いや、だからさ
——とある魔王の玉座がある広間——
「あのな、お前ら。魔王をなんだと思ってる?」
玉座に肘をつきながら、私は深いため息をついて目前まで迫っている勇者に問う。
「いや、わかるぞ。私は世界征服しようとしてるからな。だから討伐に来る。または戦争を仕掛けられる。やられても文句は言えん。そこまではいい。そこまではな?」
問題は——勇者だ。いや、勇者たちなのか?
「なんでお前ら、毎回同じ顔してるくせにやることバラバラなんだよ。え、お前ら同じ人間だよな。勇者ってそんなにポンポン生まれてくるあれじゃないよな?」
あるやつは正面から突っ込んでくるだけの脳筋。魔王に単純物理がそんなに効くと思う?無理だよ私もそんなに弱くない。
あるやつは延々と回復しかしない奴。勝ちも負けもしないから長丁場なんてもんじゃない。え、なにその感覚にハマったの?
あるやつは来る前にパーティの仲間殺して、なぜか一人で裸になって殴りかかってきた。
「いや意味わからんだろ。なんで裸なんだよ。一緒に冒険してきた仲間をいきなり殺して裸なんだぜ。その上、殺したやつの棺桶引っ張ってここまでくるんだぜ。しかも強いんだよ。わけわかんないくらい。私、魔王なのに手も足も出ないもん。裸の人間1人に対して。」
ほんとにどっちが魔王かわからなくなる。
「あとな、弱いくせに二百回くらい挑んでくるやついるだろ。あれ何?記憶なくなってんの?」
一回倒す。
二回倒す。
三回倒す。
「また来る。当たり前のようにくる。しかも強くなって戻ってくるとかじゃないんだぜ。もうずっと同じ強さ。勝てないって。」
いい加減にしろ。脳みそついてんのか
「こっちはそのたびにちゃんと“演出付きで”登場してやってんだぞ。あの長い階段登って、扉開けて、この玉座まで歩いてくるやつ。毎回付き合わされる身にもなれ。お前らだってあの間ちゃんと待ってくれるんだから考えろよ。まぁ今回ちょっと省いちゃってもうここ座ってるけど」
しかもだ。
「なんか知らんけど、お前らこっちの攻撃パターン完全に把握してくるよな?あれ何?私教えてないよ?」
一回目は当たる。
二回目も当たる。
三回目——急に全部避け始める。
「なんでだよ。さっきまで当たってただろ。まだちょっとずつ覚えていくとかならわかるよ。でも違うんだよ。もういきなり全部見切るんだよ。あれ一番イライラするわ」
挙句の果てには、こっちが必殺技撃つタイミングで全員防御してくる。
「見えてんのか?未来でも見えてんのか?見えてんのに負けんのか?じゃあもう無理だよ。私、未来見えないもん」
いや、それならまだいい。
「一番意味わからんのはな、“やり直してくるやつ”だ」
確かに倒したはずだ。
確実に息の根を止めた。
なのに——
「なんで同じやつが、さっきと違う動きでまた来るんだよ」
しかも装備も違う。
仲間も違う。
戦い方も違う。
「お前、さっきまで剣士だったよな?なんで次は魔法使いなんだよ。技って極めたりすんじゃないの?ハローワーク感覚で転職されてもさ、こっちもよくわかんなくなっちゃうよ。味方も違うって、え、なに?そっくりさん?そっくりさんって勇者になれんの?」
さらに言えばだ。
「こっちはな、よくわからん“ルール”に縛られてるんだよ。ルール!」
決まった順番でしか動けない。
同じ行動を繰り返す。
体力が減ったら決まったセリフを言う。
「“ぐ、ぐぬぬ……”じゃねぇよ。好きで言ってるわけじゃねぇんだよ。しかも行ってる途中で遮る奴いるよな。いや、もう無理だよそっちだけ好き勝手で。あれ私の真の姿見せる準備だからね。」
なのにあいつらはどうだ。
「アイテム使い放題。回復し放題。なんなら死んでもまた来る。死ぬの怖くないの?痛いよね一応?」
しかも最近は変なのが増えてきた。
「回復アイテム、戦闘中に百個使うやつ。どうやって持ってきてんだそれ。無理だよ。お前のポーチみたいなバックじゃ入んないよ。」
「鍛えすぎて、こっちの攻撃全部1ダメージになるやつ。やる気なくすわ。え、なに、俺倒したら平和になるよ?そのあとどーすんのそんな強くて?お前が魔王にでもなるの?」
「わざと弱い装備で来て、“縛りプレイです”とか言ってるやつ。知らんがな。普通に戦え。下着だけのやつとかさ、拳だけで戦ってくるやつとかさ、そいつらに負けてみ?もう部下と目合わせられないから。」
「最速で倒そうとして、開幕から全部ぶっぱしてくるやつ。ちょっとは会話しろ。なんか最初からゾーンみたいなのに入ってるし魔力全部使った攻撃とか最初に撃ってくるし。君らからしてもクライマックスだよここ?」
ほんとにうんざりする。
「なんでお前ら、そんな自由なんだよ。無理無理。付き合ってらんない。こっちだって体力無限じゃないから」
静まり返った玉座の間で、私は深く息を吐いた。
「こっちはな、ちゃんとルール守って戦ってるんだよ。悪いとは思うよ世界征服とか。でも他にやることわかんないもん。生きるためにはさちょっとそーゆーことしないとさ、ほら私、頭良くないし、そっちも必要悪ってやつ?いるじゃん。君たち勇者が仕事になってるのもそーゆーことでしょ?」
なのに——
「これ、公平じゃなくない?流石にこっちの負担ふえすぎだよね?」
誰も答えない。
当たり前だ。ここには私と目の前の勇者パーーティしかいない。こいつらもいつもと同じ顔だけど正気かどうかなんてもうわからない。
だから私は、ゆっくりと立ち上がった。
「なあ」
ぽつりと呟く。
「私も——フルパワーで戦っていいよな?」
部下を全部呼んでもいいよな?
何回でも挑んでくるなら。
「こっちも、“何回でも”やり返していいよな?」
にやりと笑う。
「勇者、お前がやられる番だ。」




