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次期魔王に雇われたが何かがおかしい  作者: 宮路広子
人狼騎士と魔王女一行 ~村人はどこに消えた騒動~
46/201

45 ―過去― とある男女①

―……セージさん、お名前の、『ヅィー』って不思議な響きですね―

―ん? zの事かなお姫様?―

―はい。セージ・z・アンダーソン。洗礼名や家名のために、名前が長い事はよくありますけれど、ヅィー……というのは短くて、あまり聞いた事のない響きだと思いまして―

―ああ、zは略称なんだよ。俺の母方の姓なんだけど、欧米人には言いにくいみたいでさ。言いやすいよう略しているうちに、zで定着したんだ―

―おーべーじん?―

―あー……やっぱりお姫様にも、判らないんだよな―

―……?―

―いや、いいんだ。……お姫様、俺の母方の本当の姓を聞く?―

―ええ、是非教えて下さいっ―


―……――……。言いにくい、ですね―

―うわー、やっぱりここでもそうなのかぁ? ……日本人の姓って独特なのかな……―

―……ザ――……? ……――ツ……の方が言いやすい、でしょうか―

―あはは、それじゃ名前みたいだよ―

―名前……ふふ、本当にそうですね。ごめんなさい、セージさんを呼び捨てにしてしまいました―

―なーに、美人にステディな呼び方をされるなら、嬉しいよ―

―……び……びじん?―

―なにしろ、今まで親しく呼び捨てにされたのって家族か友達か、ベースボールのチームメイトくらいしかいなかったもんなぁ―

―……びじん……―

―くっ、野郎ばっかの交友関係が憎いっ。ハイスクールの卒業パーティー(プロム)行くのに、パートナー(女の子)捜すのがどれだけ大変だったかっ。……あーでもっ、友達の妹紹介してもらったから、野郎の交友関係に感謝するしかないんだけどなっ―

―……?―


―……結局紹介してもらっただけで、あの子をきちんと誘えなかったんだよな。……俺がこっちに来ちまったから。……今から誘いに行くって連絡して、家を出たのに。……あの子には悪い事をした……あいつの兄貴にも心配させたろう…………それに父さん……母さん……姉さん…………―

―……セージさん―

―……ごめん―

―……―

―……色々な事がありすぎて、整理できてないんだ。……時々……時々こうやって、故郷の事を口にしたくなる。……そうしないと……俺があっちでどうやって暮らしていたのか……忘れちまいそうで……―

―……―

―……ここは……この世界は……違い過ぎるんだ。……俺の国では、剣も魔法もフィクションの世界にしかなかった。……確かに昔はあったけれど、現代に奴隷制度なんかなかった。……いきなり町が、馬に乗った盗賊や兵士の集団に襲われるなんて事もなかった―

―……とても、平和な場所だったのですね?―

―いいや全然。強盗殺人は日常茶飯事でニュースを賑わしていたし、母国も外国に出兵して戦争してたし……ははは、交通事故の年間死亡者なんて、この前の戦争で死んだ人達よりも多いかもしれないな―

―……―

―……それでも……さ。……俺はあっちの世界に慣れ親しんだ、あっちの住人だったんだ。……そりゃ嫌な事もいっぱいあったけれど……あそこは俺の場所だったんだ。……忘れたくないし……帰りたいよ……―


―……お姫様……君も俺を、狂っていると思うかい? ……ありもしない世界を夢想している、狂者だと……―

―……それは……わかりません―

―……―

―……セージさんの言うセージさんの世界は……わたくし達がいるこのグランツァー大陸とは全然違います。……わたくしも含めここに在る者達には……セージさんの言う事を信じる事は……とても難しいと思います―

―……そう……だよな―


―……でも……わたくしは……セージさんを信じます―

―……―

―……セージさんの言っている事は判らなくても……セージさんは信用できる方ですから……だから……一生懸命信じます―


―……はは、一生懸命信じるって、それやっぱり疑ってるだろ?―

―う……すみません。……だ……だって鉄の固まりが空を飛ぶなんて……想像もできないんですもの……動く絵姿は見て見たいですけど……―

―……でも、信じてくれる?―

―しっ、信じますっ―

― 一生懸命?―

― 一生懸命、ですっ―

―……ははは、そっか―

―……や、やっぱり……疑ってるように聞こえますか?―

―いいや……ありがとうお姫様。……すげー嬉しい―

―……セージさん―


―……ところで、お姫様が俺を信じてくれるのって……やっぱり出会いのせい?―

―あ、それもありますねっ。あの時は私と皆を盗賊達から助けていただいて、ありがとうございましたっ―

―……あれか。……でもあれは俺じゃなくて、俺が一緒にいた傭兵団の仕事だったから……そこまで感謝されるときまり悪いって言うか……―

―でも、あの傭兵団長さんがおっしゃってましたよ? 『セージ坊主が必死に助ける理由を並べたてなきゃ、放ってた』って―

―……あのジジィ、余計な事を―

―『つまり俺はあいつの依頼を果たしたわけだから、あいつへの報奨金は俺に全額よこせ♪』とも言ってましたけど―

―……ジジィ、いつか殺す―

―ちょっと強欲ですけど、良い方ですよね傭兵団長さん―

―ちょっとじゃねーから! ……まぁ、拾ってくれたのは感謝してるけど。――あ、仕事はちゃんとしているからギブアンドテイクは成り立ってるか。むしろあっちが得しているはずだ。うん―


―……そろそろいくな―

―傭兵団のお仕事……ですか―

―ああ。あれが縁で団ごと雇ってもらったから、お偉い聖騎士団の露払いとして、がんばらないとな~―

―……絶対、死なないで下さいね―

―死ぬもんか。帰る方法を見つけるまで、絶対に死なない―

―……はい。……セージさんは大剣と……その不思議な筒を使った魔法で戦うんですよね?―

―筒じゃなくて、これはライフルって言うんだ―

―らいふる……―

―形はWinchester(ウィンチェスター)Rifle(ライフル)だな―

―……聞いた事がありません。……まさかそれは、セージさんの世界の武器なのですか?―

―いや、これはこっちの世界で俺が作ったんだ。俺の世界ではもう、これは骨董品の構造だよ―

―骨董? わざわざ古い形にしたのですか?―

―構造の詳細を知っているのが、これしかなかったんだ。……俺の祖父さんの趣味が、母国の開拓時代――昔の拳銃(ぶき)集めでね。『ライフルの扱いも知らずに、西部開拓民の子孫アンダーソン家の男を名乗るな!』って、子供の頃から分解、組み立て、弾込め、射撃、後始末の手入れまで、一通り叩き込まれた。……考えてみれば、思いっきり違法だぜあの祖父さん……―

―……?―

―いや、こっちの話。……なんにせよ、これが当たれば騎士の重装備だってぶち抜ける。簡単にやられたりしないから心配無用だお姫様―

―……当たればという事は……外れたら?―

―……………………―

―………………えっ―

―そ、それじゃ、行って来ますっ。大丈夫っ。多分っ―

―あっ、待って! お祈りさせて下さいセージさんっ。貴方に祝福をっ―


―……はい、これで良いです。……傭兵セージ、我が主ゼーレの御加護を―

―感謝致します。お姫様……ゼルモア神聖家、エリザベート姫―


―……―

―……どうかしたのか?―

―……すみません―

―なんで謝るんだ? あ、まさか今、祝福の聖句間違ったとか?―

―ちっ、違いますよ。……違いますけど……すみません―

―……だからどうして謝るんだよ、お姫様?―

―……きっと―

―……?―

―きっと……わたくしのような……出来損ないの祝福なんて……役にたたないから……―

―……できそこない?―

―……―

―……いいんじゃないか別に? 俺はあのおっかなそうな婆ちゃん聖女からの祝福をもらうより、お姫様からの方が嬉しかったしな―

―っ……し、失礼な事を言ってはいけませんっ。聖女リュシエンヌ様は、とても慈悲深い素晴らしい方なのですからっ―

―はいはい。それじゃなー ―

―……もう。……どうかお気をつけて―




― ――おせぇ坊主―

―遅くねぇ団長。時間通りだ―

―上より早く集合するのは下の義務だろうが―

―仕事の出来には関係ねぇし―

―可愛げのねぇガキ―

―俺が可愛かったら気色悪い。……かわいいってのは、お姫様みたいな女の子の事をいうんだ―

―……また大神殿に入り込んだのか―

―隠し通路もあちこち発見した。クーデター起こす時には役立てるぜ―

―起こすのかよ―

―起こさねーよ。ブラックジョークくらい解そうぜ―

―冗談か本気か、判りにくいんだよおめーは―


―……なぁ団長―

―ん?―

―……できそこないって、なんだ?―

―……エリザベート姫の事か?―

―っ……なんで……―

―今の神聖家直系、しかも聖女候補にもなれる強い魔力を持つ女で、できそこないは彼女一人だけだからな―

―……だから、なにをもって『できそこない』なんだよ? ……あの子は良い娘だ。可愛くて優しくて、頭だってどこかおかしいわけじゃないだろう―

―……そんなのは、関係ないんだよ―

―……?―


―……彼女は、あのエリザベート姫は、妖精魔法しか使えないんだ―


―……それがどうしたんだよ?―

―……どうかすると思うか?―

―思わねぇよ! だってこの世界じゃ、魔法を使える人間自体がとても稀少で、魔法の属性を選ぶ事だってできないんだろう?!―

―そう教えたな―

―ああ―

―……ところがな、ゼーレ教団を率いる頂点、ゼルモア神聖教国の『王家』、神聖家の直系だけは例外なんだ―

―……例外?―

―……かつてゼーレと直接交信し、祝福を受けたとされる神聖家の直系は、ほぼ全て強い魔力を持って生まれ――そして聖属性魔法の使い手となる―

―……聖属性……だけ?―

―ああ。この()()な家系は神の奇跡とされ、現代の神聖家が教団トップに立ち続ける根拠となっている。そしてそんな神聖家の未婚女性から選ばれる『聖女』も、当然強い聖属性魔力を持っているのが慣例だ―

―……でも彼女は……―

―そうだ、彼女の魔法属性は、聖ではなく妖精だ。……神聖家直系において、魔力を持たず生まれてくる者、また魔力を持っていても聖属性を使えない者。これらは皆『できそこない』と呼ばれ周囲から蔑まれるのさ―

―……なんだよ……それ! ――どんな差別だよ!! 人権蹂躙だろふざけんな!!―

―じんけんってなんだ?―

―この世界には無いモンだよ!!―

―相変わらず、意味不明なガキだぜ―


―……彼女は、どうなるんだよ?―

―神聖家としてはできそこないでも、若く可愛い娘だからな。政略結婚の駒としての利用価値はあるだろう―

―……大切にしてもらえるのか?―

―……さぁ? お偉いさんの結婚なんて、俺が知ってるはずもねぇ―

―……―

―……なんだ、惚れたか坊主―

―悪いか―

―即答か―

―……彼女といると、ほっとするんだ―

―だから守りたい、か? 健気だねぇ。どこの騎士様だてめぇは―

―からかうな。騎士なんかじゃねぇよ―

―……戦乱さえ続けば、騎士位くらい手に入るかもしれねぇぞ―

―……―

―ゼルモア神聖教国では、俺達傭兵の重用度は日々増している。正規の聖騎士団様々の質が落ち続けてるんだ、当然だな―

―どうせ手柄は、聖騎士団のものだろ―

―手柄はな。……だが見ているヤツは見ている。この国でもこの国の敵でも、お前の妙な知識とお前の使う妙な道具に、興味を持つやつは多いだろう―

―……―

―のし上がって欲しいものを手に入れたいなら、よく時勢と周囲、そして付く相手を見極める事だ。……利用できると思ったら、例え魔王だろうと躊躇うな―


―……団長、なんであんたがわざわざ、俺に忠告めいた事を言う?―

―お前を利用して、俺も稼ごうと思っているからさ―

―結局、自分のためかよ!―

―そりゃあ当たり前だろう坊主。それぞれが自分のために生きて、自分の欲しいものを求めて、そのために他人と手を結んで裏切って、助けて蹴落として。……それでこの世は、案外上手く回ってるんだぜ―



―……一応、頭には入れておくよ―

―俺が欲しいのは、俺が元の場所に戻る方法―

―……それから……笑顔の彼女と過ごす時間―

―どちらも手に入れる方法があるなら……俺はなんだってする―  

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