準備した?
扉が開いた。
ギィィィィ。いつもの音だ。。立て付け悪いのかな?取り替えようかな?まぁいい
「よく来たな勇——」
言い終わる前に勇者が走ってきた。
「はやっ!?」
いやちょっと待て普通、止まるだろ。
名乗るだろ。なんかこう、セリフあるだろ。いっつも待ってるじゃん律儀に。
何?今回は待たないとかあんの?
「おいちょっと待てって!」
聞かない。まっすぐ来る。
一直線。清々しいほどに。
「いやイベント飛ばすな!!」
剣が来る。防ぐ。
ギィンッ。
「お前せっかちすぎるだろ!!」
まだ何も言ってないんだけど!?こっちの見せ場なんだけど!
距離を取る。とりあえず落ち着こう。
「……あれ?」
気づく。
「お前、一人?」
周りを見る。誰もいない。
魔法使いもいない。僧侶もいない。前衛もいない。
「いや単身!?」
いやいやいや。
「普通パーティだろ!?ってか昨日パーティで来たよね?どうしたの?嫌われて愛想でも尽かされた?」
なんで一人で来てんの!? 勇気ありすぎだろ!! もはや勇気とかなのこれ?
……いや。
勇気とかじゃないなこれ。
「お前さ」
構えながら見る。装備。剣。
……まあ普通。
いや、少し弱いな。
鎧。
……軽い。
かなり軽い。
「いや軽装すぎない?」
で。問題はそこじゃない。
腰。道具袋。
ぶら下がってるやつ。
「……何それ」
中身見える。見えちゃってる。
だって雑に入ってるから。
棒。
「棒?」
いや木の枝だなこれ。完全にその辺で拾ったやつ。
あと蓋。
「鍋の蓋?」
いやなんで?盾じゃないよな?それ盾として使う気?
あとなんか。
石。
「石!?」
何に使うのそれ!?投げるの!?
「いやいやいやいや」
ちょっと待て。ほんとに待て。
「お前らの王様さ」
思わず言う。
「何考えてんの?なんて言われてここまできたの?疑問とかないの?なんかこう全てに対して。」
魔王討伐だよな?世界救うやつだよな?そのために全身全霊かけて勇者を一国一台の王が送り出してきたんだよね?
「それで渡されるのそれ!?」
棒!?蓋!?石!?
勇者は無言。ずっと構えてる。いや聞けよ。
「頭湧いてんのかあの国?そんな国を征服しようとしてんの?ならむしろ感謝してよ。」
金あるだろ。絶対あるだろ。
「国随一の鍛冶屋とかさ!」
「伝説の剣とかさ!」
「そういうのないの!?なくてもさなんかさあるじゃん!!」
勇者が動く。
「いや聞けって!!」
突っ込んでくる。最短。一直線。やっぱり速い。
防ぐ。軽い。
軽いが的確に当ててきてダメージが入る。
「うっ・・・」
振る場所が的確。無駄がない。
すぐ次。回転しながら斬り掛かってくる
同じピンポイントで当ててくる。飛び跳ねて勇者は体勢を立て直す。
隙を狙って魔王が無詠唱で紫の球を放つ。
球と球のわずかな隙間に体を捩じ込み避ける。
数ミリズレていたら致命傷だぞ。
「なんなんだよお前!!」
距離を取り、息を吐く。
「装備は終わってるのに」
構え直す。
「動きだけ完成されてるの何!?」
勇者は無言。
また来る。
一直線。
迷いなし。
「なんだこいつ」
勇者は止まらない。
距離を取って息を吐く。
「……お前さ」
構える。
「装備どうなってんの?」
弱い。明らかに弱い見た目をしている。
なのに。
「なんでそんな強いの?」
勇者は無言。また来る。
私は杖を振る。黒い稲妻模様の衝撃波を放つ。
広範囲に当たるはずが。
避ける。
「え?」
ギリギリ。紙一重。
「今の避ける!?え、絶対当たるようにこの部屋設計したんだけど。部屋の角にぴったりくっついてたら当たらないとか知らないんだけど。設計したの誰だっけ?締め上げないと」
次。もう一発。
角度を変える。
撃つ。避ける。
「あいつ、後で締め上げる!?」
勇者が踏み込む。
近い。もう目の前。
「ちょっと待てって!!」
その隙。勇者が入る。迷いなし。
「うわちょっ——」
連撃。一撃。二撃。三撃。
止まらない。反撃できない。
「いやちょっと待てって!!」
防げない。追いつかない。無駄がない。
「おい!!」
思わず叫ぶ。
「それ反則だろ!!」
私は距離を取ろうとする。
だが回り込まれてる。
「いつの間に!?」
逃げ場がない。
勇者が初級魔法を唱える。小さな火の玉が発される。
直撃で体がぶれる。
視界が揺れる。膝が落ちる。
「……え?」
何が起きた?いやわかる。
攻撃食らった。普通に。
でも。初級だろ?
なんで!?
立ち上がろうとする。
だがもう遅い。
勇者が来る。
「いやちょっと待て」
手を上げる。
「一回落ち着こう」
話そう。話せばわかる。
「お前強いのわかったから」
ほんとに。ちゃんと強い。
「だから一回——」
振り下ろされる。
直撃。
——落ちる。
床。
冷たい。
動かない。
「……は?」
負けた?今?これで?
視界の端。勇者が立っている。
無言で。
「いや……」
口が動く。
「それで勝つの?」
勇者は何も言わない。
くるりと背を向ける。
歩き出す。
迷いなく。
「……帰るの早くない?」
もう終わり?
確認とかしないの?
倒したかどうかチェックとかさ。第二形態があるとかさ。
扉が開く。ギィィィィ。
出ていく。すぐに。
静かになる。
「……え?」
玉座の間。
私一人。
倒れたまま。
「……負けた?私滅びるの?」




