ミア=グラン
「袋はいらないって言ったでしょ!!」
甲高い女性の声が店内に響く。
(お、俺はただ善意で…)
そう思っても言葉が出てこない。
ー数秒前ー
「いらっしゃいませ、商品お預かり致します。」
俺は今日もワイナー通り、通称クレーマー通りのベルナ商会でバイトをしていた。レジに来たのは1人の女性。手には店内で作られた商品が握られていた。
「有料のレジ袋はおつけ致しますか?」
「いらない。」
「かしこまりました。では一点で銅貨3枚頂戴したします。」
店内で作られた商品は水漏れする可能性がある。そのため無料の保護袋に入れるという決まりになっている。だから俺は、お会計を待っている間に保護袋に入れようと思い、保護袋を手に取った。その瞬間、
「袋はいらないって言ったでしょ!!」
女性に怒鳴られた。
「あ、いや…」
説明しようにもその女性がものすごく睨んでおり、言葉がうまく出てこない。その時だった。
「お客様」
横から凛とした声がした。
「こちらの商品、水漏れする可能性がございます。そのため、無料の保護袋に入れさせていただきますね」
声の主はそう言うと俺の手から保護袋を取り、素早く商品をその中に入れた。そしてそのまま、女性からお金をいただき会計を終わらせた。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
(た、助かった…)
お客さんに怒鳴られてどうしていいかわからない不安と、理不尽にキレられて不満に思う心と、助けてもらった安堵感で感情がぐちゃぐちゃになり、そんなことしか考えられなかった。
「…アレンくん…だっけ。大丈夫?」
「ミア先輩…」
ミア=グラン、凛とした声に感情の見えない表情。ベルナ商会で働く先輩バイトだ。
俺はこの店で働き始めてから今まで先輩の笑顔を見たことがない。正直、少し怖い先輩だという印象を持っていた。
「は、はい…助けていただきありがとうございました」
先輩は、そう言って頭を下げる俺をじっと見つめると、
「…大変かもしれないけど」
少し間を置いてから、ミア先輩は言った。
「しっかり説明した方がいいよ。自分の身を守れるから。」
と言い、自分の業務へと戻っていった。
怖い印象を持っていただけに、そんなことを言われ、驚き以外の感情が出てこなかった。
(…もしかして、すごい人、なのかも…)
遠ざかっていく背中を見ながら、俺はそんなことを考えた。
(ていうか、案外優しいんだな…)
(…もっと笑えばいいのに)




