聖女様は帰還中
最終話です。
ミリーは目の前のエディーの顔から目がそらせない。ものすごくにらまれてる。
「『あれ、エディー』じゃない。無茶するなって言ったよな?!」
「は、はいぃ。確かに~」
「それで、何でこの有様なんだ! 迎えに来てみれば、お前は犯人に着いてったって領主館は大騒ぎだ」
「エ、エディー、近い。顔が近いってば!」
ミリーがエディーの身体をぐいぐい押していると、ようやくみんながやってきた。アルとジェイで、放心したマシューを捕獲し、矢傷の応急処置をしている。フィルが、よろよろのエリーを抱えてやって来た。
「うう、舌噛むかと思った…」
涙目のエリーにミリーは助かったとばかりに声をかける。
「エリー!ありがとう、見つけてくれて」
「ミリー、大丈夫?」
お互いによろよろしつつも労う。
「もう大丈夫よ。ちょっと神力が足りないだけだから。エリーは?」
「ええ、なんとか。それよりちょっと!少しは加減しなさいよね!?ばかエディー」
「バカとは何だ。あのスピードだったから、間に合ったんだろうが」
「私は騎士じゃないんだから、あんなに馬のスピードあげるなんて信じられない!」
どうやらエディーはエリーを乗せて猛スピードで駆けて来たらしい。ミリーがフィルを見ると、フィルは苦笑しながら肩をすくめた。
「大体エリーがミリーを野放しにするから…」
「なんですってぇ?!」
つかみかかりそうになるエリーをフィルが押し留めた。
「2人共いい加減にしないか。で、何があったんだ、ミリー?」
フィルの問いにミリーはしぶしぶ答える。
「えーと、泉に来てから、マシューが遺物を泉の周りの石にさして、神力を注いで封印を解こうと…」
「ミリーの神力を奪ったのか?」
「…はい」
ミリーの答にエディーが目をむいた。
「この泉が全ての原因なんだな」
言うが早いか、エディーは腰の剣を抜き横に振り抜く。
あっという間に泉の周りの石は切り刻まれた。
「ああ!何をするんだ!封印が…僕の竜の角が…」
マシューが崩れ落ちてゆく。
「ふん、精々した。帰るぞ」
エディーはミリーを抱き上げると歩き始めた。ガックリしているマシューの前を通った時、ミリーが声をかける。
「マシュー…お兄ちゃん。封印した人達の気持ちわかるな。世の中に出さない方がいい物もあるんだよ」
ミリーの言葉がマシューに届いたのかは、わからない。ミリーとエディーが通りすぎると、マシューはアルとジェイに両横を支えられ、後に続いた。
しばらく歩くと細い道に出た。乗ってきたらしい馬が4頭繋がれていた。
その中の1頭にひょいと乗せられたミリー。
皆が乗り込むのを待ってエディーが後ろに乗って、出発した。後ろのエディーが怒っているのがよ~くわかるので、ミリーは口を開かないことにする。
途中で追ってきていた騎士団と私兵団に合流し、領主館に戻ってきた。
領主館では子供達が待っていた。
「先生!」
「せんせー」
女の子たちは泣いて喜んでいる。
「心配かけてごめんね」
ミリーはひざまずいて小さなローラとノアを抱きしめた。すがり付く小さな手がミリーの心を癒す。
「せんせー、後ろの人誰だ?」
癒しは興味津々なマックの声で断ち切られた。もうちょっと小さな手を堪能したかったが仕方がないとエディーの紹介をする。
「仲間のエディーよ」
「うわ~、本物の英雄だぁ!」
ヒューの声をきっかけに、子供達は大騒ぎ。いつもは冷静なベンも興奮気味だ。
ひとしきり子供達の相手をすると、エディーはミリーをひょいと引き寄せた。
「さて、悪いがそろそろミリーを返してもらうぞ。迎えに来たんだ」
「ええ~、せんせーかえっちゃうの?」
ローラががっかりしている。
「ちょっ、エディー?!」
「そうね、ミリーはもう帰った方がいいわ」
疲れた顔のエリーが言う。
「エリーまで~」
「今度は遊びに来ればいいだろ?」
「う、それはそうだけど~」
「じゃ、そう言うことで。エリー、転移頼む。アル、ジェイあとは任せた」
「う、うわ!下ろして?!歩けるから!みんな、また遊びに来るからね!ベン、もっと勉強したかったら王都へいらっしゃい、学校紹介するわ」
「はい、先生!」
「せんせー、またね~」
「バイバ~イ」
子供達の声に送られ、後ろ髪を引かれながらエディーに運ばれるミリーだった。
こうして、聖女ミリアムのちょっと変わった休暇は終わったのである。
これにて完結です。
お付き合いありがとうございました。