義人はいない。ひとりもいない
お久しぶりです。すごいマニアックな話になりますが読んでくれると嬉しいです。
古いイギリスの話になります。
アーサ王の仕事はなし。死んだとされるのが西暦539年と言われるので、それから20年近い後 イングランドの南地方が舞台になります。
1
義人はいない。
一人もいない。
悟りあるものはいない。
神を求める人はいない。
すべての人は迷い、みな、無益な者となった。
善を行うものは一人もいない。
一人もいない。
ローマ人の手紙三章十節より
2
「人を愛し、罪だけが残りました………」
彼の独白を響く。
きき届けよう。国を滅ぼした騎士の告解を。
ふと草が薙ぎ、優しい風がふいた。
3
銅貨が目の前にかけた碗に落ちた。
その、銅貨に刻まれたのは完全装備の王の姿。
……かの栄光の王………非の打ち所のない完全な王だった……
今でも思い出す。王が馬に乗り陣触れをする姿。
かつての残照であり、この国の多くの者たちが胸にいだく景色。
「貴方はいつまで、そこにいるのですか?」
私はその男に柔らかくほほえみかけた。
むかしは端正な顔立ちをしていた男は今は痩せこけ、襤褸布をまとい、麻布に巻かれた棒切れを抱きしめていた。
彼はぶっきりぼうに答える。
「……朽ち果てるまで……罪と体が朽ちるまで」
あわれむように私は袋から、黒パンを碗の中においた。
「よかったら、どうぞ? 私は修道士です……告解を行いますか?」
彼は死んだ瞳をむけ、彼は何も気にせずにだまり空を見あげた。
4
かつて、ブリテンとよばれていた国があった。
『英国教会史』には、穀物と樹木が豊富でブドウが実がなるところ。アザラシ、イルカらクジラなどが捕獲でき、真珠などが産する。
古代から『錫の国』と呼ばれるほど鉄、鉛、銀などの鉱脈が恵まれていた豊かな国であった。
しかし、蛮族が蹂躙がはじめる。
ケントの町では四千人ものブリタニア人が殺害され、数多くの戦利品が略奪される暴力の嵐だった。
『ブリタニアの破壊と征服』には、街々を大鎚で破壊してまわり、剣が光る中で民の殺され、遺骸は壊された建物に放置されたと書かれていた。
ブリテンの民に恐れ、英雄を求めてむせび泣いていただろう。
そんな蛮族軍をペイドン山にて破り、三十年の平和を勝ちとる奇跡を起こした王が顕れた。
『栄光の王』後にアーサー王とよばれる伝説………彼の治世はブリテンの民に反芻される理想となっていく。
しかし、彼の治世は跡継ぎの反逆により終わる。
形の上では不義理の息子がブリテンを支配することとなった。
彼は富を与え、略奪をみて見ぬふりをする惨めな王となりはてた。
いまは病み人のような惨めな国。
ただかつての王をなぐさめるだけ………
5
「義人は一人もいないのです……」
今日も私は説法を続ける。
説法を、物珍しそうに皆がながめていた。
そのなかには壁際で彼がいる。
ここが私の舞台なのだ。
エルサレムの彼の人のように私は見渡し、予言を告げる聖人のように高らかに手を広げる。
「 エレミヤの書に言われます。例を挙げれば、神がソドムの町を滅ぼした時、神はアブラハムにいいました。正しき者が十人いればこの街を滅ぼさないと………しかし、一人もいなかったのです」
明日をも知れず民は心の救いを求めている。
その教えは彼らのこころには深く刺さっているのを確信する……そうだ、もっと見て。
さすれば。私は神の御国に入ることができる。
荒れたブリテンを人々は私の話すソドムの街を脳裏をかすめだろう。
罪深きゆえにブリテンは蛮族に蹂躙されることになったのだと。
そんな彼らはキリストへと救いを求めていくことになるだろう。
しかし、そんな私の前に神の裁きがおとずれた。
剣を振り回す蛮族たちが浜から上陸したという。
鼻の下まで伸びる鉄の兜、その下の目には暴力に酔いしれ血を見ることを望む蛮族たちの顔がある。
「蛮族だ!! 逃げろー!」
その蛮族が剣を振るい。略奪をはじまった。
まるで、地獄のような世界。
暗い鉄の剣で男の脳天を割る、残酷な笑みで私たちをみおろしていく。
私は彼らの出現には目を丸くする。
かの栄光の王が亡くなり、このような蛮族の乱入がやたらふえた。
蛮族たちは金になりそうなものをはぎとっていく、衣服に鉄器、食料、女子供を連れ去っていく。
神父の自分などキリスト教会に売りつければ金になるだろう。
仲間内を守るために教会は必死になるはずだから。
早く逃げねなければ、 貸しを作ってしまう。
「神父だ!! 金になるぞ!!」
逃げようと動くなかで、あの男は座り込んだまま、ただその地獄をみているだけ。
男は反応もない。彼は殺されるだろう。
私はとっさに男の手をきぎる。
「早く逃げなさい!」
彼は焦点のないの瞳を向け、少し虚無的な笑みを浮かべる。
そうか、彼は死を望んでいた……だから………
背後から肩がたたかれていた。
「おお、神父さん。命を惜しむなよ」
終わりだ。教会に迷惑がかかる。ブリタニアへの布教は反対され、それを無視した私……もうこの地に戻れないだろう……
ふと、蛮族は傍らの男に目を向けた。
「とりあえず殺すか。ハハハハハハハハハハ」
蛮族が男の肩をつかみ、棒状の布に目を向け、目を輝かせた。
「おい、こりゃ、お宝かな?」
男がボロい麻布を剥がそうとした瞬間に、男は初めて動いた。
あまりにも自然な動きだった。手を伸ばすように無造作に。
結果、血が舞い、脳天がわれ、目玉が跳びはね男は崩れおちていく。
「なっ……なっ!!」
蛮族達は唖然と彼を見ている。
その手には白く輝く剣。
その輝かしい剣に蛮族たちは魅入られて、次々と彼へとすいよせられていく。
「それを………よこせ!!」
蛮族が鈍い鉄を諸刃の片手剣を振るった。
男はその手の白銀の剣を振るい、腕の骨を断ち切り、角の生えた鉄の兜ごと、脳天を割りさいていく……
その動きは疾風のようで華やかで鮮やかだ。
剣は蛮族のふるう鈍い灰色の片刃の刃でなく………特別な物だった……
私はその剣を知っている………拝謁した時に紫色のベルトから吊るされていた剣…………十字架のような細長い金の鍔、青い宝石の飾られた金の柄頭……白銀のように輝き、年輪のように沸わく剣身こそ………かつての王を象徴し、敗死後に消えた伝説の剣……そう……
「聖剣……カ……カリブルヌス……」
失われたブリテンの聖遺物だ。
カリブリヌスはいわゆる 後にエクスカリバーだったりします。こんな硬い調子の話なので見てくれるとめちゃ嬉しいです。
濃い話なので、好き嫌いあると思いますが、ナイス、コメントしてくれるとめちゃ嬉しいです。
たまにこういう話を書きますが、これからもよろしくお願いします〜




