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お客様は神様ではありません  作者: 日咲


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3/3

神様

「ねえ、急いでいるんだけど?」


頭上からそんな言葉が降ってきた。自分の手が小さく震えるのがわかる。レジ台の上には山積みになった商品。


「ねえってば、早くしてよ、ったく」

そう言って悪態をついてくるのは30代くらいの女性だ。

(いや、急いでいる時に大量に買うなよ…)

そんなこと、口が裂けても言えるはずないから、心の中だけに留めておく。


朝の時間帯で、お客さんが急ぎたくなる気持ちもわからなくはない。ただ、俺はまだ初心者であることを示す印をつけているということを加味して欲しいと思ってしまう。もちろん、初心者だからといって客を待たせていいというわけではないことはわかっているが、俺からしたら多少多めに見てほしいという気持ちが前に出てきてしまう。


「大変お待たせいたしました。こちら商品でございます。」

袋詰めが終わって商品を渡すも、

「これ、テープで留めて。中身出てくるでしょ?」

と返されてしまった。

(ああもう、急いでいるんじゃないのかよ!)

かしこまりました、と言いながら思わずそんなことを思ってしまう。


店から出て行くお客さんの後ろ姿を見ながら、俺は、今日もまた一日が始まったことを自覚した。






「あ、ミア先輩、おはようございます」

最初の仕事であるレジ業務を終えてバックヤードに戻ると、ちょうどミア先輩が出勤してきたところだった。

あの日、ミア先輩に助けられて以降、俺の中で先輩は「怖い人」から「頼れる人」に変わっていた。

「…おはよう」

相変わらずぶっきらぼうだけど。


「あ、アレン君戻ってきたんだね。じゃあ次はこの仕事をお願いね。」

そう言って仕事道具を渡してきたのはここの店長だ。綺麗な白髪におっとりとした目を持つ、とても優しい人だ。

「わかりました、行ってきます」

ここでの仕事はレジ対応だけではない。賞味期限のチェックや品の補充、商品棚の整理などさまざまだ。



「よし、終わった。次は…またレジだ…」

店長に頼まれた仕事が終わってシフト表を見ると、次の時間はレジ業務に当てられていた。正直、俺はレジ業務が苦手だ。なぜなら、レジ業務はお客さんからのクレームを直接受けないといけないからだ。俺がもっと上手くできるようになればいいんだけど、できるようになるには数をこなすしかないし…


「いらっしゃいませ」

客が抱えてきた量を見て、心の中でため息をつく。

(なんで他よりも値段が高い店でこんなにたくさん買うんだよ…買える財力が羨ましいわ…)

「有料の袋はおつけしますか?」

(頼む、自分でやると言ってくれ…!)

「ああ、頼むよ」

(終わったぁぁぁ!!)

「かしこまりました、お一つでは入りきらないので、袋をお二つおつけしますね」

商品を機械にスキャンさせ、自分の手元に増えていく商品を横目に何をどう入れるか、保護袋に入れる必要のある商品はどれかを考えた。素早く、でも丁寧にやらないといけない。お客さんが目の前にいる状態で行うこれは、正直緊張感がやばい。


会計が終わり、あとは商品を袋に詰めるだけとなった。

(やばい、やばい…早くしないと…えっとこれはこうで、こっちはこうで…)

頭をフル回転させながら手を動かしていると

「あ、ゆっくりでいいからね。たくさん買ってごめんね…」

「あ、ありがとうございます!」

(神!!)

(神って、こういう人のことを言うんじゃないのか…?)


「大変お待たせいたしました、こちら商品でございます。」

「はい、どうも〜」

「ありがとうございました、またお越しくださいませ!」

いや、あの人神すぎん?この世には優しい人もいるもんだな。

なんて、呑気なことを考えていると、次のお客さんが来た。

しかも、また大量。


「いらっしゃいませ」

「袋、早くして」

(まじか…)


(神様ぁ、戻ってきて〜!!)

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