第45話 魔法少女ユイカ
魔法少女ユイカは、心優しいは魔法少女だ。きっと、ユイカを知る者なら皆口をそろえてそう言うだろう。
それは何も対人においてだけではない。魔法少女として人々を救いながらその優しさは敵である怪物にも向く。
倒された怪物。傷口は広がり、後は死を待つだけの怪物に最後まで手を差し伸べるのは彼女だった。
果たしてそれが怪物への救いだったかはわからない。本来の優しと言えるのかすらわからない。それでも、彼女は見捨てられなかった。
ある日、いつものように怪物が倒された。それはユイカが初めて魔法少女として活躍した日のことだった。
一緒にあたったヒメカが怪物をその斧で両断するとすぐに背を向けた。怪物からは黒いすすのような煙が立ち込めている。
「ユイカー! 終わったから帰るわよ」
ヒメカはユイカの手を借りずに一人で怪物を討伐してのけた。魔法少女としては慣れないことが多いユイカにとってそれはとても魅力的に映った。
しかし、ユイカはそんなヒメカの後には続かずに、消えようとしている怪物のそばに近寄った。
「ちょっとー何してんのよ? 早くしなさい」
なぜ、そうしたのかはわからない。何となく苦しむ怪物へ向かってユイカはその手をかざした。柔らかく淡い光が怪物を包み込む。
浄化の魔法。
過去の魔法少女はこの魔法を怪物に向かって使ったことがない。ただ、ユイカは気づけば苦しみながら消えかけようとする怪物に手をかざしていたのだ。
苦しむ怪物の動作が、穏やかになった気がしたのは気のせいか。同時に、ユイカの心がどこか満たされる感じがした。
後ほどわかるが、浄化の魔法を使いその苦しみから解き放った時、ユイカの心の奥底でそれを感じ取り、いつしか安心感のある喜びとなっていく。
魔法少女ユイカは、そんな稀有な魔法少女だった。
しかし、それは仇となり自身の身を滅ぼす結果となった。
「このまま、怪物と戦い続けるのは何かいたちごっこというからちがあかない気がしませんか?」
そう言われたのがきっかけだった。怪物は原因もわからぬまま生まれ続ける。魔法少女はいくら脱する人間がいても埋め合わせのように新たに魔法少女となる。
根本的な解決にはなっていない、そう愚痴をこぼすだけで良かったはずなのにユイカは夢見てしまったのだ。
怪物を浄化することによって他魔法少女より触れていた彼女だからこそ行きついた夢だったのだろう。怪物という存在にいつしか感情移入を施し、この終わりなき戦いを終わらせようとした。
それが怪物との共生、怪物を救う、などという夢物語だとしても。
貴方ならできる、そう言ってくれた仲間の言葉を思い返しながら、彼女は魔法少女ユイカとして生き抜こうとした。
──私は、魔法少女を辞めます。
魔法少女ユイカの人生はその言葉で幕を閉じる。
「……!」
重い瞼が持ち上がる。息をのむと、エルザは素早く立ち上がった。
「一体何をしているのかしら……」
夜道に一人倒れこんで気絶してしまったことを理解し、ため息をつく。
そして、脳裏に焼き付いた星空が浮かび上がった。そして、ユイカの横顔が思い出される。
思い立ったようにエルザは顔を上げた。輝く一つの星が目に入る。しかし、それはどこか不規則に見えこちらに近づいてくるように錯覚した。
「……?」
『エルザ!』
聞き覚えのある声とともにそれは目の前に降下してくる。
「……メルル?」
それはメルルだった。エルザの目の前で急に飛行を止めると周りを慌てたように飛び回る。
「落ち着いて頂戴。怪物の出現かしら?」
どちらにせよ、こんな夜間に外に出ている魔法少女はエルザのみだ。そのため、夜に怪物の出現情報は聞かされないのが多いが。
『……ユイカが! ユイカが!』
言葉がつっかえてしまっているがその名でエルザの顔色はさっと変わる。どことなく厳しい口調になりメルルと向き直った。
「ユイカに何か起きたというの? 早く教えて頂戴」
メルルはエルザの視線を合わせる。そして、その大きな瞳をせわしく動かせながら口を開いた。
『ユイカの契約が解除されたんだ……』
「つまり……こういうことかしら」
『「ユイカは死んだ」』
頭の回転の速いエルザはメルルにかぶせる形で言葉を発した。そして、瞳を伏せると小さくつぶやく。
「……私が止めていれば」
『……? 何か知っているの?』
「いえ、何でもないわ。しかし困ったわね」
気を取り直すようにエルザは淡々と続ける。
「また一人欠けてしまっては再び合体魔法は難しくなる。それに、回復係が欠けたことは問題だわ」
『……今のところ、怪物出現はないんだ。ユイカは怪物と戦って死んだわけじゃない、と思ったけれど……』
「何を言っているの? それ以外に何が──」
そう言いかけたが、エルザは眉をひそめたまま、まさか、と呟く。
「自殺とでも言いたいわけ?」
『わからない。わからないけど、怪物と戦っていたならボクも知っていたはず』
「断定はできないわよ。貴方は植物園での怪物出現に気づいていなかったらしいわね。ミライが言っていたわ」
『……そう、だけど』
そして何より、エルザは確信した。目の前でユイカは連れ去られたのだ。
「メルル。怪物出現の情報は鵜吞みにしないことよ」
『そんなこと言ったってこれはボクの持ってる反応センサーだから……』
「信用ならない、と言っているのよ。怪物との戦いに遅れたこともそうだけれどルヴァルトのように引っかからない敵がいる以上、使い物にならないと思った方がいいわ」
『ルヴァルトは死んだよ』
13人で葬った。しかし、エルザはその言葉に首を縦に振らなかった。
「……さあ、どうかしらね。用心はしておくことよ」
『……やっぱり何か知っているの?』
「それは後で話すわ。とにかく今はユイカを探しましょう。もしかしたら──」
元魔法少女の存在を確認した以上、契約破棄がそのまま死亡に繋がるわけではない。一抹の希望、ともいえるがエルザは心の奥底でそれを否定する。
「……いえ、何でもないわ」
不審がるメルルを置いてエルザは歩き出す。
「一応聞いておくわ。新たに魔法少女を埋めるのはどうするつもりかしら?」
『えっ、そんな、まだ考えてないよ! 今はユイカので精一杯……』
「そう」
『どうして、そこまで先を考えられるんだい……?』
エルザはその問いには答えない。
彼女の胸中のわだかまりは、ユイカの不在からなる打撃だろうか、それとも魔法少女としての均衡の崩れだろうか。
ふと、心臓が脈を打つのを確かに感じた。
メルルは慌ててその後ろをついていく。彼の脳内にはユイカ裏切りの真実を淡々と突き付けた冷酷なエルザの姿のまま残っていた。
──翌日、魔法少女ユイカ改め植草唯華の死亡が確認される。死因は自死であった。
第二章、これにて閉幕です。
第一章終了時と同じくしばらく更新を見送らせていただきます。私事となりますが学業関係や単純にストック不備となります。申し訳ございません。
第三章はさらに暗雲立ち込める内容となりますが、一番書きたかった展開を描こうと思っているのでぜひ楽しみにしていただけると幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました!




