた。


「こ――コリン無茶だー!!」

「救命装甲まで!! 落ちたら死んじゃうよー!!」


 それはまともな飛行士なら絶対にやらない、捨て身のブーストだった。

 騎竜を潰しかねない、そして自分の命も失いかねないその戦法を、だがコリンは迷わず選択した。


【グ――グギャグ――!!】

「切り裂けぇえええええええええええ!!!」


 敵から逃れる事でオレンジ七号に生じる、僅かな気の緩みを突くため。コリンは勝機が生まれるその瞬間に、全力を投じた。


 追撃に気付いたオレンジ七号が、身を翻しコリンへと襲いかかる。

 裂帛の戦意を込め、コリンはアップル三号に突撃を命じる。

 何も遮るものがない雲の上で、オレンジ七号とコリンの殺気がぶつかり合い、そして弾け飛ぶ。


 そして。


【……ゴホ】

「……っ」


 至近距離で動きを止めたオレンジ七号を、コリンは凝視した。

 血塗れのオレンジ七号を――自分が命じ、アップル三号の牙が切り裂いたオレンジ七号の喉笛を、コリンはじっと、見つめていた。


「……あ」

【……】


 オレンジ七号の目から、光が失われる。

 その大きな身体が、大きく傾ぐ。

 全力を使い果たしたコリンのアップル三号に、それを支える力は無い。


「……ごめん……ごめんよ……オレンジ七号……ごめんよぉ……!!」


 決して助からない雲の上から、オレンジ七号は落下していく。

 為す術無くそれを見つめ、コリンは泣く。

 殺してしまった。

 それを認めた瞬間襲いかかって来る後悔の衝動を、コリンはどうする事もできない。


「……たすけて……」


 そして、出来るはずもない願いを口にする。

 

「……オレンジ七号を……助けて……くれ……」


 叶う期待などできない、悪夢の中にいるような、絶望的な本音を。


「――ぉおお――」

「――え――」 


 ――ザイツに向けて。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「え――えぇえええええええええええええええええええええええええええ?!!」


 一瞬自分の前を通り過ぎた影を追ったコリンは、あまりにも予想外の光景に驚愕にただ叫んでいた。


 ザイツだった。


 灰銀のマントを翻したザイツが、アップル三号を思い切り蹴飛ばして勢いを付け、落下していくオレンジ七号へと飛びついていた。

 ザイツはオレンジ七号にしがみつきながら、既に意識のないオレンジ七号と共に、高速で落下していく。


「うそぉおおおおおおおおおおお?!!」

「はぃいいいいいいいいいいいい?!!」

「まてぇえええええええええええ?!!」

「ひゃああああああああああああ?!!」


 目にした者達皆が、気が狂ったとしか思えないその凶行に絶叫した。

 ただの人族に、何ができるんだと絶望した。

 オレンジ七号と命運を共にしてしまう憐れな人族に、多少同情もした。


「――ぐっ――っ!! 呪符――じゃないなこの場合――」


 そんなありとあらゆる視線を受けながら。ザイツは待っていたこの瞬間のため、気を失いそうになる恐怖に耐え、全力で身体を動かしていた。


「――ワイバーンは――知能は低いが――人族より遥かに――魔力は高い――って――こと――は――っ」


強烈な風圧に襲われながら、オレンジ七号の首にしがみつく事に成功したザイツは、自分が身につけているエルフの織り布マントを必死で引き剥がす。


「こいつに――マント――つけ――れば――」


 そしてエルフの織り布マント――『装備者の魔力を使い、その身を軽くし、浮く事すらできるその装備品』を、オレンジ七号へと巻き付ける。


「――浮け――こいつの魔力で浮けエルフマントぉおおおおおおおおおおおおお!!!」


 ブワ!!! と、輝くマントが地面に叩き付けるような浮力を発した。


『――よし!!』


 ザイツの狙い通り、エルフの織り布マントは、重症で気を失ってるオレンジ七号の魔力にも反応して力を発揮し、その落下速度を急激に緩やかにした。


『――いや――ダメだ足りない!!』


 だがそれだけでは足りない事を、ザイツは肌で感じる。

 確かに落下速度は緩やかになっている。だがその効力は、安全にオレンジ七号を降ろすには足りない。しかも。


『――岩だと?!』


 見えて来た落下予定地は、なんと水面ではなく孤島の大きな岩場だった。


『このまま激突すれば――』


 ――死ぬ。


『――死ぬか!!』


 追い詰められたザイツの思考は。


『死んで――死なせてたまるか!!』


 猛回転し、答えを導き出す。


「――跳ねろぉおおおヘンキぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」


 ザイツは妖精魔法【ヘンキー達の狂騒(ヘンキー・ダンス)】を放った。

 ヘンキー――地面を跳ね回る妖精達は。


【【【ヒャッハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!】】】


 固い岩場を『トランポリンのようにグニャグニャにしながら』、ザイツの勝利を祝うように跳ね飛び踊った。


「がはっ!!」

【ゴッ】



 そのグニャグニャになった岩場に、深く深く受け止められたザイツとオレンジ七号は、無事上空落下から生還した。


「はっは……はは……生きてる……」

【……グ……ゥ】

「お……お前も……死んでねぇな……は……はは……ははははは……」


 時間にすればわずか数秒の、だがとてつもなく濃密なザイツの仕事は終わった。

 ポヨンポヨンと、やや茫然自失君になりながらしばらくザイツは地面で揺れていたが、やがて上から飛んでくるコリンを見つけて、ここだと力なく手を振る。


「――ザイツ!! ザイツお前――お前なんて無茶――むちゃくちゃなんだぞ!!」

「判ってんよ……くそ……二度とやるか……あ、コリン今地面には降りない方が……」

「っオレンジ七号!! オレンジ七号ぉー!!! うわっ!!! ポヨンポヨンするんだぞ!!! なにこれぇええ?!!」

「……ちょ、だ、誰か上から助けてくれ……揺れ過ぎて……立てねぇええ……」

【キャッハー!!】

【ヒャッハー!!】

【イヤッフー!!】

【フナッシー!!】



 こうしてワイバーン・オレンジ七号捕獲作戦は、跳ね回り揺れる岩場の上で、無事終了したのだった――。

コリン「こっ、これっ、いつっ、止まるんっ、だぞっ?!」

ザイツ「知らっ、ねぇっ」

コリン「?!!!Σ( ̄ロ ̄|||) 」


ぽよんぽよんぽよんぽよん……

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