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仮面外れる時・02/14の未代

 バレンタインデー、乙女たちが少し大胆になるようなならないような日。

 楓にとったら……まあ普段通りか。本人に聴けば思い切ってチョコを多めに買った、とか言うんだろうけど。あのキスはかなり大胆だったが、バレンタインというよりバグってただけだ。

 その点、智恵理は大胆も大胆だ。本人にその気持ちがあるかは知らないけど、私の目から見ると相当に張り切っている。


「なあ智恵理、私にもあれやってよ」

「あれ、とは?」


 とぼけやがって、って気持ちもあるけどあえて濁して言っているからニブい智恵理は気付かないだろう。

 智恵理の背後に回って、肩を組んで、楓に向かって言う。


「悪いけど、智恵理が好きだから受け取れないよ……ってやつ」

「……なるほど」


 楓とのレースだったから楓ばっかり捕まえていたけど、あんなのを見せられたら、まあちょっとはしてみてほしい気持ちがある。私はそこまで智恵理からの愛に飢えてないけど、流石にちょっとジェラっと来る。


「バッカみたい」

「楓がずっと新鮮なリアクションで恥ずかしがってるからさぁ。私だって一度くらいはね」

「相手の子に失礼だし、茶化すみたいなのはよくないと思うけど」

「つってもこいつはずっと本気だし。そういう悪意じゃなくて誠実さだろ」

「全く……じゃ」


 ごそごそ楓がレジ袋から安そうなチョコレートを取り出し、それをこちらに差し向ける。


「受け取ってくださ~い」

「ありがとうございます!」

「あっ! 断りの練習用だって!」

「いやお前が渡せばそうなるに決まってるだろ! あーもう離さないぞこれは」


 結局、楓から智恵理にチョコが渡された。まあそこの見苦しい取り合いは特に気にしないでもいい。


「じゃ、なんかそういう断り方してもよさそうなやつがいたら頼むよ」

「わかりました」


 とは言ったものの。


「これ……受け取ってください! 八科さん!」


「八科……その、これ。別に変な意味じゃねーし」


「八科、これ、チョコ。今後もよろしくなー」


 ほとんどはバスケ部のメンバーらしいが、意外な交友の広さに舌を巻く。実際いろんな部活で競争をしていた分、いまだに智恵理のスポーツマンの一面に惹かれている人が多いのだろう。

 チョコを渡されるたびに智恵理から一瞥をもらうが、普通に断った。明らかにガチっぽいやつもいるからな。

 そういう相手でも智恵理は臆せずに好きな人がいることはちゃんと伝えている。改めて、その誠実さは毒のようだと感じた。あまりに強すぎる智恵理の個性が、他人には染められず、周りを傷つけていくように。


「全然言わせないじゃん、愛の言葉。ぷっ……」

「私は楓より乙女だから気持ちがわかっちゃうんだよな~」

「色気より食い気だよ」

「自分で言い出したらおしまいだぞ、マジで」


 楓は他人事みたいに眺めている。つっても、公園で遊ぶ子供を見る親みたいな感じだ。どこか微笑ましくて安心しきっているみたいだけど、子供のやることをどこか自分とは違うこととして見ているような。

 私とは別だ。自分だったら、なんてことばっかり考えていたけど。


「ちな楓はやらないの? 未代が好きだからチョコを受け取りませんって」

「誰が渡してきてもチョコもらうもん」

「性格わっりー」

「……そんな真剣に捉えるもんじゃないよ。チョコをもらうだのもらわないだの、一喜一憂して楽しむだけの日なんだから。そんな話ばかりしていると疲れない?」

「そりゃ……楓と疲れたいんだ。みんなでなんてことない日も大袈裟に楽しんでさ。私だって全く真剣なわけじゃないよ」

「ふーん。まあ私も割と参加する方だけどさ……」


 そりゃそうだ。わざわざクラスメイト全員に配る用のチョコを買っている女が、そんなに冷めた考えている方が驚く。


「……あんまりやる気がないの、未代と智恵理は身内みたいなものだからかな? ふふっ、恋人になったら恋人らしいことしなくなるの、フラれるやつかな」

「…………いや、私はときめいた。楓はそんだけ私たちのことを親密に想ってくれているんだな」

「はいはい。恥ずかしいのはもうなし」

「えー? もう少し浮かれたいけど」


 結局、帰るまでに智恵理がもらったチョコは四十を上回った。


―――――――――――――――――


 笑顔で帰宅して、その傍らには智恵理と楓もいる。

 いた、うってつけのチョコ断り相手。


「夢生帰ってる~?」

「なにお姉。……!? な、なんで八科先輩いるの!? 先に言ってよ! ちょっと待って着替えて、あと、あと」

「直接渡した方が良いと思って、ほら」

 

 実は、夢生から八科に渡す用のチョコもあり……もう言わなくてもわかるだろう。


「は、八科先輩! あのっ! すみませんこんな格好で! これ、私からの……」

「……すみません。私は未代を愛しています。なので受け取れません」

「ホ……ギャァ゛ー!!」


 夢生は倒れた。


「あはっ! あはははっ!! 聴いた!? ギャーなんて言って倒れるか!?」

「どの口が言ってんだか……まっっったく同じように倒れてたからね、さっき」

「え? うそぉ? いつ?」

「私が……いや、なんでもない」

「えー気になる。まいっか。ウケたし。ほら夢生。お姉さまからの愛情チョコだぞ」

「オマエユルサンカラナ……」

「こら、お前なんて言わない」


 倒れている夢生の体を起こそうとしたが、完全に体から力が抜けている。まあ汚い廊下じゃないけど寝転がるのは見栄えが悪い。

 と手間取っていると智恵理が力を貸してくれた。


「代わりに、粗末なものですが……」

「ちょっと、元は私の」


 智恵理が、楓から借り受けた一粒のチョコを渡した。返すように、かつ楓との兼用の一粒だ。

 サイコキネシスで体が浮かび上がったのかと思うほど、夢生は跳ね起きた。


「家宝にします!」

「しねーよ」


 不破家に変なものが納められるのを阻止して、その日は軽く遊んで終わった。

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